第1335話 努力が近道
すっかり暗くなり、どこにしようかと迷っていたら、都合よく山小屋を発見できた。
「あそこに泊まるぞ」
半分朽ちているが、屋根があるだけマシだ。煙突もあるしな。
「勇者ちゃんと女騎士さんは警戒を頼む。山小屋を快適にする」
「わかった!」
二人に任せ、山小屋を結界で覆い、埃やカビを吸い出し、空いた穴は土魔法で塞いだ。
中はなにもなく、廃棄された山小屋なのがわかった。
無限鞄からクッションを出して伸縮能力でデカくしてララちゃんを結界で移した。
「ララリー、大丈夫なのか? 顔、真っ青だぞ」
「体に異常はないはずだ。おそらく、精神的なものが作用してんだろう」
精神は専門外。ララちゃんの気力と根性に任せるしかねー。
「ララちゃんを見ててくれ。夕食の用意するからよ」
暖炉に薪を放り込んで火をつけた。
山小屋内が暖まったら外の二人を呼んだ。二重結界にしたから金目蜘蛛が押し寄せてもモーマンタイだ。
「そう言えば、けんちん汁食べそこねたな」
気候的に鍋じゃなくてもいいんだが、ララちゃんの氷地獄で温かいもんが食いたくなる。こんなことなら鍋物を入れておくんだったぜ……。
まあ、食えるものはあるので感謝していただこう。あ、勇者ちゃん。パンケーキばかりたべないの。女騎士さん、たい焼き好きね。もう十個は食ってるよね?
「おねーさん、起きないね?」
腹も満ちてホットチョコを飲む勇者ちゃんと女騎士さん。見てるだけで胸焼けしてくるな。
「顔色はよくなったからそのうち起きるだろう」
脈を測ると正常に打っている。やはり精神的なもので目覚めないのだろうよ。
「まったく、薬師泣かせの魔女だよ」
使用法使用量を守らせてくれない患者ほど厄介なものはねー。まあ、オレがまだまだ未熟ってことなんだろうがな……。
「村人さん。たい焼き食べたい」
「また食うんかい?」
オレを胸焼け死させる気か?
「魔法いっぱい使ったからお腹膨れないの」
もしかして、神(?)が勇者ちゃんに介入したのってそれか?
思い起こせば確かにたくさん食っていた記憶がある。タケルと同じ枷か?
「王都にいたときもそんなに食ってたのか?」
「力抑えてたからそんなには食べなかった。村人さんのところに来てからいっぱい食べれるようになって嬉しかった!」
「あー食ってたな、なんの大食い大会かと思ってたよ」
オレだけ知らなかった事実。オレ、そんなに周りに目を向けてなかったのか?
「ま、まあ、食いたいだけ食えばイイさ」
食う子は育つ。いっぱい食って実力をつけろ。それはオレのためになるんだらな。
「そうだ。勇者ちゃんに返すの忘れてた。ほら、落とした収納鞄だ」
「あ、村人さんが拾ってくれたんだ! ありがとう!」
「今度は落とせないようにしたから安心しろ」
オレもまさか落とすなんて想像もつかなかったよ。オレ、失敗。
「中のものも補充してあるから風呂でも入って来な」
「うん! マリー、入ろう!」
たい焼きを無限食いする女騎士さんの腕をつかみ、収納鞄へと入っていった。
「お前も入って来たら?」
「いいよ。舐めれば綺麗だから」
「猫か」
「猫だよ」
前世人間なのに猫に生まれたことを許容してんだな、お前。猫転生、結構イイものなのか? イイならオレも猫に生まれたかったよ。
……ネズミを追い回す生き方は嫌だけどよ……。
「ん? 起きたみたいだぞ」
茶猫が起き上がり、ララちゃんの頬を舐めた。行動が完全に猫だな。
「自分がなにをしたか覚えているか?」
ララちゃんの目の焦点がオレに合ったので問うてみた。
「……わたし、生きてるのか……?」
「大図書館の魔女さんから預かったひよっこを死なせたらオレが殺されるわ」
まあ、殺されたりはしないだろうが、軽蔑はされるだろうな。そんなの殺されるよりゴメンだわ。
「説教する気はないが、自分の軽率さは反省しろ。下手したら死んでたんだからな」
咄嗟に動けたオレ、グッジョブだわ。
「わたしは、ちゃんと魔法を使えるようになったのか?」
「それは元気になってから自分で確かめろ。今は心と精神の回復に勤めろ。魔力失調症と言うより精神が未熟だ。健全な肉体には健全な精神を持たなければ一生未熟なままだぞ」
オレ特製の栄養剤を飲ませた。
「今は眠れ。眠れないのならこれまでの自分を振り返れ。過去の自分に打ち勝てないヤツは未来の自分にも勝てないぞ」
偉そうに、なんて言わんでくれよ。これは前世を無駄に生きた男からのお節介なんだからよ。
「…………」
「お前には才能がある。あとは、その才能に相応しい心と精神を持てばイイだけだ。慌てず、一歩一歩極めていけ。地道な努力が頂点への近道だぞ」
スローなライフの頂点を目覚して今を一歩一歩楽しんでるオレが言うのだから間違いないぜ。
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