第1407話 ラッキー

 支店への帰り、キャンピングトレーラーを片付けた。


「どの辺に温室を創るの?」


「それは支店長さんと相談だな」


 小人系の飛空船は垂直離着陸ができるから飛空船場はそれほど広くはねー。だが、あまり周りに建物があると、降りるのに気をつかう。変な風が吹いて離着陸ができなくなるかもしれねー。


 まあ、墜落しても浮遊石と魔力炉での飛行なので爆発することはないが、落下の衝撃で破片が飛ぶことはある。その破片で温室が壊されることはなくても外に出ていた者が被害を受けるかもしらねー。


 だから、安全のためにも飛空船場から三百メートルくらいは離す必要はあるだろうよ。


 支店長さんのところへ向かうと、婦人が来ていた。あ、お久しぶりです。


「あなたはまた大事にして」


「アリーの友達を拉致してくるほうがお好みだったか?」


 オレとしてはそのほうが楽で助かるんだがな。


「穏便に、と言う発想はないんですか?」


「だったら穏便な発想を示してから言ってくれ、だよ」


 オレは人に丸投げしたらその結果も受け入れて、失敗したのなら責任を取る覚悟もある。苦情だって言わねーよ。


「それに、バリアルの街のもんには害は出してねー。害が及ぶとしたらバリアル伯爵とその周辺だけ。さらに言うとバリアル領がこちらの手駒になればゼルフィング商会としても、ヤオヨロズ国に取っても利になる。なにより、アリーが望んだことだ。家族として受け入れたならオレは全力で応援する質なんだよ」


 サプルの我が儘を叶えるより楽ってものだ。


「はぁ~。そうでした。あなたはそう言う性格でしたね」


「婦人に理解されてなによりだ」


 オレの性格、なかなか理解してくれる人いないからな。


「諦められているとはお考えにならないので?」


 人とは都合のイイことしか受け入れない生き物なのだよ、レイコくん。


「支店長さん。飛空船場から離れたところを拓いて温室──建物を創るから面倒な手続きとか任せるよ」


 オレではバリアル伯爵も嫌がるだろうからな。


「わかりました。お任せください」


「できる支店長さんでなによりだ」


「この人の前で有能さを示すと夜も眠れないくらい仕事を押しつけられますよ」


「婦人、眠れてねーのかい?」


 肌艶がよろしいようにお見受け致しますが。


「……眠れています……」


「できるヤツは眠ることができるというイイ証明だな。支店長さんもよく眠りよく食べて大いに出世してくれ。なんならゼルフィング商会を乗っ取るくらいの野望を持ってもイイぜ。そのときは全力で媚びへつらうからよ」


 なんなら足にキスしてもイイぜ。


「傀儡になる未来しか見えませんな」


「それがわかる支店長さんはできる男だよ」


 よくこんなできる男が無名でいたものだ。そんな男を引き抜けたオレ、ラッキー!


「じゃあ、いろいろ頼むわ。婦人。支店長さんの給料上げておいてよ」


「わかりました。まあ、使う暇もないでしょうけど」


「商人なら金を使って経済を回せや」


 まあ、使う使わないは支店長さんの自由。好きにしたらイイさ。


 支店長さんや婦人の前から去り、温室に適した場所を探しに出かけた。


「どこにするんです?」


 なんだかんだとついて来る魔女っ娘三人組。ご苦労なこった。


「そうだな。可能なら川の近くがイイんだが、まあ、井戸を掘ればイイか」


 バリアルの街は盆地。四方に千メートル級の山に囲まれている。掘れば地下水脈にぶち当たんだろうよ。


 小川はいくつかあったが、水量がいまいち。引き込むより掘ったほうが楽だな。井戸掘りは何回もやったし。


「魔女の魔法に水脈を見つけるのってあるかい?」


「……あるとは聞いた。でも、わたしたちは知らない……」


 そばかすさんとツンツインテールが見詰め合って記憶を探っていたら、サダコがボソボソと答えた。ただの解剖狂ってわけじゃないらしい。


「まあ、見習いじゃしゃーねーか」


「あなたは知ってるの?」


「知らんな。だが、土魔法の応用で探すことはできるな」


「そんなことできるの!?」


 土魔法を嫌がる割にはグイグイ来るツンツインテールさん。


「慣れが必要だけどな」


 魔法は直感だから説明が難しいが、土を感じてるとたまに空白が感じるときがある。その空白は空洞だったり水脈だったりするのだ。


 ツンツインテールに土を移動させる魔法を使わせながら広域を広く、そして、地下へと向けさせる。


「土が移動する感覚はあるだろう?」


「え、ええ。感じるわ」


「いろいろ動かしていると空白、突然魔法が抜けるような感覚があれば、そこは空洞か水があることが多い。考えるな、感じろでやっていけばわかるようになっていくよ」


「──あった! 抜けたわ!」


 さっそくかい! 天才だな、ツンツインテールさんは!


「どう? 水かな?」


 オレも土魔法で探ると、水脈っぽい感じがした。


「水だな。それもかなり多い水脈っぽい」


 深さはざっと三十メートルってところかな?


「じゃあ、この辺にするか」


 支店から四百メートルほど離れてしまったが、道を整えれば馬車移動もできるだろうよ。


「ツンツインテール。土魔法で草木を排除してみろ」


 一応、手本を見せてやる。


「できるな?」


「え、ええ。なんとか」


 ツンツインテールさんはやはり直感の人っぽい。口で説明するよりやって見せたほうが理解できてるよ。


 さて。オレもキャンピングトレーラーを置ける場所を作りますかね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る