第1332話 ペ○シが繋ぐ友情

 転移した場所は地下に降りたときの大穴のところだ。


 未だに水蒸気が上がっていて、カイナーズの連中はいなかった。


「勇者ちゃんもここから入ったのか?」


「ううん。別なとこ。なんかうじゃうじゃしたものに襲われて、穴の中に引きずり込まれた。なんとか倒したけど、強いのが出てきて負けちゃった……」


 たぶん、X5のことだろう。あれに勝てるのは消滅魔法でもねーと無理だろうよ。


「まあ、自分より強いヤツはいくらでもいるさ。カイナなんてその筆頭だろう?」


 勇者ちゃんもカイナの魔力にビビッてた。オレだって最初は背筋が凍る思いがした。あいつが本気になっら消滅魔法でも押さえつけるのは無理だろうな。


 ……亜神レベルだからな、あいつはよ……。


「だがな、勇者ちゃん。強い相手を倒す方法を見つけるのが人であり、群れることが弱い者の生存戦略だ」


 と、言っても勇者ちゃんには伝わらないか。ちょっと頭が足りない子だしな……。


「強いヤツと戦うときは仲間を揃えろってことだよ。このメンツならX5くらいなら余裕さ」


「おれを数にいれるなよ。猫の中では最強ってだけなんだからよ」


「わ、わたしも数に入れるなよな。まだ見習いなんだから」


「人の真価は追い詰められたときにわかるものだ」


「自分の実力を把握してるから言ってんだよ! 追い詰められたって覚醒しねーんだよ! わかれよ!」


 猫の覚醒なんて期待してねーよ。お前はマスコット。うっかり八兵衛な役回り。旅を賑やかせろ。


「……なんでわたしがこんな目に……」


「ったく。辛気臭いヤツらだ。旅の出発なんだからテンション上げろよな」


「無理矢理連れ出された旅にテンションなんぞ上がるかよ! おれは炬燵で丸くなって、たまに散歩する生活がいいんだよ!」


「ヤオヨロズ国の四天王がなに言ってんだ。そんなことじゃ四天王最弱と言われるぞ」


「猫なんだから最弱でもいいんだよ! つーか、勝手に四天王とかにさせてんじゃねーよ!」


 なんて茶猫の怒りなど右から左に流して出発する。


「どこにいくの?」


「山脈向こう、グランドバルだよ」


 勇者ちゃん、そこへいこうとしてたんだろうが。


「せっかくだからラーシュのところにいこうと思ってな。と言うか、ルククに乗ってればラーシュのところにいけたのに、なんで途中で降りたんだ?」


 今さらな問いだけどよ。


「大きな赤い竜に襲われて落ちちゃったの。そのあと猿みたいなのに襲われてルククとはぐれちゃった」


 大きな赤い竜? 火竜か? いや、火竜は渡り竜を襲ったなんて話、聞いたことねー。新たな竜王でも立ったのか?


「赤い竜は倒したのか?」


「雷で追い払うのが精一杯だった」


 それはまた、聞きたくなかった情報だな。


「まあ、この世界、凶悪な竜がいっぱいいるしな。珍しくもねーか」


「そう言えるお前が珍しい存在だと理解しやがれ」


「お前は突っ込み以外言えんのか? たい焼きでも食ってろ」


 首根っこをつかみ、たい焼きを出して口の中に突っ込んでやった。


「……旨いな、このたい焼き……」


「あ、村人さん、ボクも食べたい!」


 わたしも! と女騎士さんから強い念と気配が押し寄せて来る。もう物理攻撃だよ。


 たい焼きを出してやり、皆に配った。


「……美味しい……」


 ララちゃんもたい焼きが気に入ったようで、両手に持って食べている。ワイルドやね。


「おい、ペ○シくれ」


「ボクはイチゴミルク!」


「同じく!」


 って、女騎士さん、声出せたんだ!


「わ、わたしもペ○シを」


 魔女がペ○シって、どこで覚えてきたんだよ?


「お、ララリー、ペ○シの旨さがわかるのか?」


「あれは神の味がした」


「そうかそうか。わかるヤツがいて嬉しいぜ!」


 ペ○シで繋ぐ友情ってか? 謎の関係だな。


 猫と魔女なんてお似合いだが、なぜかこいつらの友情に興味が湧かない。つーか、どうでもイイわ。好きにやれよ、だ。


「たい焼きはいっぱいあるからあとで吐くくらい食わしてやるよ。陽が暮れる前に寝床を探すぞ」


 ちんたらやってたらうるさいのが追いついて来る。大勢で進軍なんてメンドクセーわ。


 山脈の頂上まで二キロくらい。オレらの足なら問題はねー。まあ、魔女さんはワンダーワンドを使ったが、難なく山脈を越え、眼下に広がる光景にしばしときを忘れて見入ってしまった。


「あそこグランドバルか。異国情緒があっていいな」


 まあ、このファンタジー世界、どこにいっても異国情緒ばかりだけどよ。


「陽が暮れるまでには麓まで下りるぞ」


 さあ、どんなところか楽しみだぜ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る