第1403話 私利私欲

 アリーが伯爵を目指すのは決定として、友達に会いたいと言う願いをどうするかだ。


 簡単に考えたら、友達やらを拉致ってきたら早い話なんだが、それではアリーの立つ瀬がねーだろう。


 会うんなら正々堂々と。大義名分の下、友達やらと会わせるのがベストだろうな。


 だが、そんな都合のイイことあるか? アリーの名を出さずにバリアル伯爵の目を誤魔化し、友達をアリーに会わせる名目が?


 夕食に手を伸ばすことすら忘れて考える。


「……祭りか……」


 自主的に人を動かすのにもっと楽な方法は祭りだろう。だが、冬に祭りなんて違和感でしかねー。つーか、お題目をなにすればイイ? バリアル伯爵が許可を出すか?


 問題がありすぎて祭りはダメ──でもねーか? 祭りなのはイイと思うんだよ。できねーと思ってるのは視点がワリーからだ。


 祭り。別になにかを祝ったり、祈ったりする必要はねー。企業が考えて創り出したイベントがあるじゃねーか。


 そうこれは商売。バリアルの街でゼルフィング商会の名を知らしめるイベントを作るのだ。


「ちょっと出かけてくるわ」


 席から立ち上がり、壁に転移結界門──ではなく、転移結界をキャンピングトレーラーに繋ぎ、ドアを創り出した。


 ……転移バッチの出番がなくなりそうだな……。


 ドアを潜ってキャンピングトレーラーに出る。


「これも片付けんとな」


「いい部屋ですね」


 外に出ようとしたらアリーや魔女さんたちまでついて来た。


「別について来なくてイイぞ。終わったらそっちに戻るんだから」


「そう言って忽然と消えるのがべー様だとサリバリやトアラから聞いています」


 そうだった! 花月館には昔を知ってる幼なじみがいたんだった! クソ! あの二人がオレに気を使うなんてあり得ねー。絶対、おもしろおかしくあることばかりしゃべっているはずだ。


「クソ。あのおしゃべりスズメどもめ」


「……怒るのは筋違いかと思いますどね……」


 認めても否定しても不利になるのはオレ。なので我が身を守るために沈黙させていただきます。


 キャンピングトレーラーを出て支店の建物に入る。


「おや、べー様。どうかなさいましたか?」


 もう暗くなっているのに、建物の中には人がいて働いていた。うち、ブラックなのか?


「夜遅くまで仕事か?」


「いえ、べー様がいらっしゃってるので対応するために起きておりました。ちなみにフィアラ様の指示です」


「…………」


「さすがフィアラさん。先見の明がありますね」


「手玉に取られてるわね、あなた」


「コリアント様、表現が厳しすぎますよ」 


「こいつにはそのくらい言ってやらないとわからないわよ」


 なんだろう、この四面楚歌感は? オレ、誰かのために動いているのに……。


「完全に私利私欲で動いてますよね、ベー様は」


 ケッ。そうだよ。すべてはオレのため。オレの私利私欲ですぅ~! なにか文句ありますか~?


「まあ、わたしどもとしては仕事がいただけると幸いです。今は運ぶ野菜もありませんし、他のところに比べると活躍の機会がありませんからな」


 出世とか考えているとはやる気があること。なら、そんなやる気満々な者に仕事を与えるのがトップの役目である。


「じゃあ、部屋で話そうか」


「はい。こちらへ」


 と、会議室みたいなところに通された。


「よくこんな短期間に造れたな?」


 あれから数ヶ月で部屋数が多い建物を造れたものだ。


「バリアルの大工職人を総動員して集めて造りました。バリアルにお金が落ちるように」


 なるほど。受け入れるためにやったわけか。新規のところで商売しようとしたら金をばら蒔かないとならないからな。


「それで、我々はなにをしたらよいので?」


「ゼルフィング商会の品を紹介をする市場をやって、銀貨一枚以上買ってくれた者に飛空船で遊覧飛行させてもらいたい」


 前世でイベントの目玉でヘリコプターに乗せるものがあった。あれをパクらせてもらおう。


「街の重要人物には招待状を出して、飛空船に優先的に乗らせてもイイ。そこは支店長さんの手腕に任せる。あと、アリーの友人を呼べるようにして欲しい」


「……それでは、損をするのはゼルフィング商会では?」


「未来の伯爵様を迎える下準備。ここで損しても何十年か先に回収したらイイさ」


 アリーを見ながら言う。


 これで理解できない支店長さんではあるまい。


「どうだい?」


 アリーから支店長さんに目を向けた。


「それだと、一月か二月はかかりますね」


「アリーは待てるか?」


 主目的はアリーの願いを叶えること。アリーが待てないと言うなら他の方法を考えるさ。


「はい。必要ならいくらでも」


「だ、そうだ。あとは支店長さん次第だ」


 考える振りをするが、腹の中では決まっているだろう。これは出世に繋がることなんだからな。


「……わかりました。やりましょう」


「では、責任者は支店長さんだ。支店長さん主導で動いてくれ。婦人にはオレから言っておくからよ」


「はい。お願いします」


 これにてオレのミッション終了。ジャックのおっちゃんに挨拶したら村へ帰るとするか。


「結局、丸投げなんですね」


 ハイ、そうですが、それがなにか?

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