第1337話 獣センサー

 新しい朝が来た、のはイイんだが、山小屋の外は阿鼻叫喚。あちらこちらに金目蜘蛛の死骸が転がっていた。


「殺しも殺してナンマンダブナンマンダブ~」


 結界で集めて微塵切り。遠くに投げて森の養分となりなさ~い。


「皆、しっかり食って、今日中には人のいるところにいくぞ!」


「おー! いくぞー!」


「元気! 勇気! 笑顔! それでこそ勇者ちゃんだ!」


 魔王ちゃんとは逆の方向に突き抜けていてよろしい。それが勇者ちゃんのイイところであり一番の魅力だ。


「ララちゃん、体の調子はイイな?」


「ああ、絶好調だ!」


 吹っ切れたようでやる気に満ちている。いずれ殲滅の魔女となるだけはある。


 できあいのもので朝食を済ませ、食休みしてから出発した。


「ってか、人のいる方向、こっちでいいのか?」


「よし、ララちゃん。空から確かめろ!」


「思いつきで進んだのかよ!」


「なんとなくで進んだまでだ!」


「同じだよ、アホが!」


 なんて和気藹々。ララちゃんが道を見つけてくれたので、指示を受けながら朽ちた道へと出た。


「グランドバルへの道かな?」


 道幅からして街道だとは思うが、朽ちすぎて判断できん。でも、下っているんだから麓へはいけるはずだ。


「まあ、間違えるのも旅の醍醐味だ。ダメならダメでそのときに考えればイイさ」


「行き当たりばったりだな」


「なんの情報もない未知の土地にいくんだ、臨機応変にやるしかねーよ」


 先がわからないから旅は楽しいのだ。まあ、厄介事はノーサンキューだがよ。


「ん? なんか来るぞ!」


 獣センサーが働いたのか、ワンダーワンドの柄に乗る茶猫が毛を逆立てた。


 ……なに気に優秀なセンサーを持ってるよな、こいつって……。


「勇者ちゃん、わかるか?」


「うん。あっちから獣の臭いがするよ。数匹いるっぽい」


 こっちもこっちで獣センサー搭載か。感覚派ばっかりのパーティーだぜ。


 しばらくしてオーガっぽい黒い肌の獣鬼が四匹現れた。


「なんか痩せ細ってね?」


「金目蜘蛛のせいでエサが不足してたんだろう」


 肉食系の蜘蛛らしいし、あんだけいれば獣もいなくなるだろうよ。


「どうする? 殺しちゃう?」


「可哀想だからボコボコにしてやれ」


「ボコボコにするのは優しさかよ?」


「殺されないだけマシだろう」


 殺しに来た相手を殺さずに帰してやる。優しさ以外なにものでもねーだろうが。


「それに、オーガを絶滅させた引け目があるからな、罪滅ぼしさ」


 死んでしまったオーガに罪滅ぼしできないのが申し訳ねーが、せめてこの大陸のオーガには優しくしてやろう。


「勇者ちゃん、手加減の見極めも強くなる秘訣だ。殺さないていどにボコれ」


「……ほんと、悪魔的思考をするヤツだよ……」


 弱肉強食な世界じゃ常識的思考だわ。優しく生きたいのなら誰よりも強くなってから実行しろ、だ。


「女騎士さんとララちは、周囲警戒だ。オーガは群れで狩りをする生き物。何匹か隠れてるぞ」


「あ、確かにいる! あそことあそこに隠れてるぞ!」


 どこまでも優秀な獣センサーだな。まあ、家猫と化して緊張感は欠落してるようだがな。


 隠れているのは二人に任せ、オレは勇者ちゃんの戦いを観戦する。


 今の勇者ちゃんを倒すなら千匹くらい連れて来なくちゃ無理だろうが、力をセーブしながらの戦いでは六匹でも苦労していた。


「勇者ちゃん、力みすぎだ! それではすぐ殺してしまうぞ! もっと力を抑えろ!」


「む、難しいよ!」


「難しくてもやれ! 強くなりたいのならな! 自分の力を理解して、相手の強さを見極めろ!」


 オレも五トンのものを持っても平気な体をコントロールするのに苦心したものさ。衣服に結界を施さなかったら両親を殺してたところだ。


「ど、どうしたらいいかわかんないよ!」


「金色夜叉を匙と思え! 食事しているときは使えているだろう。それは心が落ち着いているから手加減ができているんだ。つまり、今の勇者ちゃんは慌てているからできないんだ。落ち着け。心を平常にしろ」


 冷静になれば勇者ちゃんは力をコントロールできると言うこと。なら、やれ、だ。


 とは言ってもすぐにできるものではねー。手加減できずに三匹をボコ死させて戦いを終わらさせた。


「……難しい……」


「まあ、よくガンバったほうさ。次はもっと上手くやろうな」


 強さも一朝一夕には身につかないもの。日々努力だ。


「ほら! くよくよしない! いくぞ!」


 落ち込んでいる暇があるなら前を見て進め、だ。


「オーガ、このままでいいのか? 剥ぎ取りとかせんの?」


「食いたいのか?」


 それはちょっとドン引きなんですけど。


「いや、食いたいとは思わねーよ。退治したら剥ぎ取りじゃねーのか?」


「まあ、皮とか剥ぎ取ることもあるが、今回は森の獣にくれてやるよ。オレたちは冒険者じゃなく勇者パーティーだからな」


 お宝を落としたらありがたくいただくが、勇者は戦闘でレベルアップするのがお仕事。戦って戦って強くなることが先決。剥ぎ取りしてる暇はねーよ。


「……現実でやると虐殺でしかねーな……」


 まあ、それは捉え方次第。気にしちゃ負けだぜ☆

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