第1338話 村の探索
陽が暮れる前に村に着けた──のはイイんだが、もう何年も人が住んでない廃村だった。
「金目蜘蛛にやられたのかな?」
「それっぽいな」
争った形跡はないところを見ると、攫われたか逃げたかのどちらかだろう。
「酷いね」
「こう言うところはたくさんあるよ。アーベリアン王国でも珍しくねー。十一年の人生で三回は見たよ」
魔物に滅ぼされるなんて日常茶飯事。冒険者が生活していける最大の理由がそれだ。
「まずは村の様子を確かめる。勇者ちゃんと女騎士さんとで村の周辺を。オレとララちゃんは村の中だ。なにかあればすぐ合図。なにもなければ三十分後にここに集合だ」
女騎士さん、どこで仕入れたのか腕時計してました!
「わかった! マリー、いこう!」
金色夜叉を振り回しながら村の探索に向かった。
「なあ、おれは?」
「猫にしかいけないところを自由に見て回ってろ」
規模的に二、三百人。家は三、四十はある。歴史的に見ても古そうだから隠し倉庫とかありそうだ。猫ならでは視点で探ってくれ。
「了解」
と言うことで、オレらも探索を開始する。
「ララちゃん。なにが隠れてるかわからんから油断するなよ」
「な、なにかいるのか!?」
「それがわからんから探索してるんだよ」
茶猫はなにも感じないようだったが、この世には幽霊やら精霊やら精神体的なものもいる。最近じゃ宇宙生命体までいる始末。もう悪魔が出ても驚きはしねーよ。
……世界はそれを裏切るから油断できねーんだよな……。
「金目蜘蛛の他にもオーガが来たっぽいな」
「どうしてわかるんだ?」
「地面を見な。この丸い穴がいくつもあるだろう。これが至るところにある。それを消すようにオーガの足跡がある。オーガの足跡の幅、短いだろう。これで辺りを警戒してるのがわかる。大きさの違う足跡がいくつか。群れで来たんだろうよ」
この大陸のオーガの生態はわからんが、オレらの大陸のオーガは家族単位で行動する。多くて十匹。少くて二匹なのだが、ここにある足跡は二十以上ある。
「群れたか」
オーガも強敵が現れたら群れて対抗する、らしい。オレは群れる前にアレしちゃったから本当かどうかはわからんが、この足跡を見たら正しいのだろう。
「昼の群れか?」
「さすがにそこまではわからんが、オーガの行動範囲を考えたらあの群れの確率は高いな」
オーガは狩りをする魔物。一日で二十キロも歩いたりする。オーガの生態を知るために一月ほど観察したのはイイ思い出だ。
「まあ、ここに来るのはたまにっぽいな」
「なぜだ?」
「食い物がないからだよ」
村周辺にある畑は荒れていた。植えるものもなければ実ることはねー。取り残しが育ったとしても、とっくに食べ尽くしているだろうよ。
「なのに、たまに来ている理由はなんだ?」
もしかして、オーガたちは隠し倉庫があることを理解してるとか? んなわけねーか。穴をほじくり返した跡もねーしな。
慎重に見て回るが、これと言ったものはない。村長と思われる家も入念に探索しても空の地下庫があっただけ。ネズミの死骸すらなかったよ。
「ヤンキーが住み着いた様子もなしか」
ゴブリンが廃村に住み着くこともあるが、そんな様子もねー。
三十分して集合場所に戻ると、勇者ちゃんたちが戻っていた。
「どうだった?」
「ウサギがいた!」
痩せこけたウサギを掲げてみせる勇者ちゃん。ちゃんと探索してた?
「生態ピラミッドが崩壊してたか」
草食動物がこれでは金目蜘蛛の大暴走が起こる一歩前だったようだ。
「女王蜘蛛を倒さないとまた増えるか」
こんなことならもっと詳しく聞いておくんだったぜ。
「猫くんは?」
茶猫は猫くん呼びなんだ。もしかして、猫って名前だと思ってんのかな?
「べー様が猫って呼んでるからでしょうに」
あいつ、なんて名前だっけ?
「マーローですよ。べー様は名前を覚えられない呪いでもかかってるんですか?」
単に見た目のインパクトがありすぎて名前が頭から溢れるだけだ。
「探しにいく?」
「いや、行き違いになるのは止めておいたほうがイイ。あいつならなにがあっても逃げられるしな」
伊達に煤の街で生きてきたわけじゃねー。牙ネズミも狩るくらいには強いし、狭い場所にも入れる。生き残ることに関しては最強の生き物だろうよ。
「とは言え、すっかり暗くなったし、夜営の用意はしておくか」
土魔法でかまくらを創り、襲撃に備えて結界で覆った。
「せっかくのウサギだし、捌いて食うか」
四人で食うには少ないが、狩ったのならありがたく食うのがウサギへの弔いだ。ウサギにしちゃイイ迷惑だろうがな。
「今日はウサギだけ?」
「ワカサギがまだあるから揚げて食うよ。あ、そう言えば、海竜の肉があったっけ」
すっかり忘れてた。小さくして無限鞄に入れてたっけな。
「勇者ちゃん、どんくらい食べる?」
「いっぱい!」
うん。なら、一匹出して捌くか。
手頃な海竜を出して元のサイズに戻し、前ヒレの部分を切り落として残りは無限鞄に戻した。
「結界乱舞!」
で、捌き、塩を振りかけ、串に刺して炭火でじっくりと焼く。その間にウサギを捌いて同じく焼いた。
イイ匂いが辺りに満ちる頃、茶猫が戻って来た。
「どうだった?」
「生き残りがいた」
とのことだった。
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