第1363話 オレもそうだった

 古来より優秀な敵より無能な味方のほうが厄介と言うが、コントロールできない味方を横に置くのは命懸けでだぜ。


「……味方を殲滅してどうするよ……」


 町から帰って来た茶猫がララちゃんが起こした惨劇に呆れていた。いや、誰も死なせてないが、要塞が半分吹き飛んでしまったな。


「魔法ってスゲーのな」


「魔法は魔力の多さより理の深さ、まあ、理力が物を言うんだよ」


 己の魔力で発動させる魔術ならここまでの被害は出ないだろうが、魔法を極めると大量殺戮兵器にもなるんだよ。


「理力って、ここはフォースの世界だったのかよ」


 なんでもありの世界だよ。


「しかし、どうすんだこれ? 蟲よけの壁が完全になくなってるぞ」


「それならそれで好都合だ」


 隠れるところがないなら逃げるしかねー。モーダルの苦労が一つ減っただけだ。


「ポジティブだよな、お前は」


「前世はネガティブだったからな、今生はスーパーポジティブに生きてやるさ」


 文字通り生まれ変わったんだから後悔なんてしている暇はねー。楽しく生きることに全力投球さ。


 まだ茫然とするモーダルのケツに蹴りを入れて活を入れ、金目蜘蛛がまた襲って来る前に逃げ出す準備をさせた。


「村人さん。お腹空いた」


 マイペースな勇者ちゃん。あの爆発をなんとも思ってない。たまに感情が欠落してるんじゃないかと心配になるよ。


「べー様を見てたら大抵のことには驚きませんよ」


 オレは感情豊かなので驚くことはいっぱいあるがな。


 勇者ちゃんの食事と兵士たちの食事を作り、夜中に逃げる準備が整った。


 まあ、逃げると言っても町になんだが、あそこは柵もないところ。立て籠ることはできねー。金目蜘蛛が千匹も襲って来たら一日としてもたないだろうよ。


「アヤネ。集団催眠の調子は?」


 要塞が半分吹き飛んだので、今日は夜空の下で寝るしかなく、今は主要メンバーで集まり、今後のことを話し合ってます。


「クフフ。万事抜かりなくですわ」


 恐ろ頼もしいこと。カイナに次いでヤバい転生者ではなかろうか? いや、一番ヤバいのはエリナだったな。あれは世界に解き放ったらダメなヤツだ。


「また金目蜘蛛を襲わせるのか?」


「当然だろう。徐々に後退させる計画だからな」


 町の者にトラウマを植えつけることは申し訳ねーが、この世界では珍しくもねー惨事。今回あの町に住む者に降りかかっただけのことだ。


「……悪魔のようなヤツだよな……」


「オレが悪魔だったらもっと楽な方法を取ってるよ」


 こんな手間をかけるよりグランドバルの権力者を取り込んだほうが楽ってもんだ。


「いくつもの手を持ってる時点で思考が悪魔なんだよ」


「オレ、平和を愛する村人なんだがな」


「おれには世界を混沌にしようとしている魔王にしか見えんがな」


 酷い。オレほど世界平和を願ってる男はいないって言うのに。と言っても納得してもらえなさそうなので黙っておきます。


「猫はガキどもと金目蜘蛛の見張りだ。もし、金目蜘蛛に遭遇したら二、三日どこかに引き連れろ」


 と、あれから目を覚まさないララちゃんに目を向けた。


 限界を超えた魔法に意識が飛んだんだろうが、あんなのを放って生きてるんだからララちゃんには人外の要素がありそうだ。


「ララリー、本当に大丈夫なんだろうな?」


「命に別状はないよ。オレも似たようなこと何度も経験してるしな」


 まあ、目覚めるのに何日かかかるだろうけど。


「おれも魔法が使いたいよ」


「使えないのか? 魔力はあるのに」


「え? おれ、魔力あるのか?」


 ビックリする茶猫。わからんかったのか?


「普通にあるよ。魔力、感じられんのか?」


 まあ、オレの場合、土魔法が最初から使えたから魔力はすぐに感じられたけどな。


「魔法、どうやったら使えるんだ?」


 茶猫の頭に手を乗せ、魔力を強制的に流した。


「それが魔力だ。ライターをイメージして指──爪先につけてみろ」


 魔法はイメージがあると発動しやすいんだよな。


 茶猫は爪先を見詰めながらイメージをし、ロウソクの火くらいのを出した。


「で、出た!? 出たよ! マジで出たよ!!」


 跳び跳ねて喜ぶ茶猫。オレも初めて土魔法が発動したときは子どものようにはしゃいだっけな。いや、三歳児だったけど。


「人──じゃないな。魔法にも得手不得手がある。オールマイティーに使えるヤツはそうはいねー。いろいろ試して自分がなんの魔法が得意かを探していけ」


 前世の記憶があるならイメージはしやすい。見つけるのもそう難しくねーはずだ。


「ちょっと練習してくる!」


 と、駆け出していったのを結界で停止させる。


「ったく、話は最後まで聞け。慣れないうちは魔力を使っちまうからデカいことはするなよ。ララちゃんみたくなるぞ」


 茶猫の首根っこをつかんで注意する。


「わ、わかった」


 たぶん、気絶するだろうから結界を施し、放してやった。


 少し離れたところで試し始めたのを見てからモーダルに目を向け、明日のことを話し合った。


「猫。ほどほどにしろよ」


 話し合いが終わり、まだ魔法を試している茶猫に声をかけた。


「もうちょっとやったら止めるよ」


 そう言って止めないのはオレがよく知っている。オレもそうだったからな。


 熱中する茶猫に苦笑し、オレは早々に横になる。おやすみなさ~い。

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