第1347話 痛し痒し

 ドォーン!


 と、爆発音が轟いた。


「勇者ちゃんですね」


 オーガを退治したら合図しろとは言ったが、なにも極大爆発魔法で知らせなくてもイイんだよ。誰かに見られてたら何事かと思われるだろう。


「ガンバったようだな」


 排除の仕方は指定しなかったが、静かに、一匹ずつ狩れとは指定した。


 オーガもバカじゃないから仲間がいつの間にか消えてたら恐れて逃げるはず。その状況になってガキどもを放置してオーガを追うか、やむなしと思って広範囲攻撃で仕留めるか、勇者ちゃんの状況判断を養う訓練も含めてあった。


 昼過ぎまでかかったところをみると、ガキどもを守りながらオーガを一匹ずつ狩ったようだな。


「次の巣で待つことにするか」


 五分ほど進むとオーガの巣があり、火を焚いて煙がよくでる金属のカスを放り込む。


 結界煙突を創り、まっすぐ上空に上がるようにする。


 しばらくしてまたドォーン! って爆発音が轟いた。


「別に真似ることもねーだろうに」


 ララちゃんも勇者ちゃん並みに魔法を使える。数年で殲滅の魔女になりそうだな。


「暴虐さんに紹介してみるのもおもしろいかもな」


 ララちゃんの性格からして暴虐さんと気が合いそうだ。


「引き抜くつもりですか?」


 オレの真意を見抜くレイコさん。察しがイイこと。


「そうできたらイイな」


 叡知の魔女さんは許さないだろうが、それなりの代償を払えばチャンスはあるかもな。まあ、なんの代償がイイかは思いつかんけど。


「ここのオーガの子は産まれたばかりか」


「見た感じ、一年も経ってないですね?」


「だな。赤ん坊のオーガなんて初めて見たよ」


 小さい個体は見たことあるが、赤ん坊は初めてだ。これはかなり貴重なサンプルだぜ。


「苦しまず殺したか。あいつらしいな」


 見過ごさなかったのは褒めるところだが、苦しまず一瞬で心臓を突き刺しているところが甘さを感じるよな。


「器用なことする猫さんですね」


「そうだな。突刺つっさなんてどうやったんだ?」


 指一本分の穴だ。尻尾で突き刺したのか? あ、いや、今は中型犬くらいになってるから尻尾じゃないか。う~ん。想像もできんな。


 まあ、ファンタジーな世界に生きる猫に前世の記憶を宿して産まれた。きっとオレには理解できない身体機能だったり能力があるんだろうよ。


 心臓がないのはちょっと痛いが、赤ん坊は貴重だ。これでよしとしよう。


 結界に封じ込め、無限鞄へと放り込んだ。


「今日はここで野宿するか」


 ここは一家族、若いのが三人で暮らしていたようで、穴を掘っただけのところ。結界に残しておく価値もねーだろう。


 土魔法で穴を拡大させ、八畳くらいのリビング風にする。


「ここに住もうとしてるんですか?」


 レイコさんの呆れにハッと我を取り戻した。野宿するのに本格的な家を造ってたよ!


「イカンイカン。熱中しすぎた」


 凝り性もすぎたら病気だな。


 暖炉を創っていたのを止め──るのはもったいないので、完成させて創るのを止めた。


「秘密基地にでもするか」


 まあ、いつ使うかは神のみぞ知る、だがよ。


「なにこれ!?」


 と、勇者ちゃんが入って来た。


「ご苦労さん。オーガは倒せたか?」


「うん。バッチグーだよ!」


 バッチグーって、どこで覚えてきたんだよ。いや、オレが広めたのを村で耳にしたか? 


「ベー様、気をつけてるようで結構前世の言葉、広めてますよ」


 そうなの!? まったく気がつかんかったわ!


「そうか。なら、女騎士さんを連れて来てくれや。心配してるだろうからよ」


 きっとたい焼きを食いながら心配してるはず。たぶん。


「わかった!」


 バビュンと飛び出していった。


「だ、大丈夫なんですか? ここまで空を飛んで来たんです」


「大丈夫だよ。勇者ちゃんは野生児だから」


 お姫さまに生まれたのがよかったのか悪かったのか、難しいよな~。


「わたしは、よかったと思いますよ。あの能力では」


 そう、だな。あの能力は迫害の対象になる。オレのように前世の記憶があり、それなりの人生経験を積んで、世渡りができるくらいコミュニケーション能力がないと健やかには生きていけんだろうよ。


「今は、ベー様がいますからね」


「オレは苦労させられてるがな」


 神(?)はどんだけオレに厄介なのを押しつけんだよ。ほんと、これ以上は止めてくれ、だよ。


「わたしが神でもベー様に預けますよ。転生者は世界を壊しかねない能力を持ってるんですからね」


 責任を取らせたいなら前の世界の神(?)に責任を取らせろよ。こっちは迷惑でしかねーわ。


「まあ、その能力を利用させてもらってるんだから痛し痒しだよ」


 同じ能力を願わなかったお陰でやることに汎用性を得られた。ヤオヨロズ国を建国ができるのも転生者が集まってくれたからだ。


「なにより、丸投げできるのが最高だな!」


 きっかけを与えて面倒なことはやってもらえる。もうサイコーかよ! である。


「……そう言うところがなければもっと信頼されるのに……」


 信用ならまだしも信頼なんてそこそこでイイんだよ。信頼は重い。それは簡単に人を潰せるくらいにな。そんなもん、オレには不要だ。利用し利用される関係が楽でイイ。オレがオレであるためには、な。


「なんだ、これ!?」


「なんのホビットだよ!?」


 ララちゃんと茶猫がやって来た。


 まあ、気の合う友達関係になれるのが一番なんだけどな……。

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