第1364話 宇宙的なにか

 朝、町へと出発する。


 アヤネの催眠術のお陰か、これと言った問題もなく町へと移動できた。


 町の代表者との交渉はモーダルに任せてある。部外者のオレたちがなにか言うよりここら辺を任せられるモーダルのほうが聞き入れやすいからな。


「猫。町の様子を見てきてくれ」


「わかったよ」


「勇者ちゃんと女騎士さんはララちゃんを見ててくれ。金目蜘蛛の様子を見てくるからよ」


 たい焼きを渡してララちゃんを任せる。下手に出して殲滅されたら困るからな。


「アヤネ。悪いが、カイナーズホームで買い物を頼めるか?」


「はい。お任せください」


「金はオレにつけといてくれてイイから」


 紙に書いた欲しいものリストを渡した。


「なにか欲しいものがあるなら買ってイイぞ。いろいろ協力してもらってるからな」


 駄賃だと思って使ってくれて構わねーぜ。


「クフ。わたしが好きでやっていることですから気になさらないでください。もし、気にするようであるならべー様の手作りをいただければ幸いです」


「手作り? お洒落アイテムか?」


 それならいっぱいあるぞ。


「では、これを」


 お洒落アイテムをいろいろ出し、その中から向日葵のブローチを一つ取った。


「一つでイイのか? 好きなだけ持ってってイイぞ」


「クフフ。これで充分ですわ。わたし、向日葵が大好きなんです」


 なにか嬉しいのか、口許が柔らかく笑っている。なんなんだ?


「べー様はもっと女心を理解したほうがいいですよ」


 男には一生理解できないと思うけどな。


 まあなんにしろ、アヤネが喜んでいるならオレがどうこう言うつもりはねー。よかったな、だ。


 気を取り直して金目蜘蛛の探索に出た。


「スゴいもんだ」


 ララちゃんが起こした爆発は、直径五十メートル。深さ十メートルの穴が空いている。


「あの歳でこれだけのことができるんですから、将来、名を残す魔女になるでしょうね」


「イイほうに名が残ることを願うよ」


 ララちゃんはまだ未熟だ。強さに意識がいっている。ちゃんと導くか、ライバルでもいないと悪いほうに流れてうく恐れがある。


「まったく、問題児中の問題児を連れてきちまったぜ」


「他の方を連れてきても似たような状況だったと思いますよ。大図書館の魔女さんが選んだ問題児ですからね」


「…………」


 反論する言葉が見つからない。あの魔女ならやる。


「クソ。オレも問題児を送りつけてやるんだったぜ」


「一番の問題児はべー様でしょうけどね」


「……オ、オレは、素直でイイ子だもん……」


 お天道様に顔向けできねーことはしてねーし。


「じゃあ、フィアラさんの目を向けて言ってみてくださいよ。きっと鼻で笑われますから」


 そ、そんなことはないはず。まあ、今度会ったら全力で媚び諂っておこう。うんうん。


「……矜持はないんですか……?」


「オレはオレを救うなら矜持は脱着式だ!」


 必要に応じて取り外せるオレの矜持。カッコイイ!


「ハァ~」


 幽霊の吐息などなんのその。金目蜘蛛の探索を開始した。


 まあ、金目蜘蛛の何匹かには結界を纏わせてあるので一時間もしないで大群を発見できた。


「……ヤダ。女王蜘蛛がいっぱいいる……」


 視界に入るだけで二十匹はいるぞ。


「やはり、おかしくないですか? 女王蜘蛛があんなにいるなんて。大暴走だとしてもおかしすぎます」


 い、言われてみれば確かにそうだな。


「山脈の向こうに宇宙からの物体Xがいて、こちら側になんの影響も与えないってことはないよな」


 宇宙的なにかを金目蜘蛛に与えたと見たほうが、この状況に納得できるってものだ。


「さすがにモーダルさんたちで当たるのは危険ではないですか?」


「そ、そうだな。これ以上増やすのは危険かもしれんな」


 視界を動かしたら女王蜘蛛が百はいそうな感じだ。


「ドレミ。カイナーズはどこにいる?」


 背中にくっついてる猫型ドレミに尋ねる。


「マイマスターから見て五時方向、距離にして八キロ先にいます」


 五時って言うと後方か。町から離れたところに陣取った感じか。


 ドレミナビで向かうと、照明弾が上がった。


「もしかして、人工衛星で見られてるのか?」


「無人偵察機で監視しているそうです」


 あー映画で観たことある。カイナーズだけ現代戦してるよな。いや、タケルは近未来戦してるけどよ。


 照明弾が打ち上げられたところに降りると、百人くらい集まっていた。


「この部隊を指揮するトナマル少佐です!」


 赤鬼さんか。そういや、スネーク大隊も赤鬼だったな。カイナーズって鬼種が多いよな。なんでだ?


「少佐。ワリーが密かに金目蜘蛛の女王を間引きしてくれ。あと、女王を一匹捕まえて博士はかせに解剖させてくれ。傷つけてもイイが体液とかに絶対に触れるなよ。どんな害があるかわからんからよ」


 セーサランが、ってより、なにか遺伝子レベルでなにかされた感じだ。体液とか触らないほうがイイかもしれん。


「応援を呼んでもよろしいでしょうか?」


「必要なだけ呼べ。あと、できることなら密かに間引きしてくれると助かる。こちらは、ヤオヨロズ国の立場をよくするために動いているからよ」


「カイナ様よりべー様の言葉を優先して動けと命令されております。べー様の行動を阻害しないよう作戦を実行します」


「ワリーな。無理を言って」


「とんでもありません。我々に誇りと矜持をくださったカイナ様やべー様には返し切れない恩があります。べー様は迷惑でしょうが、我々はあなたのためなら死ぬことも厭いません」


「本当に迷惑だ。死ぬなら自分のために死ね」


 そう吐き捨てて町へと戻った。

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