第1348話 魔法使い
「まずは風呂に入れ」
ララちゃんはともかくガキどもは山を駆け回って汚れている。うちは汚れたまま入ることは許されないのだ。
風呂は外から入れるようにした。ふふ。オレに不備はねーのさ。
「面倒なことは他人に任せておいて偉そうに」
心の中のセリフに突っ込まないで! 口にしない良心はあるんだから!
外に出て風呂へと案内し、ララちゃんに任せた。
「わ、わたしが入れるの!?」
「ガキの世話くらいできるようになれ。勇者ちゃんですらできることだぞ」
ちょっと失礼な言い方だが、お姫様なクセに年下の面倒見はよかったりする。そう言うところは勇者としての素質があるんだよな。
「……ど、どう入れていいかわかんないよ……」
「ったく。情けねーな。じゃあ、オレが入れるよ。ララちゃんは暖炉に火を炊いておけ」
家を燃やしたってオチにしたら地獄見せるからな。
まったく、魔女は生活力ねーよな。館に戻ったら家事全般教えなきゃな。まあ、教えるのはメイドさんたちだけど! おっと。突っ込みはノーサンキューだぜ、幽霊さんよ。
「……幸せな方ですよ……」
それは認めよう。今のオレはハッピーでワンダフルなスローなライフを送ってるんだからな。
無限鞄から沸いた状態のポットを出し、伸縮能力でデカくして湯船に入れた。
「さすがに熱湯じゃ入れんな」
水を入れて温度を調整する。やはり水道を作るべきだったな。
なんて反省点を考えながらガキどもを洗ってやり、湯船に入れた。
「百数えるまで入ってろよ」
ガキどもの頭は結構イイようで、百まで数えられるのだ。
なんでや? と尋ねたら傭兵は敵の数を把握できなければいけないとのことだった。意外と言っては失礼だが、頭を使う傭兵のようだ。
百まで数えて風呂から上がったらガキどもを拭いてやり、新しい服を着せてやる。
「お前たち、よくやったな。立派だったぞ」
まあ、見てないんだけど、囮として働き、こうして生き抜いた。立派と言っても過言ではねーさ。
無限鞄から昔に作ったナイフ(鞘つき)をガキどもに渡した。
「あ、あの、これは……」
「働いた分の報酬だ。傭兵はタダ働きしないだろう?」
こいつらが傭兵と言うことはないが、命を懸けた仕事には報いるタイプ。タダ働きはさせないのだ。
「まあ、そんな名刀ってわけじゃない。もらっとけ」
牛乳を出してやり、皆で飲んでから風呂場から出た。
家が燃えたオチにはなっておらず、ちゃんと暖炉で薪が燃えており、柵にヤカンがかけてあった。
「──たっだいまぁ~!」
と、勇者ちゃんが帰って来た。早いこと。
「ご苦労さん。風呂入ってきな」
風呂の場所を教えてやり、新しいお湯に代えて、女騎士さんに任せて風呂場を出た。
「ララちゃんも入ってこい」
大人四人入ってもゆったりなサイズにしてある。そう狭くはならんだろうよ。
「そうする」
もう風呂に入ることが当たり前になっているようで、完全に入ることに抵抗がなくなっているようだ。
「猫も入ってきたらどうだ?」
ララちゃんに洗ってもらえや。
「お前、おれが元男なの理解してるか?」
「してるけど?」
その口調で女だったら今世紀最大のびっくりだよ。
「なら、女と一緒に入れるかよ!」
「なんだお前、前世は魔法使いになった口か?」
どうも茶猫は三十前後で死んだ感じがするし、女を知っている感じもしない。ララちゃんに抱かれるのもぎこちなかったしな。
「に、二十五で死んだし! 高校の頃は彼女いたし!」
それはもう知らんって言ってるようなもんだよ。
「今生はハーレムでも築くとイイさ」
「猫に囲まれても嬉しくねーよ!」
そうか? オレは猫派じゃないが、珍獣どもに囲まれるより最高なはずだ。って、珍獣ども、どこに置いてきたっけ?
まあ、きっと珍獣パラダイスで楽しくやってんだろう。あいつらがいなくてもハッピーでワンダフルなスローなライフは送れるんだからな。
「お前、人に化けられんの?」
「あいつらと一緒にすんなや! おれは普通の猫なんだよ!」
いや、普通ではないだろう。しゃべるだけで異常だよ。
「人になりたいときは言え。できるヤツに話を通してやるからよ」
エリナなら人にするのも難しくなかろう。まあ、変なオプションつけられるかも、だがな。
そのときは、長靴を履いたバージョンもつけてもらおう。
「……お前、碌でもないこと考えてるだろう……?」
「ソンナコトナイヨー」
純粋な願いを妄想しているだけです。
「と言うか、そろそろ体を元に戻せよ。魔物と間違われて狩られる未来しか見えねーよ」
「そのサイズは嫌か?」
「嫌じゃないが、元のサイズになれてるからな。いろんなところ入っていけるし」
身も心も猫になってんな。
そう言うことならと元のサイズに戻してやった。たぶん、そんくらいだったよな?
「──村人さん上がったよー! 飲み物ちょうだい!」
「はいはい」
ホカホカになった勇者ちゃんたちに牛乳を出してやった。
「村人さん、お腹空いた! お肉食べたい!」
「はいはい」
いっぱいガンバったのだから、カイナーズホームで買ったA5ランクな牛肉を出してやろう。
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