第1372話 禁断
ハイ。今度こそ我が家に帰って来ました。
「ブルー島のほうですけどね」
館から出た日からオレの家はここだ。いや、ブルー島に移ってから大して過ごしてないけどな!
「ホー! 侵入者!」
「誰が侵入者じゃ、アホ鳥が!」
襲って来た梟にコークスクリューパンチを食らわしてやる。
「ホー。酷い……」
「家主の顔を忘れるアホ鳥の記憶力のほうが酷いわ!」
「名前を忘れる自分へのブーメランですか?」
オ、オレは人の顔は一度覚えたら忘れないもん! 鳥頭じゃないもん!
「ってか、お前だけか?」
「メイドは奥にいるホー」
語尾にホーをつけんじゃねーよ。なんのキャラ主張だよ?
「──あ、べー様、お帰りなさいませ」
奥からクルフ族のメイドさんが現れた。
「珍しいな、クルフ族のメイドって」
フ……なんだっけ?
「フミさんね。よくそれでミミッチーさんを殴れましたね」
そ、そうそう、フミさんフミさん。元気にしてるかな? どこにいるかは知らないけど。
「わたし、カラクリより家事するのが好きなもので」
まあ、種族がすべて同じなんてあり得ねーか。家事好きがいても不思議じゃねーな。
「留守中、ありがとな」
結界を施してあるから空気が淀むことはねーが、人が住んでねーと家は寂れるものだ。こうしてオレがいねー間に人の温もりを残してくれたことは感謝しても感謝しきれねーよ。
「これが仕事ですから。なにかお飲みになりますか?」
「そうだな。コーヒーを頼むよ。あと、フルー○ェを頼むよ」
なんか久しぶりにフ○ーチェが食いたくなった。
「はい。なに味がいいですか?」
「じゃあ、イチゴで」
今の気分はイチゴだな。
「畏まりました。禁断のを出しますね」
ん? 禁断? はい?
いったいなにを出されるんだと戦々恐々と待っていたら、普通のフルー○ェを出してくれた。ヤベー粉でも入ってんのか?
「ふふ。別に危ないものは入ってないですよ。牛乳と生クリームを入れただけです」
生クリーム? フ○ーチェに生クリームを入れる発想なんてよく思いついたこと。どれどれ。
「旨いじゃん!」
確かにこれは禁断の味だな。普通のが食べられなくなるぜ。いや、普通に食うけどな。
「そういや、サプルは?」
サプルも同じく住んでるんだよ。皆、覚えてた?
「サプル様は奥様の出産で館に移りました」
「そこまでしてるのか」
帰って来てなんだが、男にはなんも手伝ってやれねー。側にいてやるのは親父殿の役目だし、せっかくの出産経験を邪魔するのも可哀想だしな。
「オカンに問題はあるかい?」
「もう出産間近なのに畑仕事しようとして止めるのが大変って聞いてます」
「相変わらずだな、オカンは」
サプルのときもそうだったし、トータのときも歩きまわっていたものだ。まあ、トータのときはオークの大暴走やらオトンが死んだりと大変だったけどよ。
「レニスのことは聞いてるかい?」
浅草なフュワール・レワロには姉御のところからいけるようにしてあるが、あちらはカイナーズで纏まってるはず。ゼルフィング家に情報が伝わってきてるのかはまったくわからんよ。
「はい。回覧板が回ってきますから」
また回覧板かい! ってか、伝達手段が回覧板とかなんなの? スマッグは普及してねーのか?
「レニス様も順調のようですよ。順調すぎてどこかにいかないようにするのが大変だと書いてありました」
レニスの情報、筒抜けだな! ってか、個人情報まで書かれてんのかよ! 大丈夫なのか?
「なんかオレのことまで広まってそうだな」
「そうですね。ただ、べー様の行動が読めないので少し遅れて届きます。まだ南の大陸でオーガを虐めてると書かれてましたね」
やっぱりかい! ってか、情報遅いな!
「常に状況が変わるので、なにを知らせていいかわからないって言ってました」
誰がだよ!? 回覧板の域、超えてるよな?
「プライベートとか個人情報とか教えんと、なに書かれるかわかったんじゃねーな」
見られて恥じぬ人生を送っているとは言え、人に知られたくないことはある。
「わたし、トイレとお風呂のとき以外はずっとべー様を見てますけど。あと、恥じぬ人生かもしれませんが、胸の張れる人生ではないと思います」
………………。
…………。
……。
「あー禁断のフ○ーチェ、うめーな。あ、お代り。今度はバナナでお願いします」
なにはともあれ、久しぶりのうちは最高だな~!
「恥じぬ人生ってなんでしょうね?」
後悔しないってことさ! あーフルー○ェうめ~!
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