第1371話 漫画喫茶
我が家に帰宅する──前に、山脈の向こう、塩湖へと転移する。
帝国から人を連れて来たようで、魔女の格好をした者が何十人といた。
「見習い魔女たちはどこだ?」
別のところにいっちゃったのかな?
「放置した人のセリフじゃありませんよね?」
オレがいなくても恙無くやってくれるのがゼルフィング家のメイド。オレはできるヤツにはすべてを任せられる男なんだよ。
「丸投げ野郎って、陰口叩かれますよ」
そんな陰口に挫ける精神なんて持ってねーよ。でも、オネーサマ方からの説教では簡単に挫けるのでそこんとこヨロシクベイベー。
「そこの魔女さん。見習い魔女はどこだい?」
ちょうど通りかかったイイ感じの魔女さんに尋ねた。
「やっぱりベー様って熟女好きなんですね」
誰が熟女好きだ! オレは中身重視派だわ!
「み、見習い?」
「あ、オレ、ベー。大図書館の魔女さんから見習いを預かったのわかる?」
知らなかったら大図書館の魔女さんから説明受けてくださいませ。
「は、はい。ベー様でしたか。失礼しました。見習いたちでしたらアーベリアン王国に戻ったと聞いています。あ、ミラとダリムなら研究所にいましたね」
「研究所?」
そんなものあったっけ?
「あれです。セーサランを解剖してますよ」
魔女さんの指差す方向に銀色に輝くピラミッドがあった。はぁ?
「カイナーズの方は本部と呼んでましたね」
元の世界にあんな建造物なんてあったか? 秘密組織の基地か?
ダークサイドはこの世界だけで充分。元の世界のは知りたくもねーよ。
とりあえず、本部とやらにいってみる。
本部とやらは鉄条網に囲まれており、門のところに武装したヤツが立っていた。厳重やな。
「オレ、入れる?」
門番のヤツに尋ねてみた。
「はい。こちらに名前をお願いします」
なんか工場に派遣されたときを思い出すが、言われた通り差し出された紙に名前を書いた。
「これを胸につけてください。してないと閉じ込めたりレーザーで撃たれたりしますのでご注意ください」
ファンタジーな世界で聞く注意じゃねーな。いや、ファンタジーな世界で聞かないことをいっぱい聞いてるけど!
「軍曹。ちょうどいいところに来た。ベー様を案内して差し上げろ」
「はい! わかりました」
緑鬼の女がオレのところに来て、ビシッと敬礼する。
「リゴ軍曹です! ご案内させていただきます」
「あ、ああ。頼むわ」
どうも軍隊のノリにはついていけんよ。
「見習い魔女が来てるって聞いたんだが、どこにいる?」
「少々お待ちくだしい」
と、ファイルを捲る緑鬼の軍曹さん。
「第八区にいますね。こちらです」
と、第八区とやらに案内してもらう。
……なんか、バイオなハザードが起こりそうなところっぽいな……。
白い廊下を進み、エレベーターに乗り四階に。扉が開くと、そこは本屋だった。それも漫画専門店みたいな感じだ。
「ここは?」
「漫画喫茶です」
ん? 漫画喫茶? はぁ?
「なんで研究所に漫画喫茶があるんだよ! 意味わからんわ!」
「研究員のレクリエーションルームの一つですね」
他にもなんかあんのかよ! 研究所じゃなくてラウンドなワンかよ!
「カイナ様の意向なので」
そう言われたらなにも言えねーな!
「ベー様。見習い魔女はあそこです」
ツインテールとボサボサ髪が漫画を読んでいた。
……なんと言うか、漫画喫茶に似合ってる二人だなと思うのは失礼なことだろうか……?
「お前ら、なにか仕事を与えられてるか?」
この二人、微かにいた記憶はあるが、あまり印象がない。と言うか、まるでない。本当にいたよね?
叡知の魔女さんが選んだのだろうから問題児なんだろうが、他の問題児とは毛色が違う問題児なんだろうか?
「え、あ、はい。これと言ってありませんわ」
「は、はい。好きにしててよいと言われたので、ここで読書していました」
声を聞いてもまったく記憶が蘇って来ない。逆に自分の記憶に不安になってくるな……。
「ちゃんといましたよ。まあ、とても大人しいお二方でしたが」
レイコさんがそう言うならちゃんといたんだろう。
影の薄いヤツはいるし、そんなヤツに出会ったこともある。だが、問題児がここまで存在感をなくすものか?
「なら、ちょっとやってもらいたいことがあるからついて来いや」
戸惑う二人に構わず結界を使って漫画喫茶から連れ出した。
「軍曹、ありがとな。これは礼だ」
勇者ちゃんのエサ(チョコレートね)を出して緑鬼の軍曹に渡してやった。
転移バッチを発動させてミドニギに戻って来た。
「ミラ、ダリム、なぜここに!?」
「ラ、ララリーこそ、どこにいってたのよ!?」
「心配してたのよ!」
なんだ。誰も説明してなかったのか?
「一番説明しなくちゃならないのはベー様ですけどね」
よし。なら説明してやろ。カクカクシカジカマルカイテチョンってわけよ。オッケー?
「……酷い……」
「的確な表現ですね」
否定はしねーが、後悔はしてねーぜ。
「ララちゃんだけだと不安だから、こいつらを置いていく。協力し合って上手くやれな」
やるべきことはやったので、今度こそ我が家へと転移した。
「……本当に酷い方です……」
もう一度言ってやろ。否定はしねーが、後悔もしねーってな。
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