第1353話 クフフのフ

「壁になにか塗られてるな? なんだ?」


 レイコさん。教えてプリーズ。


「おそらく蟲よけの樹液だと思います。魔大陸でも似たようなことしてましたから」


 あーうちの村でも虫除けに樹液を塗ってたな。オレは結界があるから「ふ~ん」としか思ってなかったわ。


「たぶん、虫除けの樹液だと思う」


「虫除け? そんなのがあるのか?」


「オレもよく知らんが、魔大陸にもあるそうだ」


 どこの大陸でも虫は嫌われ者だな。まあ、オレも海の蟲は大嫌いだけどよ。


「……そう言えば、あんたには幽霊が憑いてるんだったな……」


 なんだ。聞いてたのか。


「ああ。ダークエルフが嫌いだからオレだけ見えるようにしてるよ」


 いや、背後にいるから見えないんだけど!


「幽霊が怖くないのなら見えるにするぞ」


 ここにいるメンバーには結界を施してある。ちょっと追加すれば見えるようにはできるのだ。


「幽霊! 見たい見たい!」


 勇者ちゃんが食いついてくる。この子の心はどんだけ強靭なんだか……。


「ま、まあ、幽霊なら大図書館にいるしな」


 さすが大図書館。どこかの魔法学校みたいだな。


 茶猫と女騎士さんどうでもよさそうなので、レイコさんを見えるようにした。


「おー! 幽霊だー!」


「……随分と存在感のある幽霊ね……」


「初めまして。べー様に憑いているレイコと申します」


 もう憑いていることを公言するまでになってるよ。


 なんてやってる間に竜車が停車し、扉が開いた。


 外に出ると、思った以上に兵士がいて、こちらを興味深そうに見ていた。


「すまぬな。田舎なもので外の国の者が珍しいのだ」


「ふふ。それは仕方がないこと。お気になさらず」


 オレも初めて会った種族には目がいくもの。それが逆になったからって怒るのは筋違いだろう。


「モーダルさんですからね」


 要塞司令さんの名前なんだっけ? と思ってたらレイコさんがこそっと教えてくれた。ナイスアシストに感謝です。


「モーダル殿は北の大陸の者に会ったことはあるので?」


 ファンタジーな海とは言え、昔から冒険野郎はいるし、魔道船はあった。親父さんや赤毛のねーちゃんも南の大陸の出身。なら、ラージリアン皇国にも北の大陸の者もいるはずだ。


「直接話したことはないが、帝国の使節団を見たことはある」


 あ、帝国も来てるんだったっけ。


「飛空船で来てるので?」


「ああ。べーダー殿は帝国の生まれなのか?」


「わしは、アーベリアン王国の生まれじゃよ。ちなみに、これは日焼けしているだけじゃ」


 受け入れられるなら南の大陸出身者設定はもういらん。日焼けってことにしておこう。


「帝国は大きい。ラージリアン皇国のようにな。大きければいくつもの勢力が生まれるもの。モーダル殿なら理解できよう?」


「……そうだな。面倒なものだ……」


「ふぉっふぉっ。人が集まれば面倒になるもの。上手く立ち回れる者が生き残るものじゃ」


「ふっ。耳がいたいな」


 どうやら自虐的に笑うのは経験からくるものらしいな。


「だが、運のよい者も生き残れるぞ。特に出会い運がよい者は出世するものじゃ。本人が望むと望まざるに関わらず、にな」


 含みを乗せて笑ってみせる。


 こいつはコミュニケーション能力は低くそうだが、空気を読める能力は高そうだ。オレがなにを言っているかわかるはずだ。


 出世を望むならオレたちと関わることを選択するしかない。さあ、あんたはどうする?


「……老獪だな……」


「それは本当の老獪に申し訳ないのぉ。わしは、単純明快が信条じゃからな」


 誰も同意はしてくれないけど。つーか、非難の目を向けないでください。


「ふふ。運とはわからぬものだな」


「それが運と言うものじゃよ。ただ、その運をどうするかは自分次第。つかむもつかまぬのもモーダル殿が決めたらよい」


 まあ、それ以前にオレが逃がさんがな。


 ラーシュと言う絶対的なカードを持っているが、切り札は多いに越したことはねー。モーダルさんにはオレの札になってもらいます。


「おい! この方らを客室に案内しろ」


 どうやら運をつかむようだ。


 ならば、地位と名誉と戦果を与えてやろうじゃないか。オレらがこの皇国で動きやすくなるように、な。


 クフフのフ。

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