第1373話 理想のヒモ生活?

「べー様。夕食はどうしましか?」


 夕食? あ、朝日かと思ったら夕日だったのか。


 ちなみにブルーヴィに直接転移して、外から入って来て、離れに降りました。


「ブルーヴィ、もう南の大陸に着いたんだな」


 転移バッチや転移結界門があればブルーヴィを南の大陸に向かわせる必要もねーんだが、狭い世界にいたブルーヴィを広い世界を見せてやりたいとの思いで、南の大陸に向かわせたのだ。


 まあ、方向感覚がちょっと退化してるっぽいので、黒羽妖精たちに導かせてるがな。あいつらも変な能力を持っているヤツらなんだよ。


「けんちん汁と飯、あるかい?」


「一時間あればご用意できます」


「じゃあ、頼むわ」


 一時間くらい大した待ちではねーが、できるまでブルー島を見回ってくるか。


 メイドさんに夕食までに戻ってくると伝えて離れを出ると、ブルー島は暗くなっていた。


「時差ってメンドクセーな」


 星の自転に文句を言ってもしょうがねーが、あちこち出かけてる身としては文句の一つも言いたくなるんだよ。


「わたしから言わせてもらえば自業自得ですけどね」


「オレはワールドワイドな村人なの」


「ワールドワイドがどんな意味かわかりませんが、真っ当な村人は小さな世界で精一杯生きてると思いますけど」


 ぐうの音も出ない正論。しかし、オレはS級村人。広い世界が遊び場なんだよ。


「ってか、灯りが増えたな」


 山の中腹から海の近くまで家の灯りがたくさん見て取れた。もう町の規模になってんな。


「町人に昇格ですね」


「ボブラ村に人物登録してるから村人です」


 ちゃんと税は払ってあるのだからオレはボブラ村の住人なのです。


「そういや、じいさんに宿屋をやらしてたっけな」


 思い返せば、じいさんと剣士のじいさまが来たときから村を離れてたっけな~。


「ちょっと寄ってみるか」


 暗くなったとは言え、ブルー島時間ではまだ六時くらいなはず。宿屋なら夕食時間なはずだ。まあ、客がいれば、の話だがよ。


 正面に回って宿屋に入ると、意外と混雑していた。


 ……宿屋ってより飲み屋になってね……?


「お、べーじゃないか! 帰ってたのか!」


 茫然としてたら料理を運んでいるじいさんがやって来た。


「あ、ああ。ついさっきな。ってか、宿屋をやるんじゃなかったか?」


「宿屋はやっとるよ。だが、そう客が来ないんでな、その間は酒場をやってるんだよ。ブルー島には男の娯楽が少ないからな」


 よくよく見れば酒場には魔族の男どもだけがいる。


「まあ、ブルー島はメイドが多いからな。野郎の憩いの場は必要か」


 魔大陸じゃ男がデカい顔できただろうが、ブルー島では女がデカ──じゃなくて活躍している。野郎としては肩身が狭いことだろうよ。


「男はなんの仕事してんだ?」


 ブルー島じゃ農作業もできねーし、経済活動はないに等しいはず。メイドの稼ぎで食ってんのか? 理想のヒモ生活か?


「荷物運びだ。ブルー島に入るのはそこの門だけで、引き車が通れるくらいの幅しかないからな」


 自動車は乗り入れ禁止にしてるからな。すべて人力に頼ざるを得ねー。あの灯りの数なら物質搬入も大変だらうよ。


「ヒモになってないならなによりだな」


 別にヒモを否定する気はねーが、魔大陸で育った野郎には矜持が許さんだろう。変に腐られたらたまったもんじゃねーよ。


「まあ、他にも仕事があるといいんだがな」


「仕事が欲しけりゃ外に出るしかねーな」


 ブルー島に住むだけならイイが、経済活動をするには不向きなところだ。オレは、そんな騒がしい場所にするきはねーよ。


「すっかり忘れてたが、孫はどうしたい? 行商やってんのかい?」


 魚を運ぶとか話していた記憶がある。


「ああ。アバールと商売しとるよ。魚は塩漬けにして運んでいるよ」


「そうか。ワリーな。いろいろ忙しくて放っておいてよ」


 時間があれば結界荷車を作ってやるか。


「構わんよ。お前さんは予定は未定の男じゃからな」


 六年以上付き合いがあるだけにオレを理解してるぜ。


「本当にワリーな。オカンが出産するまではいるから、孫が来たら教えてくれ」


「そのときは伝えるよ」


 そう言って酒場を出た。


「豊かな老後で羨ましいこった」


 じいさん、行商やっているときより生き生きしている。オレもあんな老後にしたいもんだぜ。


 まあ、何十年と先を考えるより今をおもしろおかしく生きるとしようか。


「姉御にも挨拶しておくか」


 喫茶店もまだやってるはず。帰って来た挨拶だけでもしておこう。


 のんびり山を下り、沿海沿いの町へと向かった。

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