第1368話 こんなときだからこそ

 十三日もかかってやっとミドニギに到着した。


「城塞都市にしてはショボいな」


 土壁に囲まれているだけで防御力はない感じだ。


「蟲避けが塗られてるな。蟲の襲撃がそんなに多いのか?」


「クフ。なんでもこの地は昔から蟲が多かったそうです。そのお陰で竜も来なかったそうです」


 どこから仕入れてきたのか謎だが、オレの疑問にアヤネが答えてくれた。


「蟲を恐れる竜ってなんなんだ?」


「クフフ。竜の天敵は寄生虫だそうですよ。鱗の隙間から体を入り、徐々に蝕ばれて死ぬそうです」


「……お前、博識だな……」


 竜の天敵が寄生虫とか初めて聞いたぞ……。


「お姉様のネタ探しを手伝っておりましたので、その過程で知りました」


 ネタって、あのド腐れな漫画にネタなんて必要なのか? いや、考えるのも嫌なので頭の中から全力で追い払ってやった。


「……蟲か……」


 もしかして、金目蜘蛛はその蟲を食って増えてたのかもしれんな。


 オレらもゼロワン改+キャンピングカーから降りてミドニギに入る。さすがに顰蹙を買うからな。難民化したヤツらと入るのは、な。


 すべての村を回って引き連れてきたから町の中はごった煮状態。まさかまたこんな状態を経験するとは思わなかったぜ。


「病気になりそうだな」


 茶猫がララちゃんの肩に上がり、このごった煮状態に辟易していた。


「十日もすれば病気が発生して、死人も出るよ」


「……経験者みたいなことを言うな……」


「ボブラ村も六年前に起こったし、大暴走で消えた町も何度も見たよ」


 六年前は知り合いの冒険者や剣士のじーさんらが駆けつけてくれたから数日で収まったが、援護のない町や村は籠城しても中から崩れていくものだ。


「……お前がたまに非情になるのも納得だよ……」


「人の生き死にをたくさん見て、それでも優しいままでいれるヤツはこの世界で生き残れねーよ」


 前世のような平和ボケのままではこの弱肉強食な世界は生きられねー。切るべきときに決断できねー腑抜けは邪魔でしかねーよ。


「猫。町を探ってこい。アヤネ。ワリーが噂を流してきてくれ。モーダルが各村のヤツを連れて逃げてきたこと、金目蜘蛛の被害のことを」


「そんなことしたらパニックになるんじゃねーか?」


「なんの情報もなく不安にさせるほうがパニックになるよ。情報は小まめに発信したほうがイイ」


 なにもわからないまま死ぬ恐怖を持たせていると、こちらの声を聞いてもらえねー。理性と冷静さは持っていてもらわねーとこちらの計画に支障が出るわ。


「猫はとりあえず、炊き出しができる水場を探したら一旦戻ってこいな」


 二人をいかせ、オレたちは広場に残った。


「村人さん。ボク、ちょっと町を見回ってくるね」


「あいよ」


 女騎士さんに目配せすると、グッと親指を立てて勇者ちゃんのあとを追っていった。


 ……この人は騎士より忍者になったほうがイイんじゃないかと思うぜ……。


「ララちゃんは休んでおけ。モーダルが町の有力者と話をつけてきたら防衛に回ってもらうからよ」


 移動砲台として活躍してもらいます。


「わかったよ」


 オレも夜担当だったので、周囲に結界を張って仮眠した。


 しばらくしてドレミに起こされ、茶猫が戻って来ていた。早いこと。


「噴水がある広場があったぞ」


 そう言えば、村も井戸があったな。ここは地下水が豊富な土地なのかな?


「そこに移るぞ」


 眠っていたララちゃんを起こし、茶猫の案内で噴水がある広場へと向かった。


 そこにも人がいたが、まだ切羽詰まった空気にはなっておらず、人と人との間隔は空いている。


「よかった。間に合ったな」


 人で埋め尽くされていたら場所取りに苦労してただろうよ。


「今から炊き出しするのか?」


「町の連中から金を巻き上げるんだよ」


 皇国の金を合法的に得る機会であり、町を牛耳るチャンスでもある。


「おまっ!? こんなときにやるとかゲスすぎんだろう!!」


「こんなときだからやるんだよ」


 金目蜘蛛に囲まれたら外から物資は入って来ない。町にあるものでやりくりしなくちゃならねー。そうなれば人の心は荒れる。食料の奪い合いが起こる。


 外の敵と戦いながら中を治めなくてはならねー。そんなことできるヤツなら最初から大暴走に備えているはずだ。してないってことはそれほど備蓄してるとは思えねー。


「食料がなくなってから配ったんじゃ遅いんだよ。まだ理性が働くうちに配っておく。まあ、オレはこの町になんね義理も義務もねーからな、金をもらって売ると言う、当たり前の商売をさせてもらうだけさ」


 今なら貯め込もうとする心理が働いているはず。それなら金を惜しまず出すだろうよ。


「お前は水をこの瓶に汲んでろ」


 渇れることはねーだろうが、万が一に備えて水を収納結界化した瓶に入れておこう。


「猫に水汲みは酷だろう」


「風の魔法で吸い上げればイイだろうが。猫になって脳ミソが小さくなったか?」


 茶猫の頭をノックしてやる。脳ミソ、ありますか~?


「や、止めろや! やるよ!」


 爪を立てる茶猫を無視して無限鞄から御座を出し、その上に日保ちする豆やイモ、トウモロコシの粉、塩などを並べた。


 確か、ラーシュの手紙で、イモが籠いっぱいに入って銅貨──銅棒(マージャン棒の半分くらいのものだな)五枚くらいとか書いてあった。


 それを考慮し、大暴走価格を上乗せして商売を開始した。


 さあ、らっしゃいらっしゃい! 買い占めしないと他に買われちゃうぜ!

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