第1367話 コロニー

 命が溢れる。


 それだけ聞けば命のスゴさや尊さを感じるだろう。だが、一種だけ溢れるのは環境破壊。食物連鎖の崩壊。割りを食らう命が出てくるってことだ。


 まあ、それも食物連鎖。弱肉強食だと言われたら反論の余地もねーが、そこで生きる者はたまったもんじゃねーよな。


「最近、ゆっくりできてねーな~」


 平和な世界で行うスローライフと危険な世界で行うスローライフはまったく違う。概念だって変わってくるものだ。


 ましてやこんな大暴走がちょくちょく起こる世界ではゆっくりするのも命懸けである。あーコーヒーうめ~。


「……おれには全力全開でゆっくりしてるように見えるがな……」


「全力全開ならもっと堂々とやってるよ」


 今は避難民が何百人といて、食料も少ない。一日一食、煮たイモを二つか三つ食うだけ。それが四日も続けば心が萎えてくると言うものだ。


 そんな連中の前で食事などできないし、マン○ムタイムもやれねー。こうして殿を務める状況ではゆっくりもできねーよ。


「たった三十キロの距離なのにまだ半分とか嫌になるな」


 要塞からミドニギにある村の連中も連れていかないとならねー。寄り道に避難民増加。なのに金目蜘蛛は昼夜関係なく攻めてくる。こうしてコーヒーを飲むのも数時間振りだぜ。


「村人さん! またきたよ!」


 よく食べてよく眠る勇者ちゃんは元気である。逆に、夜中戦うララちゃんは今は死んだように眠ってるよ。


「やれやれ。ゆったりまったりなスローライフをするのに忙しく働かないとならないんだから参るぜ」


 力があれば望むものは手に入りやすくなるが、厄介なこともついてくる。誰か分離装置考えてくんねーかな?


「勇者ちゃん! 九時から三時までを相手しろ!」


 指示とは呼べないが、勇者ちゃんに難しいことを言っても理解できねー。ここからここまでの敵を倒せと言ったほうが伸び伸び戦ってくれるぜ。


「猫。三時から五時までカバーしろ」


「……異世界無双がこんなにも過酷だとは思わなかったぜ……」


 文句を言いながらも勇者ちゃんのカバーに回る茶猫。どんな種族に生まれ変わろうと、なかなかイージーモードにはならんよ。


 九時から五時まで壁ができると金目蜘蛛は、八時から九時の間から別動隊を突っ込ませてくる。


 普通なら迂回してモーダルたちの側面か前に立ちはだかるものだが、なぜか金目蜘蛛はやらない。


 オレたちを脅威と見てるのか、それともなにか作戦があるのか、単純な攻撃しか仕掛けて来ない。


「ドレミ。カイナーズはどうしてる?」


「女王クラスの金目蜘蛛を間引きしながら、コロニーを探しています」


「コロニー?」


「はい。女王クラスの金目蜘蛛が卵を産みませんので、どこかに卵を産む本当の女王がいると考えているようで、スネーク大隊に探らせているそうです」


「あれ、女王じゃなく騎士だったのか」


 蜘蛛の見分けなどできんかったが、これまでの行動を考えると騎士クラスと見たほうがイイだろうな。


「カイナーズが動いているからこちらは単調になるんだな」


 女王が狙われていると理解したらこちらに向ける力を落とさなければならねーか。


「べー様とカイナーズが繋がっていることも理解してそうですね」


「自分ら以外は敵って感じなんだろうよ」


 セーサランの意思なりDNA的なもんが混ざってたら、この星の生き物なんて排除するだろう。寄生しようと小狡いことしないだけマシだな。


「クフ。べー様。金目蜘蛛が参りましたよ」


 おっと。女王はカイナーズに任せて、オレらはオレの仕事をしますかね。


 飲みかけのコーヒーをいっきに飲み干し、こちらに向かって来る金目蜘蛛の兵士にヤンキーをばら蒔いてやる。


 エサがあるから退くに退けないこの状況。金目蜘蛛も判断に困るだろうよ。


「下手に知恵があると足元掬うのも簡単でイイぜ」


 生存本能のままに数で押し切る。それが数の脅威なのに自ら台無しにする。雑魚は扱いやすくて助かるぜ。


 まあ、それでも油断はできねーな。この数を相手するのは酷だしよ。


 数百匹のヤンキーを数秒で運んでいき、九時から五時までいた金目蜘蛛も退いていった。


「勇者ちゃん、猫、オレらも退くぞ」


 二人を呼び、ゼロワン改+キャンピングカーに乗せて、モーダルがいるほうへと出発した。

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