第1341話 えげつな!
手加減を学べと言った張本人が手加減に苦労していた。
……オーガってこんなに弱かったか……?
指弾で脚が吹き飛ぶとか、紙装甲にもほどがあるだろう!
「ムズい」
生活する力加減はできてるのに、戦いになると殲滅になってしまう。オレの頭の中のリミッター、オンとオフしかねーのか?
「このままだと早々に壊滅ですね」
「確かに」
手加減しているとは言え、全員の一撃が致命傷を与えるレベル。X3辺りがイイ練習相手かもしれんな。
「もう倒したらどうです? なんだか意味ないように思いますけど」
「言い出しっぺがそれじゃ示しがつかんだろう」
「今にも爆発しそうな勇者ちゃんなら喜ぶと思いますよ。あと、ララリーさんも」
見るからに不機嫌な勇者ちゃんと今にもキレそうなララちゃん。茶猫はどうでもイイ。
「そう、だな。あれじゃ手加減が身にならんか」
あんな嫌々じゃなんも身にもならん。訓練は意識してやらんと意味ないからな。
「勇者ちゃん! ララちゃん! もう倒してイイぞ!」
「やったー! 食らえっ!」
金色夜叉をフルスイング。オーガキングのホームラン! えげつな!
「塵と化せ!」
炎の竜を創り出してオーガたちを炭とするララちゃん。えげつな!
「ここにいる全員がえげつな! ですけどね」
あーうん。そうだね。オーガ数十匹が一分もかからず殲滅されれば。ジェノサイドってこう言うことを言うんだろうな……。
「勇者ちゃん。魔石を採るぞ」
魔石を体内に作る生き物を魔物と呼ぶ。殺したならしっかり採ってあげて有効に使ってやるのが殺した者の弔いである。
「ララちゃん、解体はできるな?」
確か、ヤンキーを解体してたはず。そのときに嫌な顔はして……たっけ? 記憶にねーや。
「で、できるけど、あれで魔石とか残ってるのか?」
「たぶん、あるはずだ。妹が炭にしたときはちゃんとあったからな」
魔石は体の奥、心臓の下辺りにある。どう言う構造かはわからんが、炭化しても魔石は綺麗なままだった。
ナイフを出してオーガの胸を裂き、ゴリゴリとほじくると、緑色をした魔石が現れた。
「うん、あったあった」
魔力の指輪に魔石の魔力を吸わせると、なかなかの魔力量があった。
「結構生きたオーガだな」
オーガの寿命はわかってないが、一説では五、六十年は生きるらしい。ただ、医療技術もない野生だから二、三十年が精々だろうとは親父殿が言っていた。
「勇者ちゃんは解体できるか?」
「村の子に猪の解体の仕方は教わったよ」
いつの間に。オレが思う以上にコミュニケーション能力が高いのか?
「じゃあ、オーガの解体を教えるよ」
頭が潰れたオーガを土魔法で創った台に乗せ、やり方を見せてやった。
「端から見てると猟奇でしかねーな」
このファンタジーな世界では日常だよ。
まあ、オレも最初の頃はキラキラを吐き出してたが、百体も解体すれば気にもならなくなるわ。
「勇者ちゃんは、気持ち悪くねーのか?」
「全然!」
それはそれで心配になってくるよな。勇者ではあるが一国の姫だしな。
「取れた~!」
「上出来上出来。次は一人でやってみな」
ほとんど力業だが、あとは捨てるのだから問題ナッシング。
「うん、わかった!」
「ララちゃんはどうだ?」
「皮膚が硬くて刃が通らないよ!」
何度もオーガの肌にナイフを突き刺してるが、刃先がちょっと刺さってるていど。やはり、オーガの肌は硬いものだった。
「ララちゃんって、こんなことできるか?」
指先に火を出してみる。
「え? ええ、まあ。火柱になるとは思うけど……」
「火柱にしないよう火を圧縮させて糸のようにする。ちょっとやってみ」
「わ、わかった」
って、こっち向けんな。人がいないほうを向いてやれよ!
深呼吸を何度かして、指先に──炎を吹き出した。火炎放射器か!
「そこから絞るように炎を圧縮させろ! 細く細くしていけ!」
一旦、炎を消し、集中してから炎のロープを吹き出した。
何度かやると糸くらいまで絞られた。天才か!
「今度は出す時間を短く。指の長さくらいに収めろ」
細くしたコツを覚えたのか、数分で一メートルくらいまで短くできた。
「まあ、それでイイよ。今のでオーガを切り刻んでみ」
「わかった」
指先をオーガに向けて、炎の糸──もうレーザーと言ってもイイか。ジュッと音がしてオーガの体を貫いた。
「スゴいスゴい。あとは練習あるのみだな」
自分のやったことにびっくりして唖然としているララちゃんの肩を叩き、オーガの解体を任せた。
勇者ちゃんもすぐに慣れ、ララちゃんに構ってる間に二十頭から魔石を取り出していた。
土魔法で穴を掘り、オーガの死体を放り込む。後片付けまでが狩りだからな。
十時くらいにはすべてのオーガから魔石を取り出すことができた。
「大猟大猟。冒険者ギルドに持っていったら一財産だな」
どのくらいになるかはわからんが、六十個以上あれば二、三年は遊んで暮らせるかもしれんな。
オーガ自体がB級冒険者が相手にする魔物だ。そこから取れる魔石は高額になるはずだ。
「ララちゃん。まだ魔力はあるか?」
「少しなら」
「じゃあ、オーガを燃やしてくれ」
変な病原菌が広まらないようにな。
「わかった」
穴へと手のひらをかざし、白みを帯びた炎を吹き出した。えげつな!
他に燃え移らないように見張っていたら、茶猫がオレの肩に乗ってきた。どうした?
「出て来た」
と言われ振り返ったら、数人の子どもがいた。ただし、獣人の子どもがな……。
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