第1360話 ままならないもの
アヤネの情報を元にモーダルを英雄にする策を考える。
英雄は認められてこそ英雄たる。その考えを踏まえると、だ。一番イイのは州都に金目蜘蛛を持っていくことだが、さすがに避難民を連れて八十キロを移動するのは骨だ。
まあ、やってやれないこともないが、他の町を潰さないと州都まで金目蜘蛛が移動するのが不自然すぎる。
となれば、次に大きな都市であるミドニギになる。
ここは城塞都市であり、ここから三十キロのところにある。周辺の村は十七。合わせて三千人もいない。なんとか移動はさせられる数だ。
「ミドニギにするか」
クク。モーダルのために犠牲になってもらいましょうかね。
「……悪魔って、きっとこいつみたいな顔してるんだろうな……」
「魔王の間違いだろう」
そこの突っ込み担当、ちょっと黙ってろや。
「モーダル。二日後、ここに金目蜘蛛の大群を集める。オレらが食い止めるから町のヤツらを連れてミドニギに向かえ」
「また無茶苦茶だな。向かえと言われてできるなら苦労はしないぞ」
「その辺は任せろ。町の者が逃げ出したくなる状況を作ってやるからよ」
つい調子に乗って絶望させてしまいそうなのが心配だが、まあ、その辺は臨機応変に動くしかねー。成るように成るだ。
「碌でもないことになるのに四千点かける」
「わたしは五千点かけてもいいな」
クイズなダービーやってんじゃねーんだよ。つーか、ララちゃん、脳筋のクセにノリイイな!
「計画通り、金目蜘蛛を集めて来いや!」
茶猫とララちゃんを部屋から追い出した。
「モーダルは要塞から逃げる準備をしろ。町の者には金目蜘蛛の女王が近づいていると情報を流せ」
「流したとしてすぐには動けないぞ」
「すぐ動けるようにするさ。とにかく、金目蜘蛛の大群が近くまで来てると広めろ。いつでも逃げられるようにってな」
「べー様。町の者へ催眠をかけますか?」
部屋の隅で大人しくしていたアヤネが進言してきた。
「可能なのか?」
強い催眠術が使えるのはわかっているが、町には数百人といる。一人一人やってたら時間がかかるんじゃないか?
「可能です。広範囲催眠をかけるので。ただ、威力は落ちますのでパニックになると解けるかもしれません」
催眠術もそう万能ではないか。よくわからんけど。
「じゃあ、頼む。逃げなくちゃ、って感じでな」
細かいことはアヤネが上手くやってくれるだろう。こいつも転生者。それなりの年齢まで生きて、酸いも甘いも経験した感じだからな。
「モーダルは部下への指示と、いつでも逃げ出す用意をしてくれ。食料はこちらで用意するからよ」
いくつかの質問され、自分の中で納得してから部屋を出ていった。
「べー様。わたしも町へいって来ますね」
「ああ、頼むよ」
そう言うと、口角を上げて笑い、部屋を出ていった。
「べー様の力になれるのが本当に嬉しいんですね」
レイコさんの皮肉に肩を竦めてみせる。
「オレはまったく嬉しくないがな」
無償の愛は扱い方次第で重荷にも呪いにも変わる。
前世のオレは呪いにしてしまい、一生を棒に振った。今もその呪いに縛られているところもある。好意を持たれることを恐れている。
自分ではそんなつもりはなくても異性から好意を持たれたときに心が疼いてしまうのだ。
「べー様にもそんなところがあるんですね」
「あるに決まってんだろう。オレも人の子なんだからよ」
オレだって悩むことだって戸惑うこともある。愚痴ったり落ち込んだりもする。だって、人はどこまでいっても人なんたからよ。
「まだ男女のラブゲームのほうがやりやすいよ」
まあ、ラブゲームがどんなものだったかも忘れたが、欲望のぶつけ合いのほうがまだ気が楽だわ。
「ふふ。モテるのも大変ですね」
公爵どののような女好きなら喜ばしいだろうが、オレは一人を愛したい派。ハーレムなど拷問でしかねーよ。
「ままなりませんね」
「……そうだな……」
わかっちゃいるけど納得できるかは別問題。人だからこそ無駄な抵抗をしたくなるものだ。
心を落ち着かせるためにコーヒーを飲み、気持ちが切り替わったらオレも部屋を出た。勇者ちゃんと打ち合わせするために。
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