第1404話 温室

 支店長さんに任せたことで、オレのミッションコンプリート。さあ、村に帰るべや。


「温室にはいかなくていいんですか?」


 あ、そうだった。忘れてた。


 イカンイカン。アリーのことでマイアのことすっかり頭の中から溢れ落ちてたわ。スケジュール管理、あざーす!


「……幽霊をそんな風に扱うの止めてくださいよ……」


 じゃあ、幽霊をどう扱うのが正解なんだよ? どこぞの音声検索と同じだろうが。


「なにか凄く侮辱された感じがするんですけど」


 オレ的には褒めてるんだけどな。突っ込み機能は排除して欲しいけど。 


 どこでも部屋で一泊。九時くらいには目覚められた。


「……あんたら、自分の部屋で寝ろよ……」


 目覚めると魔女さんたちが雑魚寝していた。


 宿屋に部屋を取ってるのに、なぜどこでも部屋で雑魚寝なんだよ? 部屋代もったいねーだろう。


「……おはよう……」


 オレが起きたことに反応してか、魔女さんたちも起き出した。


「なんでここで寝てんだよ?」


「ここが暖かいからよ」


 あーうん、冬だもんな。暖房器具もなけりゃ氷点下にもなるわな。


「帝国の冬は寒いのかい?」


「寒いわね。大図書館は暖かいけど」


 さすが魔女のいるところ。温度管理がいき届いているようだ。


「おはようごさいます」


 と、クルフ族のメイドさんが入って来た。


 ……なんか宿屋がゼルフィング家に乗っ取られてそうだな……。


「朝食になさいますか?」


「ああ。頼むわ」


 そう言って風呂へと向かう。昨日、風呂入るの忘れたわ。


 すっきりさっぱりして戻って来るとテーブルに朝食が用意されていた。ご飯に味噌汁って、誰のチョイスだ?


「いただきます」


 まあ、こんな朝食もイイだろうと、ありがたくいただいた。


 魔女さんたちも不思議に思いながらもフォークを使って食べている姿ってのも奇妙なものだ。


 朝食が終わり、食後のコーヒーをいただく。


「温室にいくのかしら?」


「ああ。昼前にでもいってみるよ」


 別に急ぐこともなし。腹が落ち着いてからで構わんやろ。


「そういや、薬の材料は手入れられたのかい?」


「ええ。お返しはちゃんとするわ」


「それは助かるよ」


 薬師として材料はストックしておきたいからな。


 十一時頃までゆっくりしてから宿屋を出た。


「えーと。どっちだったっけな?」


 もう一年以上、温室にいってねーから道順を忘れっちまったわ。けどまあ、結界の反応はわかるから、そっちに向かえばいずれ着くだろうよ。


 なんて軽い気持ちでいったら結構迷ってしまった。こんなに複雑だったっけ?


 人に尋ねながらなんとか温室までやって来れたが、なんか畑が増えてんな。前はボロ小屋があったはずなのに。


「冬なのにミセギの花が咲いているわ。それに暖かいわね?」


「火の石を使ってるからだよ」


「火の石?」


「魔力を込めると熱を発する石だよ。火竜から取れるものさ」


 年齢により石のサイズは違うが、大きいのだと人の頭くらいあり、魔力が石いっぱいになると火を出したりする。


 そこそこに調整すれば夏に咲くミセギの花も冬に咲かせたりできるのだ。まあ、咲かせたのはマイアの腕によるところ大、ってところだろう。


「誰だ!」


 と、作業していた男に誰何された。


「オレはベー。ボブラ村のもんだ。そこの温室を創った者だ。マイアに会いに来た」


 オレのことは聞いてるはず。こんな摩訶不思議なもんを創ったヤツなんだからよ。


「あんたがベーか。子どもとは聞いてたが、本当に子どもだったんだ」


 まあ、子どもが創ったとは思えないわな。


「マイアさん! お客さんだよ!」


 三十くらいの男がさん呼びか。マイアのヤツ、どんな位置にいるんだ?


 何度かの呼びかけで、温室からマイアが出て来た。二歳下なのに、すっかり女っぽくなって。どんだけ成長してんだよ。


「べー。久しぶり。やっと来てくれたわね」


「ワリーワリー。いろいろ忙しくてな。温室は順調か?」


「順調よ。ただ、順調すぎて手狭になってきたわ」


 昔から植物を育てるのが異様に上手かったが、結界温室を与えたことで覚醒したようだ。


「そちらの女性は?」


「魔女だよ」


 ジャックのおっちゃんが知っていたのならマイアにも魔女のことは伝わっていることだろうよ。


「魔女? バイオレッタ様の同胞の方?」


 なんでオババの名前を知って、過去を知っているのに、オレはなにも知っていないのだろうか?


「興味がなかったからでは?」


 あ、はい。そうでした。


「ああ。帝国の魔女だよ」


「凄い凄い! 本物の魔女なのね! 凄ぉ~い!!」


 なにやら魔女に強い憧れがあったようだ。


「魔女さんらに温室を見せてやってくれや」


「もちろんよ! あ、あの、わたし、マイアです! 魔女に憧れてたんです! お話訊かせてください!」


 これはちょっと不味いな。マイアを引き抜かれるフラグっぽい。


 色っぽい魔女さんの目がちょっと輝いたのをオレは見逃さなかったぞ。


「わたしでよければ。あ、わたしはコリアント。コリーと呼んでちょうだい」


 完全に引き込む態勢に入ったな、こりゃ。


 まっ、なるようになる。少し様子を見るとしようかね。


 はしゃぐマイアに腕をつかまれた色っぽい魔女さんに続いて温室へと入った。

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