第1342話 百数えるまで
ラーシュからの手紙で南の大陸に獣人がいるとは書いてなかったし、他の種族がいるとも書いてなかった。
だが、こうして獣人がいるのだから認めて受け入れるしかねーだろう。
「お前ら、この村の者か?」
茶猫が物怖じせず、獣人のガキどもたちに声をかけた。こいつのコミュニケーション能力も高いよな。
「おれらは旅の者だ。お前らをどうこうするつもりはない」
猫のように前足で顔を拭った。洗うか? なんだ?
獣人のガキどもは戸惑いながらオレたちを見回している。
この場は茶猫に任せたので、口を出すことはしない。腕を組んで茶猫と獣人のガキどもを見守った。
こちらがなにもしないことを悟ったのか、一番年長(九歳くらいかな?)が一歩前に出た。
「……あ、あんたら、どこから来たんだ……?」
「あの山を越えてきた。向かう場所はグランドバルだ」
ってか、グランドバルって地名か? 街名か? なんだっけ?
「街ですよ」
ナイス幽霊。感謝です。
「グランドバルにいくなら連れてってくれ! もしかしたらとーちゃんたちがいるかもしれないんだ!」
年長のガキの訴えに、茶猫はオレへと振り返った。
「お前が決めたらイイさ。なあ、勇者ちゃん?」
「うん、いいよ! 弱い者を守るのが勇者だもん!」
「……すまない……」
「謝られることはなにもねーよ。お前が決めた。なら、オレらは一蓮托生だ」
一人は皆のために、皆は一人のために。この世界でも優れたパーティーはその心構えだと、親父殿が言っていたよ。
「目的は決められた。なら、次は行動だ。勇者ちゃん、オーガの死体を埋めてくれ。ララちゃんと女騎士さんは周囲の警戒。猫はこいつらに海竜を食わせてやれ」
「わかったー!」
「しょうがないわね」
各自、割り振りをしてオレは風呂の用意をする。ガキども、何日も体を洗ってない感じだからな。
井戸があったところへ向かい、土魔法で風呂を創り、結界を使って水を湯船に入れる。
薪で水を沸かしている間に洗い場を創る。石鹸とか買っておいてよかったぜ。
「女の子もいましたからもう一つ作ったほうがいいのでは?」
え、いた? まったく気がつかんかったわ。
「何人いた?」
獣人ガキどもは八人いたが、すべて野郎にしか見えなかったぞ。
「二人ですね。五歳くらいの子です」
五歳くらい? あ、いたな。天パのが。あれか。
「じゃあ、もう一つ創っておくか」
ガキとは言え女だしな。勇者ちゃんに面倒見させるか。小さい子には面倒見イイからな。
風呂を完成させて戻ると、獣人ガキどもが海竜の頭肉に食らいついていた。
よっぽど腹が減っていたんだろうな~。見たこともない海竜の肉を食ってるんだからよ。
「なあ、なんか飲み物ないか? こいつらが飲めるやつ?」
「獣人が飲めるやつか?」
「飲めるやつか。なら、牛乳でイイだろう」
カイナーズホームで牛乳をたくさん買ってある。
「なんか飲ませちゃダメなやつでもあるのか?」
「こいつらがどうかはわからんが、獣人は酸っぱいものや刺激があるものは好まないな。食い物も薄味だったし」
中にはそうじゃない者もいるが、そう言うヤツは病気になっていたよ。
「そう言うこともあるんだな」
「お前も獣の体なんだから塩分は控えろよな」
ハンバーガーとかペ○シとか刺激物しか食ってねーんだからよ。
「おれの体は大丈夫だよ。ネズミ食っても死ななかったしな」
まあ、好きにしたらイイさ。病気になったら致死量ギリギリまで血を流させてからエルクセプルを飲ませてやるからよ。
「……碌でもないこと考えてるだろう……?」
「薬師として考えているまでだ」
失敬な。オレはいつでも健康を考える薬師だわ。
「……ララリーさんがやったことは認めるんですか……?」
成功例はいくつ見ても困らない。失敗例があったらそれはそれでイイけどな。
牛乳を出してやると、なんの疑問にも思わず飲み出した。乳を飲む文化があるのか?
「ガキどもが食い終わったら風呂に入れさせろ。用意したからよ」
「え? おれが入れんの?」
「なんだお前、風呂に入れないのか?」
まあ、猫が風呂に入るイメージねーけどよ。
「いや、入れるが、入れろってのは無理だろう。おれ、猫だぞ」
あーまあ、そうだな。確かに無理を言ったわ……。
「なら、オレが入れるよ」
昔はトータを風呂に入れてやったしな。
「村人さ~ん! 終わったよ~!」
「あいよ。ご苦労さん。悪いが、獣人の女の子を風呂に入れてやってくれるか? 井戸の横に風呂を創ったからよ」
「女の子? うん、わかった!」
と、迷うことなく女の子の腕をつかんで風呂へと連れていった。
「勇者ちゃん、見分けできるんだ」
なんかショック。勇者ちゃんならわからないと思ってたのに……。
「ガキども! 風呂に入るぞ」
まあ、イイ。さっさと野郎どもを風呂に入れるとするか。
戸惑うガキどもを結界で引っ張っていき、ボロボロの服を脱がせて体を洗ってやる。
次々と洗ってやり、湯船に放り込んでやる。
「雑だな、お前」
「男の扱いなんて雑でイイんだよ」
まあ、雑にやってたらトータは三歳で一人で入るようになったけど。
「ゆっくり浸かれよ」
我慢できず上がろうとするガキどもを押さえつけながら百数えるまで入れさせた。
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