第1344話 囮

 陽がだいぶ暮れてから茶猫が帰って来た。


「遅かったな。なんかあったのか?」


「ああ。一ヶ所じゃなく、バラバラいたせいで数を把握するのに時間がかかったよ」


 バラバラ? 核家族化問題か? いや、オーガは核家族な種族だったっけな。


「それはちょっと厄介だな。各個撃破してたら逃げられるかもしれん」


 襲って来たオスの数からしてメスは四、五十くらいになる。子も混ぜたら七十くらいになるだろう。この五人で各個に襲っても半分は逃げられるかもな。


「全滅は難しいか?」


「あっちも生きるか死ぬかだからな。必死で逃げるだろうよ」


 羽虫だって死ぬ気になれば実力以上の力を出すものだ。何匹は逃すかもしれんな……。


「何匹かならしょうがないだろう」


「まあ、そうなんだがな。できることなら全滅させておきたい」


 ここで全滅させてもどこかからか渡って来るだろうが、それまでの時間を作っておきたい。この地域の生き物(小動物)が回復する時間をな。


「なんか方法があるのか?」


「そのバラバラって、どのくらい離れてるんだ?」


「だいたい山一つ分にバラけてたな」


「益々厄介だな」


 一月くらい用意してからってんならともかく、気づかれないうちに山を囲むなんて到底不可能。無茶言うな、だ。


「誘いよせるか?」


 今、オーガは空腹の絶頂だろう。肉でも置いとけば集まって来るんじゃねーか?


「お、おれらも手伝わせてくれ」


 と、年長者のガキがそんなことを言ってきた。


「お前らに?」


 その年齢ではオーガの子すら勝てるかどうかだろうに。


「囮になる! 走りなら負けない!」


 囮って、それはイイな!


「おいおい! それは児童なんたらに抵触するんじゃねーのか!」


 児童なんたらってなんだよ? 突っ込むならしっかり覚えておけや。


「この世界にはねーよ。囮猟なんてよくやってることだ」


 まあ、よくやってることを忘れていて偉そうなこと言えんけどよ。


「だが、こいつらまだ子どもだぞ」


「十歳なら狩りに出ても不思議じゃねー歳だよ」


 オレやトータは別としても八歳から見習いとして狩りに出るヤツは多いもんだぜ。


「だが!」


「じゃあ、お前がサポートしてやれ」


 茶猫をつかみ、中型犬くらいにデカくしてやる。あまり大きくすると囮にならんからな。


「そのサイズなら守ってやれんだろう?」


「……お前、種を冒涜しすぎだよ……」


 冒涜してるならとっくに長靴を履いた猫にしてるわ。


「囮になるにしてもそんな貧弱だとオーガも本気にならん。しっかり食って旨そうに見せろ」


 海竜を出して焼き、囮になるヤツらにしっかりと食わせてしっかりと睡眠をとらせた。


 獣人と言うのは身体能力や治癒能力が高い種族だが、一晩で回復するとかどうなってんだ? 


「猫。先にいってオーガの気を引いておけ。なるべく引きつけて、大いに煽っておけ」


 オーガは直情だ。いったん頭に血が上ったらなかなか収まらない。そこにガキどもを見たら確実に釣れるだろうよ。


「わかったよ」


「本能に負けて狩るなよ」


 全滅させれるなら構わないが、いくら最強の猫でも不可能だろうよ。


「わかってる。役目はちゃんと果たすよ」


「村人さん。作戦はあるの?」


 勇者ちゃんから作戦なんて言葉が出るなんて。ちゃんと成長してることにウルッときたぜ……。


「詳しい作戦はオーガがいるところを見てからだな。天の時は地の利に如かず、だ」


「????」


 まだ勇者ちゃんに早いか。魔王ちゃんならわかってくれるんだがな……。


「まあ、イイときを待って有利な場所で戦えってことだよ」


「????」


 うん。戦略より戦術を学ばせろってことだ。


「頭のイイヤツを仲間にしろってことだよ」


「うん、わかった!」


 この素直さも伸ばしていこう。うん……。


「女騎士さん。ガキどもを頼むよ」


 そっとチョコレートを渡す。勇者ちゃんと離すために。


「っ!」


 スッゴい笑顔でサムズアップする女騎士さん。その清々しさに心の底から敬服するよ……。


「オーガがいるところまでいくぞ」


 空飛ぶ結界を創り出し、勇者ちゃんと囮三人を乗せる。ララちゃんはワンダーワンドです。


「猫さんの場所わかるの?」


「問題ない」


 茶猫には結界マーカーをつけてある。おおよその方向はわかるし、二キロくらいまで近づけば位置は把握できる。


「いくぞ!」


 空飛ぶ結界をゆっくりと浮かす。ガキどもが驚かないようにな。


「と、飛んでる!?」


「なんで?!」


「落ちない!?」


 四メートルも浮いてないのにガキどもには相当恐ろしいらしい。


「落ちないようにしてあるから安心しろ」


 六十キロも出したらおっしっこ漏らしそうな勢いなので、二十キロくらいに抑えておいた。


 しばらく進むと、茶猫につけた結界マーカーを感じ取ったが、スゴい勢いで移動していた。


「張り切ってること」


 よっぽどガキどもを危険にさらしたくないんだな。


「勇者ちゃん。オーガの気配とかわかったりするか?」


「う~ん。わかんない。ボク、そう言うの苦手だから」


 能力頼りか。やはり経験が足りてないようだな。


「ララちゃんは?」


「わたしもわからない。オーガは魔力がないからな」


 こちらも経験不足か。無駄に強いと育てるのも難しいぜ。


「お前たちはわかるか?」


 念のため、ガキどもにも訊いてみた。


「そんなに詳しくはわからないけど、なんとなくはわかる」


 小さくても獣人は獣人か。種族特性と言うのはおもしろいもんだ。


「なら、オーガの気配をよく感じておけ。ララちゃん、こいつらの魔力は感じれるな?」


 強くはないが獣人にも魔力はある。オレでも微かに感じれるんだからララちゃんにも感じられるはずだ。


「なんとなくはね」


「なら、こいつらの魔力を覚えろ。位置が把握できるくらいにな」


「また、無茶を言ってくれる……」


「魔力感知も魔女の必須だろう? うだうだ言ってないでやれ」


 ただ強い魔法を撃てるだけならいくらでもいる。魔力感知や知識も修めてこその魔女なはずだ。


「勇者ちゃんは目を鍛えてオーガを見つけろ」


「わかった!」


 さあ、オーガ殲滅といきますかね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る