第1405話 一心同体

 温室の中は色とりどりな植物が生っていた。


 大体のものが薬の材料となるものだが、ラーシュからもらった南の植物も植えてある。


「これ、マイアが育てたの?」


「はい。自分で言うのもなんですが、結構苦労しました」


 苦労して生らせるものではねー。マイアの魔法が生らせているのだ。


「マイアには植生魔法が使えるんだよ」


 植生魔法とはオレが命名したものだが、植物を育てる魔法を使えるのだから間違ってはいねーはずだ。


「植生魔法?」


「これは根拠のねー考察だが、マイアにはエルフの血が少しばかり流れているんだと思う。エルフには植物を操るヤツがいるっぽいからな」


 マイアは完全に人の姿をし、成長も人だ。だが、植物を育てる魔法なんて使えるヤツはいねーと、旅の魔術師やバリラが言っていた。


「魔女の中に、植物を育てる魔法を使えるヤツっているかい?」


「土魔法の流れで育てる者はいるけど、こんな立派に育てることなんてできないわ」


 またマイアの価値が上がった感じだな。


「植生魔法ね。他にはなにが使えるの」


「土魔法と一般魔術です」


「あなたが教えたの?」


「基礎の基礎はな。あとはマイアの創意工夫だ」


 この温室を創ったのはオレが七歳のとき。五歳のマイアに教えることなんてたかが知れている。うちの天才児ほどではなかったからな。


 あとはマイアに任せ、オレは結界温室の具合を確かめた。


 結界も複雑なものにすると不具合や劣化を起こしたりするし、まだ未熟なときのものだから創りが甘かったりするのだよ。


 改造と強化、仕様を長期に変えてハイ、終了。あと三十年は保証するぜ。


 マイアと魔女さんたちのおしゃべりはまだ続きそうなので、温室の植物を観察する。


 どれも見事に生っている。


 植生魔法での効果もあろうが、土も腐葉土や肥料をイイ感じに混ぜられている。九歳がやれる域じゃねーよな。


 温室から出て、外の畑も見る。


「あの、温室を創ったべーって人ですか?」


 見てたらオレと同じ年齢くらいの少女たちがやって来た。なんや?


「ああ。そうだよ。ボブラ村のべーだ。あんたたちは?」


「温室で働いている者です」


 まあ、小さいとは言え、テニスコート一面分はあり、外には四倍の畑がある。マイア一人では面倒見切れんわな。


「それはありがとな。マイアを助けてくれて」


 マイアは妹のようなもの。助けてくれてる者には感謝しておかねーとな。


「いえ、お給金もらってますから」


「それでもマイアを助けてくれてることには変わりはねー。兄みたいなオレからしたら感謝しかねーよ」


「べー様ってたらしですよね」


 はぁ? なんでだよ? オレは誰もたらしてねーだろう。なに言ってんのよ?


「あ、いえ、あの! それより、温室をもっと大きくしてもらえないでしょうか?」


「ん? またなんで?」


 大きくするのは吝かじゃねーが、なんで働いてるヤツが言うんだ?


「グルースを増やしたいんです」


「グルース? って、花のグルースか?」


 確か、南の大陸の花で、香水の材料となるものだったはず。


「今、バリアルの街ではグルースの香水が人気なんですが、温室では一本しか植えてないので品薄なんです」


 ふ~ん。香水ね~。王都でも匂い袋が流行ってたが、香水も人気があるものなんだな。


「香水って、いくらなんだ?」


「小瓶で金貨二枚です」


「金貨二枚? 誰が買うんだよ、それ!?」


 小瓶つっても三十ミリリットルくらいのはず。それで街に人気になるって意味わからんわ。


「今、香水はあるか?」


「マイアなら予備を持ってるかも」


 と言うので温室へと戻る。


「マイア。グルースの香水あるなら見せてくれ」


 魔女さんたちとおしゃべりしている中に無理矢理入り、グルースの香水を求めた。


「まったく、ミラたちは」


 マイアにも陳情はしていたようだ。


「あまりグルースを増やしたくないのよね。匂いがキツくてわたしは嫌いなのよ」


 まあ、匂いに敏感なヤツには辛いだろうな。薄いならイイ匂いなんだが。


「だが、困ってんだろう? 増やせないかって」


「まーね。けど、他を減らすのこともできないし」


 だから大きくしろ、か。


「街の外にゼルフィング商会の飛空船場ができたのは聞いてるか?」


「うん。べーがやってる商会って聞いた」


「その近くに温室を創ろかと思ってたんだよ。だが、ここを潰すのも偲びねーし、マイア一人では大変だろうと悩んでたんだよ」


「うーん。確かに新しい温室は魅力的だけど、ここを潰すのは嫌だわ」


 まあ、オレの力なら移動させることも難しくはねーが、働いてる者まで街の外に連れていくのは難しいだろう。ましてや若い女を雇ってるんだからな。


「べーくんが許してくれるなら魔女を派遣してもいいわよ。魔女にも植物に詳しい者がいるから」


「これ以上、魔女を他の国に出してもイイのか?」


 この国は人外が影で仕切っている。帝国もそれは知ってるはず。ましてや魔女なら危険を知らないわけがねー。


「だからべーくんの許可を求めているのよ。あなたはこの国でも重要人物とされているわ。交換留学ができてるのもあなただからよ」


「いやオレ、村人なんですけど」


 って言ったら鼻で笑われました。ま、まあ、イイけど!


「わかった。ただ、バリアルの街では魔女は隠せよ。マイアも隠せよ」


 アリーのこともある。バリアル伯爵にはまだ知られたくねーんだよ。


「なんでよ?」


「ゼルフィング商会を隠れ蓑にしてバリアル領乗っ取りを考えてるからだ」


「……そんな怖いことわたしに言わないでよ……」


「魔女を知っている時点でお前はもうこちら側なんだよ。覚悟決めろ」


 皆同罪。成功するときも失敗するときもオレらは一心同体である。

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