第1406話 やると言ったらやる男

 マイアからグルースの香水をもらう。


 目薬の入れ物くらいの小瓶を作る職人がいることに衝撃を受けてるが、今はそれを横に置いて、グルースの香水を二リットルくらいまでデカくする。


「また非常識な力を披露するわね」


「これはオレの力じゃねーよ。借りてるだけだ」


「借りてる力ってなによ。どっちにしろ非常識じゃない」


 マイアもキツくなったものだ。昔……もキツかったでしたね。


 無限鞄から空瓶をいくつか出し、土魔法で分解。小瓶へと再構築する。


「本当に非常識よね」


「これは技術だ」


 土魔法は材料さえあればそう難しくねー。まあ、できるまでには創意工夫があったけどな。


 三十ミリリットルくらいの小瓶にグルースの香水を分け、四十三個できた。


「ジャックのおっちゃんのところで売るようにしろ。あまりはもらうな」


 メイドさんたちに使ってもらって気に入るか試してみようっと。


 小瓶を無限鞄へと仕舞った。


「あと、これはゼルフィング商会の商品として、ゼルフィング商会が卸す。マイアが個人的に作って売る分には口は出さねー。いいな?」


「うん、いいよ。作る手間が減って助かるし」


 と言うことでグルースの香水はゼルフィング商会のものとなりました。


「グルースの香水をジャックのおっちゃんに渡したらオレは帰るよ。温室は創っておくからマイアの好きにしろ。魔女派遣は色っぽい魔女さんに任せる。マイアと相談して上手くやってくれ」


 それはオレの管轄外。かかわる気はねー。


「ライラ、ミレンダ、ミラ。わたしはしばらくここにいるから館長に話を通しておいてちょうだい」


「残るならあの部屋を好きに使いな。なにかあれば支店長に言いな」


 万が一のときのためにシュンパネと金を渡しておく。この貸しは叡知の魔女さんに返してもらうけど。


 温室を出ると、さっきの女子が待ち構えていた。


「あ、あの、どうでした?」


「ゼルフィング商会で卸すことに決まった。ジャックのおっちゃんのところで売るようにしたから広めてくれ」


 小瓶を一つ出して女子たちに一つずつ渡してやる。


「売るなり使うなり好きにしな」


 どちらにしろ宣伝になるし、数が増えれば価格も落ちる。女子たちに一つずつプレゼントしても大した問題にもならんやろ。


「そう言うことするから狙われるんですよ」


 狙われたら返り討ちにしてやるさ。


「いや、そう言うことではなく、たまに天然になりますよね、べー様って……」


 なんのこっちゃ? オレ、天然なんて言われたことねーぞ。


「いいです。べー様はそのままで」


 よくわからん幽霊だな。


 まあ、気にせずジャックのおっちゃんのところへと向かった。


 今日も今日とて繁盛しているドラッグストアー。商品仕入れとかどうしてんだろうな?


 接客しているの待ち、終わったら話があるとジャックのおっちゃんを奥へと連れていく。


「街の外に温室を創ることになって、その応援に魔女が何人か来る。マイアが仕切ると思うが、なにかあれば協力してやってくれや」


「ほんと、お前がかかわると事が大きくなるな」


「オレは望まれたことを叶えてやってるだけなんだがな」


 なぜ叶えてやる立場が責められるか意味わからんわ。


「あと、ゼルフィング商会としてグルースの香水をジャックのおっちゃんのところに卸す。六四でどうだ?」


「ゼルフィング商会が六か?」


「ああ。破格だろう?」


「普通、八二だろう?」


「そこはオレとおっちゃんの仲ってことで」


「お前が譲歩するときは絶対裏があるときだ」


 やはり見抜かれてるや。


「数年後、バリアル領を乗っ取る。だから、おっちゃんには商人たちに根回しして欲しい。こちらには大老どのや国の宰相、王都の大商人、裏のもんがついている。なにより、ゼルフィング商会が次期伯爵候補を擁護している。味方になってくれるなら悪いようにはしねーってな」


 支える下がいてこそ上は輝くもの。なら、下から崩していきましょうだ。


「お前は、絶対権力とか持っちゃダメなヤツだよな」


「だから権力は持たずに伝手を持っているのさ」


 権力なんざ持たなくても権力を持つ者と友達になるほうが早いし楽ってものだ。


「ハァー。わかった。わかったよ。お前が動いたら絶対そうなるしな」


 オレはやると言ったら絶対にやる男。二言はねー。


「ってことで、よろしく頼むわ」


 グルースの香水を置いてジャックのおっちゃんのところをあとにした。

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