第1355話 プロデュース

 シュタタタター。


 夜中の要塞内を駆ける影三つ。村人、猫、魔女と言う異色の集団。その名は村人団である。


「……村人団って、まだ青年団のほうが救いはあると思いますよ……」


 では、村人団改めて青年団と改名させていただきます。


「……なんでおれらまで……」


「……もう諦めなよ……」


 そこ! 作戦中はおしゃべり厳禁ですよ!


 我ら青年団駆けた先は要塞の監視搭(櫓に毛が生えたようなもんだけどね)。見張りの方に首トンでしばらく眠ってていただこう。


「手慣れすぎだろう、お前」


「なんでそれで気絶するんだ?」


 オレの結界なら可能なんだよ。


 まあ、オレが本当に首トンやったら斬首になっちゃうけどな!


「……つまり、やったことあるんですね……」


 犠牲になっていったゴブリンに哀悼の意を表します。君たちの死は無駄じゃなかったよ……。


「それで、スパイを捕まえるってどうするんだ?」


「そもそも、そのスパイ? がいるのか?」


「昼間の親睦会で大まかなヤツは印をつけておいたよ」


 それらしいのは六人。人数が多いのは派閥なり出所が違うのだろう。とんだ監視社会だぜ。


「印って、なんでわかるんだよ?」


「お前も何人か怪訝な目を向けてただろうが」


 スラム育ちなせいか、不審者を見分けられる目を持っている。そうでなければ情報部なんとかかんとかになれるはずもないわ。


「四人はわかったが、六人もいたか?」


「オレの目では六人いたな。ただ、オレの勘はもっといると言ってるな」


 親睦会にいたのは六人だが、外にいた者もいるそうだし、連絡役や協力者がいても不思議ではねー。いや、むしろいると見るべきだろう。


「あのモーダルって男、それほどの人物なのか? 体格は立派なもんだったけど」


 うん。ララちゃんにはもっと男を見る目を養わせるべきだな。変な男に騙されそうだ。


「そうですね。今まさに変な男に騙されてますし」


 幽霊は黙っててください。オレは誠実でナイスなガイです。


「モーダルはできる男だよ。ただ、派閥争いとか人間関係を築くのは苦手そうだがな」


 アレは、一人の戦士としては優秀なんだろうが、集団になるとダメになるタイプだ。なのにカリスマ性があるから本人も周りも幸せにならないんだろうよ。


「よくわかるな? お前、メンタリストかなんかなのか?」


「経験からの判断だよ。うちの親父殿がそれだ」


 あと、暴虐さんもだな。


 まあ、親父殿の場合、コミュニケーション能力があり、気心の知れた仲間がいたからA級冒険者として成功できた。あの手のタイプは宮仕えは不向きだ。無理してやっても挫折する未来しかねーよ。今のモーダルのように、な。


「モーダルも冒険者なら成功したかもな」


 下手に身分があり、能力があるせいで上手くいかないとか、哀れでしかねーよ。


「お前は、冒険者にさせるつもりはないんだろう?」


「当たり前だ。ここでトレニード山脈を守ってもらわんとならんからな」


 あと数十年、ヤオヨロズ国の属州が形になるまでは手を出されては困る。モーダルにはここでガンバってもらわないとな。クク。


「モーダルによる領地改革。精々、発展してもらわないとな」


 それまでオレがプロデュースしてやるよ。


「そのためにもスパイは排除しておかないとな」


 親睦会のとき要塞をヘキサゴン結界で覆っておいた。あれから外に出た怪しい人物は二人。伝令用の鳥は二匹。入ったのは数人。四人は動かなかった。


「お、動いた動いた」


 四人のうち二人が要塞から出ようとしている。


「ドレミ。周辺にいるカイナーズと連絡は取れるか?」


 背中にしがみつく猫型ドレミに尋ねる。


「可能です。もちろん、ゼルフィング家情報部にも可能です」


 まったく、段々と出し抜くのが難しくなってるぜ。


「猫。お前は情報部のヤツらと北口から出るヤツを追え。そして、捕獲しろ」


「はいはい。わかったよ」


 見張りの搭から飛び降りた。ここ、二十メートルはあったぞ?


「ララちゃんはオレと南口から出た者を追うぞ」


「わたし、必要か?」


「社会勉強だ」


 身になるかはわからんが、経験させておくに越したことはねーだろう。


「勉強なら魔力操作を教えてもらいたいんだがな」


 ったく。脳筋魔女め。


「ララちゃんはもっと柔軟性を身につけろ。魔女の世界で生き難くなるぞ」


 この脳筋魔女もモーダルと同じだ。個としては超優秀だが、集団なるとお荷物になる。ここで脳筋を去勢しておかなければ将来は孤立確定だわ。


「…………」


「ララちゃんみたいのは多くのことを経験して、今ある価値観を崩すか足していくしかねーぞ」


 本当に叡知の魔女さんは、問題児ばかり預けてくれたぜ。


「べー様の性格、見抜かれてますね」


 そう。あの叡知の魔女さんは、次世代を背負う魔女をオレに押しつけた。オレの思惑を理解し、問題児や状況を考え、今後の関係を考えて行動している。


 ……まったく、これだから人外は厄介なんだよな……。


「まあ、あちらも舌打ちしてるでしょうね。異形の魔族ばかりを送り込むんですから。きっと大変なことになってますよ」


 だろうな。人間しかいないところに他種族を入れるんだから。混乱しないわけがねー。大図書館総力を上げて事に当たっていることだろうよ。


「おっと。スパイを追わんとな。ララちゃん、いくぞ」


 オレも見張り搭から飛び降りてスパイのあとを追った。

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