第1343話 いい傭兵は生き残った傭兵だけだ

 しかし、よく生きてたもんだよな、こいつら。


 体を洗ってやりながらしみじみ思う。


 いつからかはわからんが、この痩せ細った体から数ヶ月は隠れて生きてきたんじゃなかろうか?


「お前ら、食うもんはどうしてたんだ?」


「……村に隠してあったものを食ったり、ネズミを捕まえたりしてた……」


 やはり、隠し庫はあったか。よく見つけたもんだ。


「親とはなんではぐれたんだ?」


「おれたち傭兵の民で、旅をしてたら蜘蛛に襲われたんだ。とーちゃんに逃げろって言われて皆と逃げたんだ」


 傭兵の民? そんなのがいるんだ。初めて聞いたわ。


「首都を目指してた、ってわけか」


「うん。何年かに一回、出稼ぎに首都にいくんだ」


 それって竜王との戦いでか? ラーシュが倒すまで四年に一回の間隔で竜王が攻めて来てたと手紙に書かれていたからな。


「なるほど。傭兵の子だから生き残れたわけか」


 身体能力が優れているとは言え、子どもだけで数ヶ月も生き抜くなんて奇跡に近い。傭兵の子として心身ともに鍛えられてなければとっくに死んでいるところだ。


「うん。いい傭兵は生き残った傭兵だけだ、ってとーちゃんが言っていた」


 それは好感が持てる傭兵だ。ってか、そいつ転生者の子孫じゃないよな? この世界で生きてるヤツがそんなこと、なかなか言えんぞ?


「そうか。なら、とーちゃんと会ったら武勇伝を語ってやれ。きっとたくさん褒めてくれるぞ」


「褒めてくれるかな?」


「オレなら褒めるし、自慢にも思うな。教えを守って生き抜いたんだからな」


 こいつを見てるだけでわかる。イイ教育をして深い愛情で守っていたことをな。そんな父親なら絶対褒めるさ。


「そうなら、いいな」


「そのためにも生きて首都にいけ。父親と会うまでが生き残りだ」


「うん!」


 見た目的にそれほど差はないだろうに、ここに満ちる空気は父と子のような感じだ。


 ……オレって、見た目より老けて見えるんだろうか……?


 まあ、何歳に見られようが気にはしねーが、もうちょっと見た目にも気をつけんと相手に警戒される恐れがある。生意気なクソガキが一番やりやすいんだよな。


「もう、誰も思ってませんよ」


 風呂に入ってるときは離れてろや! 


「離れてますよ。べー様の心の声は離れていても聞こえるんです。憑いてるんですから」


 ほんと、もう憑いていることを隠す気もねーな! どこかのメルヘンのように着脱式になれよ!


「それはプリッシュ様と深く繋がっているから可能なんですよ。普通は離れられませんからね。」


 君たちの普通なんて知るかよ! こっちは幽霊も妖精もいない世界から転生してんだからよ!


「だから転生者ってズレてるんですね」


 幽霊からズレてると言われる転生者。納得できねー!


 もんもんとしながら綺麗になったガキどもを湯船から出し、着替え……ようとして服が汚れていたのに気がついた。洗濯するの忘れてたわ。


「村人さ~ん! 女の子の服ってある~!」


 あちらも上がったようで、勇者ちゃんが服のことを訊いてきた。


「あるよ。ちょっと待ってくれ」


 孤児院に寄付するためにバリアルの街と王都で古着屋を片っ端から買い占めた。そのときの収納鞄があったはずだ。


 無限鞄から古着を詰めた収納鞄を取り出し、子どもが着れそうなのを漁った。クソ。テキトーに詰め込むんじゃなかったぜ。


 五歳の女の子が着れそうなのを選び出し、隣に放り投げてやる。


「下着は勇者ちゃんのを穿かせてやってくれ」


 ミタさんなら代えの下着を用意して持たせてるはずだ。


「ボクのだとちょっと大きいかもよ?」


「プリッつあんの力で小さくするから今はそれを穿かせてくれや」


 野郎どももオレの代えのパンツを着させ、伸縮能力で調整してやった。


 ……プリッつあんの能力って、何気に役に立つよな……。


 風呂を出ると勇者ちゃんたちも出てきた。


「勇者ちゃん、何気に服のちょいすイイんだな」


 洒落っ気のないオレでもわかる。コーディネートはこうでねーとって感じだった。


「そう?」


 本人は無自覚か。今度、花月館に連れてってみるか。コーリンたちと話が合うかもな。


 まあ、勇者ちゃんの隠れた才能はともかくとして、女の子とわかるくらいには綺麗になった二人の服を調整してやった。


 海竜の頭を焼いたところに戻ると、女騎士さんとララちゃんも戻っていた。茶猫はどこに消えた?


「オーガのメスがいたわ。今、マーローが追っている」


「やはりいたか」


 オーガは基本、狩りはオスがするが、子がいなければメスも狩りの手伝いをしたりする。今回、子がいないメスが遠くから見張ってたんだろうよ。


「じゃあ、猫が帰って来るまで待つとするか」


 近くにいるとしても棲み家は数キロは離れているはず。いって戻って来るまで陽は沈んでいるだろうよ。


「殺すの?」


「ああ、殺す。オーガは人にとって害獣だからな」


 非道、とか言わんでくれよ。オーガは増えると食物連鎖を崩しかねない。まあ、人も似たようなもんだが、人の未来かオーガの未来か。選ぶならオレは人を選ぶ。だから殺す。それだけである。


「もちろん、子も殺す。情けは無用だ」


「うん、わかった!」


 オレが勇者ちゃんを買っているところはそれだ。ちゃんと敵を認識して、無用な情をかけない。人を守る勇者であるところだ。

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