第1333話 災難に次ぐ災難
「なんか嫌な気配がする」
麓へ向けて歩いていると、ララちゃんのワンダーワンドの柄先に乗る茶猫が呟いた。
「勇者ちゃん、感じるか?」
「ううん、なにも感じないよ?」
オレもなにも感じない。考えるな、感じろもなにも言って来ない。だが、猫の気配察知を蔑ろにはできない。こいつも変な能力を持っているからな。
「どう嫌な気配なんだ?」
「いろんなところから見られてる感じだ」
「それは、囲まれているってことか?」
夕暮れどきだから森は暗くはっきりとは見えないが、それらしいものは見えない。なにかいるのか?
「……たぶん、今も嫌な気配は増えている……」
「つまり、見えぬ存在は大軍か」
レイコさんがなにも言わないところをみると幽霊や精霊の類いじゃねーな。
「……魔物や獣ではないとなると、植物か蟲、か……?」
この大陸にも動く植物はいるし、蟲はなかなか気配を感じるのは難しいのだ。
「ボク、蟲嫌い」
「……わ、わたしも嫌だ……」
女騎士さんは我関せず。ふ~んって感じだった。やはりこの人は鋼の精神を持っているようだ……。
「勇者ちゃん、雷撃てるか? デカいの?」
「うん、撃てるよ。あいつには効かなかったけど」
あいつとはX5のことだろう。まあ、宇宙生命体なら耐電できても不思議じゃねーか。
「じゃあ、目の前の木に撃ち込め」
「──雷、大きいの!」
なんかズッコケるかけ声だな。まあ、著作権が絡まないからイイけどよ。
ドドン! と胸の奥まで響く雷が木に落ちた。
「これで死なないとか、X5の恐ろしさがよくわかるよ」
「そんなのに殴りかかっていくお前も恐ろしいけどな」
まだわからないからできたんであって、知ってたら結界で何重にも封じ込めたことだろうよ。
「それよりなにか見えたか?」
「なにか黒いのが動いたよ」
勇者ちゃんが指差す方向に、黒い靄? いや、塊か? なんかわさわさ動いてるな? Gか?
「……もしかして、蜘蛛じゃないか……?」
「蜘蛛?」
と、四方からカサカサと言う音がしてきた。
「もしかして金目蜘蛛か?」
ラーシュの手紙に書いてあった。金目蜘蛛の災害のことが。
「なんだよ、金目蜘蛛って?」
「お前、ハリーなポッターくんの映画、観たことあるか?」
「……ある。つまり、うじゃうじゃ出てくるやつか……」
「そうだな。この大陸では度々金目蜘蛛の災害と言うのが起こるらしい。金目蜘蛛自体は猪くらいしかないが、増えると数千匹になるそうだ」
食料が尽きると森から溢れ、生きてるものなら人でも食らうそうだ。
「さらに毒を持っているとかで、増える前に倒すのが最善らしいな」
「……つまり、今は最悪ってことか……」
「まったく、災難に次ぐ災難だな」
オレ、そんなに運が悪いのか? まあ、何度も大暴走に遭遇してると災難とも思えなくなってるがな。
「蜘蛛を倒すぞ」
「大爆発させる?」
「それは止めなさい。この一帯を砂漠にしたらラーシュに会わせる顔がねーよ」
「もう侵略してて会わせる顔もないだろうが」
「対価は払うから問題はねー」
ラーシュやその周りを黙らせる手はいくつも持っている。なんら恐れる必要もナッシング、だ。
「勇者ちゃんは殴り殺せ。女騎士さんは斬り殺せ。ララちゃんは森が燃えない魔法で殺せ。猫は……食われないようにしとけ」
「はん! 見くびるな! 蜘蛛ごとき敵じゃねーよ!」
「ボク、蟲が……」
「金目蜘蛛に人が襲われてたら見捨てるのか? 困ってる人々を見捨てるのか? それ、勇者として恥ずべき行為だ」
「…………」
「勇者が逃げてイイのは戦略的撤退のときだけだ。勝てる戦いや人々が困っているときに逃げたら勇者ちゃんは勇者じゃない。二度と勇者と名乗るな」
金目蜘蛛がわらわらと現れる。Gよりは許容できる光景だな。
「勇者ちゃんと女騎士さんと猫が前衛。オレが中衛。ララちゃんが後衛だ」
たった四人+一匹で四方から襲い来る金目蜘蛛の猛攻に堪えられないだろうが、オレはオールレンジ砲台。どこから襲って来ようが死角なし。
「ララちゃんはオレの補助な」
「変なあだ名で呼ぶな!」
ララちゃん、可愛いのに……。
「殲滅技が一つ、鬼は外!」
ズボンのポケットから鉄玉を握り出し、襲い来る金目蜘蛛の軍団に放ってやった。
「鬼は外って、種族差別にならんの?」
「あ、そうだった。変えようとして忘れてたわ」
鬼がいる世界だとメンドクセーぜ。
「では、鬼は外を改めまして。殲滅技が一つ、蜘蛛は外!」
語呂がよくねーが、殲滅技名にカッコよさを求めてもしょうがねー。これでよし、だ。
「さあ、やるぞ!」
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