第1350話 やれやれ

 朝になり、改めてグランドバルへ向けて出発した。


「あそこ、一晩の宿として捨てるのはもったいなくないか?」


 ワンダーワンドの柄に乗る茶猫が惜しそうに口にした。


「あそこにある。そう覚えておけばイイさ。ここにいる者は入れるようにしておくからよ」


 秘密基地は秘密だから価値があるし、いざと言うときに備えておくもの。この先、必要になれば使えばイイさ。


「お前は未来視でもできんのか?」


 そんなこと、前にも言われた記憶があるな。


「先が見えないから備えるんだよ」


 これも言った記憶があるな。


「備えが必要にならないことが一番さ」


 まあ、あのくらい失っても惜しくはねー。ならないならならないで問題ねーさ。


「ってか、どっちにいってるのか、わかってんのか?」


 先頭は勇者ちゃん。風の魔法で枝葉を斬り落としながら元気よく進んでいる。


「不思議とわかってるみたいだな」


 廃村からオーガの住み家まで結界を仕掛けてきた。オレにしかわからないのに、勇者ちゃんは空を飛んできた航路から外れてない。まあ、川があろうと崖があろうとお構いなし、だけどよ。


 昼には廃村に到着し、昼を食べてからグランドバルへと出発する。


 旅は順調で、なににも襲われることもなし。ただ、街道沿いの村はどこも廃れており、少し滅入ってくる。


「……金目蜘蛛の被害は酷かったんだな……」


 獣人のガキと出会ってから五日。廃れた村は数知れず。ララちゃんが嘆くのもわかると言うものだ。


「今日はここで野宿するか」


 大都市が近づいているのか、村と村の間隔が狭くなり、被害が生々しくなっている。これは金目蜘蛛の成虫なり、別の女王が生まれたっぽい。村で野宿は危険だと判断して川の近くで野宿することに決めたのだ。


「お前がいると野宿してる気分にならんな」


 土魔法で創った土のドームに茶猫が呆れている。


 まあ、なにもなければ焚き火を囲んでの野宿でもイイんだが、金目蜘蛛がいそうな雰囲気がある状況でのんきに野宿はしてらんねーよ。


 ミタさんが用意してくれた材料を鍋に放り込み、煮立たせる。


「芋煮か。子どもの頃、よく芋煮会をやったな~」


 芋煮会なんて言葉、久しぶりに聞いたな。こいつ、東北地方の出身だったのか?


「でも最近、肉が少なすぎないか?」


「ちゃんと昼には肉を出してるだろう」


 まあ、肉が少なくなったのは本当だな。収納鞄には勇者ちゃんに肉ばかり食べさせないで、野菜や魚も食べさせるようにと注意書きが入っていたのだ。


「肉食いたい! ハンバーガーが食いたいでござる!」


 うるさい猫だ。


「わたしもハンバーガーが食いたい! ペ○シ飲みたい!」


 ララちゃんも加わり、ハンバーガー食わせろコールを上げている。子どもか!


「村人さん、ボクもー!」


 勇者ちゃんまで加わってしまった。


「オレは母親か!」


 と言いながらもハンバーガーやペ○シを出してやるオレ、甘いな……。


 今日も今日とて大食いな食事をしていると、周囲に張った結界に衝撃が生まれた。


 ……今の感じ、銃弾だな……。


「どうかしたのか?」


 茶猫は感知してないのか?


「いや、なにかを感じたみたいだからちょっと外の様子を見てくる」


「おれもいくか?」


「イイよ。休んでろ」


 皆を残して土のドームから出る。


「カイナーズがなにかと戦ってるな」


 銃撃の音はしないが、サイレンサー的なものをつけて戦っているんだろうよ。


「あっちか」


 空飛ぶ結界を創り出し、音がするほうへと飛んでみる。


 やはり銃弾を放っているようで火花みたいなものが見えた。なにやら全方位に向けて放ってる感じだな。


「殲滅技が一つ、蜘蛛は外!」


 無限鞄から石の玉をつかみとり、銃弾が消える辺りへと放ってやる。


 纏わせた結界に金目蜘蛛に当たった感触がオレに伝わってくる。やはりいたか。


 結界灯をいくつも創り出して周辺へと撒いてやる。


「カイナーズ! 一ヶ所に集まれ! 二十秒後に絨毯爆撃をする!」


 返事は聞かず、空に結界を創り出す。


 結界に触れた金目蜘蛛の感じを思い浮かべながらを二十を数える。


「殲滅技が一つ、結界流星群!」


 結界を幾万もの礫に変え、地上へと降り注いでやった。


 雨のように降る結界の礫が金目蜘蛛を貫くのが感じ取れる。


「……えげつないですね……」


 練習で何度かやったが、実戦で使ったのはこれが初めて。もう感じられないくらい金目蜘蛛を殲滅していた。


「使いどころを選ぶ殲滅技だな」


「使いどころがある殲滅技ってのもどうかと思いますけどね」


 ご、ごもっともです。


 地上へと降り、カイナーズの元へと向かう。


「大丈夫か?」


 収納鞄を渡してくれたカイナーズかはわからんが、そこに三十人くらいいた。


「は、はい。大丈夫です。お手数をおかけしました」


「構わんよ。お前らだけか?」


 誰が指示を出してるかわからんが、やけに少ないな。いつもなら軍団で押し寄せるのによ。


「はい。べー様の邪魔にならないよう少人数でついてました」


「そうか。近づくのは困るが、自分たちの命も大切にしろよ。どうも金目蜘蛛の女王がいるっぽい。三十キロくらい離れているならもっと数を増やしてもイイからよ」


「了解しました」


 怪我人はいないようなので、皆の元へと戻った。


「明日からまた金目蜘蛛との戦いが始まりそうだな」


 まったく、やれやれだぜ。

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