第1401話 有名人

 いつの間にか眠ってた。


 どこでも部屋は気温を二十二度くらいにして、空気を常に清浄にしているから快適空間にしてるから眠っても問題ねーが、がっつり眠っちまったぜ。


「……昼過ぎてるわ……」


 まあ、そう急ぐ用事……は、あったな。婦人の娘を友達に会わせるミッションが。


「ちゃんと覚えていたんですね」


「オレは大事なことは忘れねーよ」


 しかし、目覚めてすぐ幽霊を見る目覚めも慣れたものだ。ってか、魔女さんたちがいねーな。どこにいった?


「とっくに起きてジャックさんのところにいきましたよ」


 同じ生活してんのに早起きな魔女さんたちだ。


 ソファーから起き上がり、宿屋の部屋へと出る。


 どこでも部屋の鍵を外し、ズボンのポケットへ。無限鞄に入れたら二度と思い出せない自信があるんでな。


「そういや、宿屋の代金ってどうなってんだ?」


 ジャックのおっちゃんなら払っててくれそうだが、念のため、訊いてみるか。


 部屋を出て受付にいってみる。


「女将さん。ジャックのおっちゃんに部屋を借りてもらったもんなんだが、支払いってどうなってる?」


「ああ、あんたがべーかい。ジャックがあとで払うから好きなだけ泊まっていいと聞いてるよ」


 さすがジャックのおっちゃん。配慮ができる男である。


「そうかい。また借りるかわからんけど、一応、開けといてくれや」


「あいよ。出かけるのかい?」


「ああ。帰るかどうかわからんけどな」


 そう言って宿屋を出てジャックのおっちゃんのところへ──と思ったが、混雑しているので止めた。夕方まで街を回ってくるとしよう。運動がてらな。


「小腹が空いたな」


 三十分も歩いたら胃も目覚めてきたようだ。


「屋台やってるかな?」


 前に領主のバカ息子を片付けた屋台が並ぶところへ向かってみた──が、やはり冬はやってないようだ。はぁ~。


 どうしようかと考えてたらプロップの香りが漂って来た。


「プロップでいいや」


 オヤツなもんだが、小腹が空いたときに食うもの。ちょうどイイだろう。


「おばちゃん、五つちょうだい」


 せっかくだからオカンやサプルにお土産買ってくとしよう。


「あいよ」


「あ、これに入れてくれや」


 結界で籠を創り、それに入れてもらった。


「あんた、街の外から来たのかい?」


「わかるかい?」


「と言うかあんた、毎年大量に買っていく子だよね。うちの屋台にも来たよね?」


 おばちゃんの顔を見るが、どうだったか思い出せねー。何件も回ってるからキャラが濃いか、旨い野菜を売っているヤツなら記憶してるんだがな。


「ワリー。よく覚えてねーや」


「まっ、そりゃそうだ。今回は少量なんだね」


「いや、買えるならある分だけ買いてーが、街のもんのツマミを買い占めるわけにはいかんだろう」


 買い占めるにしても他のヤツらを押し退けてまで買い占めたりはしねー主義だ。


「アハハ。それなら大丈夫だよ。今年はプロップが豊作でどこでも売れ残ってるからね。買い占めてくれるんならどの屋台も喜ぶよ」


 そ、そうなんだ。そりゃ失敗したぜ。


「じゃあ、全部売ってくれるかい?」


 買ってイイのならオレのリミッターは解除される。


「はいよ。ありがとね」


 なんかおばちゃんの口車に乗った感じがしねーでもないが、そんなこと些細な問題。今のオレは買い占める使命を帯びている。


 遠慮なく買い占め、次なる獲物(屋台)を探して旅立つ──までもなく三十メートルもいかずに屋台があった。ってか、よくよく見ればプロップの屋台が結構あんな!


「需要と供給が崩れてんだろう」


「べー様が参入したことで正常になったのでは?」


 うん、まあ、そうかもしれませぬ。


「おばちゃん、全部ちょうだい!」


「あんた、毎年買い占める子じゃない」


 オレ、有名人!


「おう。プロップ買い占めに来た。これに入れてくれや」


 結界籠を差し出した。


 前のおばちゃんが言っていたように、ここでも全部売ってくれた。


 さらにさらにと屋台を回るが、やはりどこの屋台もあるだけ売ってくれましたとさ。めでたしめでたし。


 プロップのようにホクホクして宿に帰ると、部屋に魔女さんや婦人の娘が待っていた。


「どうしたい?」


「あなたがどうしたよ? 本当に目を離すといなくなるのね、あなたは」


 オレから言わせたら魔女さんたちが先にいなくなってたよね? とは心の中で言っておく。口で勝てそうにないから。


「ワリーワリー。プロップを買い占めてたよ」


 ズボンのポケットからどこでも部屋の鍵を出して壁に差した。


「まあ、夕食にしようや」


 プロップ買い占めで食う暇もなかった。まずは腹を満たしましょう、だ。

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