第1359話 エスパーアヤネ

「モーダルくん。君にありがたい諺を教えてせんじよう」


 ズバッとモーダルを指を差す。


「逃げるは恥じだが役に立つ──おふっ!」


 って言ったら、茶猫がオレの腹に頭突きを食らわせ、ララちゃんはワンダーワンドの柄でおもいっきし頭を叩いてきた。同時にだ。


「……酷い……」


 なんのコンビネーション攻撃だよ。


「酷いのはお前だよ! あんな危険なもん放ちやがって!」


「アヤネはオレの管轄じゃない」


 全責任はエリナにある。一ミリたりともオレに責任はねー!


「野放しにした時点でお前の管轄だわ!」


「……ご無体な……」


 オレはモーダルを支える者を望んだだけなのに、なぜアヤネを管理しなくちゃなんねーんだよ。あいつは、目的のためなら手段は問わないを具現化したようなヤツなんだぞ。


「その辺で許してやれ。おれは気にしてないから」


「──兄貴ー!」


 モーダルの脚に抱きついた。惚れるやん。


「誰が兄貴だ! 鬱陶しい!」


 おいっきり蹴られてしまった。兄貴のイケずぅ~。


「なんてお遊びはここまでにしようか」


 スクッと立ち上がり、転がった椅子を戻してコーヒーをいただいた。


「……この短時間でお前と言う男がよく理解できたよ……」


 それはなにより。オレを理解してくれるヤツは貴重だからな。


「こいつを理解できるとか、お前も大概だな。おれのこともすんなり受け入れたし」


 あ、普通にしゃべってたな。気がつかんかったわ。


「そうすんなりではない。べーを見ていなければ外聞もなく驚いてたさ」


 まあ、老人からガキになったのを見たら猫がしゃべるのも驚かないか。


「ところで、逃げるのは恥だが役に立つとはどんな意味だ?」


「自分の戦う場所は選べ、って意味だな。不利な場所で戦わざるを得ないときは逃げるのも手。ってことを選択に入れておけ。戦うなら自分が有利になれるように環境と場所を作れ。勝てるなら恥など一時のことだ」


 正しい意味とかよー知らん。オレはそう理解しているだけです。


「なるほど」


 瞼を閉じて苦笑いするモーダル。


 きっと逃げるなんてしなかった人生なんだろうな。


 それはそれで立派だとは思う。カッコイイ生き様だと思う。逃げてばかりの前世だったオレからしたら眩しいほどの存在だ。


 だが、だからこそ知る。生き難い世だからこそ上手くいくことなんて希だってな。上手くやるには恥をかくことも、疎まれることも、憎まれることも必要だってな。


「理解してくれる者が一人でもいたら恥をかくことなんて怖くねーぜ」


 そして、無条件に愛してくれる者がいたら無敵だ。なんら怖くねーさ。


 ……女の怖さは別なのでご注意を……。


「ふっ。素直に羨ましいよ」


「オレは、あんたを理解したとは言えねーが、利用する気は満々あるぜ。あんたには才能があり、人となりもイイし、身分もある。なにより、心の奥底に捨てられないものを持っているのがイイ。そう言うヤツは手段を見つけたら能力以上の力を発揮するからな」


 そんなヤツがいたらどんな手段を持ってもこちらに引き込むべきだ。そのとき損をしても長期的に見れば得になるからな。


「打算だな」


「なんだい。オレから無償の愛でも欲しいのかい? 欲しけりゃくれてやってもイイぜ」


「それは止めてくれ。なんだか重そうだ」


 重いか。そうかもな。前世はそれで人生を棒に振ったからよ……。


「ふふ。そうだな。利用し利用される関係が楽でいいかもしれんな」


「ああ。楽でいられる関係が一番イイ関係だと思うぜ」


 背中を預けられる関係などオレの趣味じゃねー。おもしろおかしくやっていける関係がオレの望むものだ。


「モーダルには、まずは金目蜘蛛を倒して英雄になってもらう。ってか、金目蜘蛛のことは周辺に広まっているのかい?」


「広まっている。だが、ここを治めるミリハルド派は援軍を出してはくれない。お陰で被害は甚大だ」


「それはモーダルには邪魔な存在か?」


「邪魔だな」


「じゃあ、容赦してやる必要ねーな」


 まあ、今はどうこうすることはねーが、必要なら排除するまでだ。


「しかし、金目蜘蛛をどう退治するつもりだ? ヤツらは厄介だぞ」


「倒し方なんていくらでもあるよ。だが、モーダルが英雄的に退治するにはいろいろ面倒だな。ここの地図はあるかい?」


「ああ。グランドバル州全体のでいいか?」


 グランドバルって、州扱いなんだ。


「ああ、それでイイ」


 ならと、場所をモーダルの部屋に移し、テーブルに地図を広げてもらった。


「いまいちだな」


 簡易すぎて位置関係がよーわからんわ。


「べー様。これを」


 と、アヤネが横から航空写真を並べ始めた。


「……こいつ、神出鬼没すぎんだろう……」


 驚く茶猫。オレにはもう今さらすぎて驚きにも値しねーよ。


 転移バッチより優秀なテレポーテーション。一度、いった場所なら何万キロ離れてようが密室だろうが関係なしだからな。


「随分と精密だな」


 きっとカイナーズの人工衛星からの写真だろうよ。


「グランドバル州の州都がここで、この要塞はここです。距離は八十キロほどあります」


 オレの心を読んだかのようにオレの知りたいことを説明してくれるアヤネ。ほんと、超能力は卑怯な能力だぜ……。

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