第1351話 老魔術師再び

 オレの予想通り、次の日から金目蜘蛛が現れるようになった。


「イライラするわね」


 現れる金目蜘蛛を一匹ずつ氷漬けにするララちゃんのこめかみの血管が今にも切れそうである。


「平常心平常心」


 氷漬けになった金目蜘蛛を殺戮阿でぶっ叩きながらララちゃんを静める。


「村人さん。飽きた~!」


 勇者ちゃんも勇者ちゃんで堪え性がねー。まったく、脳筋を鍛えるのはメンドクセーぜ。


「飽きてもやる。今何匹だ?」


「六十二匹~」


「よろしい。忘れたらオヤツ抜きだからな。しっかり数えろよ」


 答え役は茶猫に任せています。


 金目蜘蛛は四~五匹で現れ、オレらを見つけると糸を放ってくる。


「燃やしてはダメなのか?」


「ダメ」


「なんでだよ! 面倒臭いんだよ!」


 切れやすい年代じゃないんだから切れるなよ。いや、十六歳だからその年代か?


「細かい操作もできないヤツは大きな操作もできないからだ」


 これはバリラからの受け売り。魔力操作は魔法や魔術の基本。基本ができてない者は大きな技で失敗するものだって、な。


「今さらだが、魔女と魔術師って、なんか違いあるのか?」


「厳密な違いはないが、魔女は真理の徒。魔術師は学術の徒と言った感じだな」


 アプローチが違うってだけか。


「帝国にも魔術協会ってあるんだよな?」


 バリラの話ではかなり大きいな協会だと聞いてるが、どう大きいかまではよくわかっていないんだよな。


「ああ、ある。けど、わたしはよく知らない。関わったことがないからな」


 まあ、この年齢では裏事情は知らないか。闇が深そうだしな。


「あんたは魔術を使えるのか?」


「弱いのならな」


 二十センチくらいの氷の矢を一本創り出し、金目蜘蛛に放った。


「これが精一杯だな」


「少し安心したよ。あんたにもできないことはあるんだな」


「できないことなんていっぱいあるよ。寧ろ、できることなんてほんの少しさ」


 オレは凡人だ。天才ではねー。


「狂ってはいますけどね」


 幽霊、茶々を入れないの!


「説得力がまるでないな」


「それはよく考えているからだ。勇者ちゃんやララちゃんのような才能あるヤツと張り合うとしたら知恵を使うしかないからな」


 神(?)から三つの能力をもらったオレが言うのもなんだが、才能は残酷だ。人の一生を左右する。もちろん、才能があったからってイージーモードにはならないが、自分の才能を理解して鍛えたら、それは凡人には覆せない壁となる。


 そんな壁を相手にしようとしたら知恵を絞るしかない。力で覆せないのなら壁に穴を開けるような力を身につける。道具を使って乗り越える。誰か力がある者に倒してもらうとかしないだろうよ。


「敵が弱いからと言って侮るなよ。弱いヤツは知恵を使う。金目蜘蛛でたとえるなら数を揃えて強者に挑んでいる。強者たるオレらを苦しめている。もしかしたら、オレらが知らない能力を持っているかもしれない。ララちゃんの目の前にいる相手はちゃんと考えて生きてるなと理解して挑め」


 なにも考えてないバカはいる。だが、考えて生きている弱者もいる。それを理解できない強者など怖くもないわ。


 金目蜘蛛は、徐々に増えてくる。


「ちょ、さすがに対処できないよ!」


 まるで連射の如く冷気を放っていたが、沸き出る金目蜘蛛に追いつかなくなっている。さすがに限界か……。


「よし。広範囲攻撃だ。但し、燃やすなよ!」


 山火事にされたら困るからな。


「任せなさい!」


 今までの鬱屈を晴らそうかと、冷気の塊を創り出した。


 ……あ、これは不味いヤツだ……。


 皆に結界を施した──瞬間、世界が真冬どころか極寒となりました。


「──アホか! 手加減しろや!」


 結界がなければ数百年先に冷凍保存されてたわ!


「す、すまない、つい……」


 北極かよと突っ込みたいくらい数百メートル先まで極寒になっている。魔法は魔力が物を言うわけじゃないが、それでも魔力が多いと効果にも現れる。ララちゃんの才能が人外レベルなのがよくわかるぜ……。


「勇者ちゃん。炎でちょっと溶かしてくれ」


 まだ勇者ちゃんのほうがコントロールできている。いくらかは溶かしてくれるだろうよ。


「わかったー!」


 炎を生み出し、極寒を真冬くらいにはしてくれた。これなら自然に溶けてくれんだろうよ。


「少し先にいくか」


 空飛ぶ結界を創り出して皆を乗せ、数キロほど先を進んだ。


「おい、あそこ!」


 茶猫が声を上げ、器用に前足を差した。


 その先を見ると、兵士らしき集団が金目蜘蛛の大群に囲まれていた。


「勇者ちゃん!」


「わかった!」


 空飛ぶ結界から飛び降り、滑空しながら兵士らしき集団に突っ込み、風を操って金目蜘蛛の中へと着地した。


 勇者無双とばかりに金色夜叉を振り回し、金目蜘蛛を潰していった。


「猫。ララちゃん。これからオレは老魔術師になるから話を合わせろ」


 南大陸の人族は小麦色の肌をしている。オレたちのように白い肌は警戒されるだろうから小麦色の肌の老魔術師へと結界変化をした。


「器用なヤツだ」


「お前は使い魔な」


 茶猫の首をつかんで肩に乗せた。


「お前らも話を合わせろよ」


 獣人のガキどもにも言い含めて空飛ぶ結界を降下させた。

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