第1330話 二人はバケモノ

 勇者ちゃんは良くも悪くもだんだん単純な子だ。動いている間に本来の性格が現れてきた。


 威力を落とした結界パンチを金色夜叉で打ち返している。


「足元がお留守になってるぜ!」


 土魔法で創り出した剣山を打ち込む。


「お留守じゃないし!」


 体を捻って金色夜叉で打ち砕いてしまった。


 どんな反射神経と運動神経してんだよ。魔王ちゃんが負けるのも頷けるわ。


 オレも殺戮阿吽を出して阿で勇者ちゃんに打ち込むが、痺れるくらいの一撃で返されてしまい、吽も弾き返されてしまった。


 転生したこの体も反射神経も運動神経もイイほうだが、やはり戦闘センスは皆無だな、オレ。いや、勇者ちゃんがバケモノなのか。まったく、戦闘に極振りしたヤツと遊ぶのは疲れるぜ。


 ってか、これでサプルに勝てないとか、サプルはどんだけバケモノなんだよ? 兄のメンツを保つのも一苦労だぜ。


「アハハハハ!」


 ヤベー。なんか勇者ちゃんのスイッチが入ったみたいだ。


「殺戮技が一つ、花吹雪!」


 手のひらくらいのヘキサゴン結界を回転させたものを大量に創り出して花吹雪のように相手を切り裂く技だ。


「水の嵐!」


 風を生み出し、湖の水を混ぜて花吹雪を相殺してしまう。メチャクチャだな!


「王都が滅ぼされてないのが奇跡だな」


 こんな最終決戦用みたいなもん王都でやってたら滅んでるぞ。


「殺戮技が一つ、結界パンチ、連打!」


 オラオラオラと怒涛の連打を食らわせ、勇者ちゃんを近づけないようにするが、勇者ちゃんの反撃ラッシュがえげつない。これならX4くらいなら単独で倒せそうな気がするぜ。


 威力的にはオレのほうが勝ってるが、戦闘センスは勇者ちゃんのほうが勝っている。しかも、戦えば戦うほど勇者ちゃんの戦闘センスは研ぎすまされていく。


 ……ヤベーな。このままじゃ押し切られそうだ……。


 勇者ちゃんを屈服させる方法はあるが、それでは勇者ちゃんをまた不能にしてしまう。これは勇者ちゃんを復活させて成長させるもの。戦いでしか勇者ちゃんは学ばないのだ。


「千本桜!」


 結界球を創り出して雨のように勇者ちゃんへと打ち出した。


「そんなの前に見切ったもん!」


「それはどうかな?」


 結界球の中には空気を圧縮したものを混ぜており、知らずに打ち返したとたんに破裂して意識が削がれた。


 結界球を湖に打ち込み、水柱を立てて勇者ちゃんの視界を遮った──ら、水柱が一瞬にして凍ってしまった。


 考えるな、感じろが働き、防御結界を展開した──瞬間、紅蓮の炎に包まれた。


「殺す気だな!」


 こっちは手加減してんのに勇者ちゃんは本気である。


 ゴンと防御結界に衝撃が走り、ヒビが走った。竜に踏まれても平気なのにな!


 さらに衝撃が走り、またヒビが走る。


「なんか力が増した感じだな」


 筋力が倍になっちゃう魔法でも使ったか?


 結界を修復するが、ヒビが走るが早い。どんだけ連打してんだよ……。


「不味いな」


 破れる──と判断すると同時に一部を解いて脱出。空飛ぶ結界で上空へと逃げた──ら、背筋がゾクッとした。


「──防御結界っ!!」


 ドン! 結界を揺るがす衝撃が襲って来た。


 ……か、雷か……!?


 さらに衝撃。視界は真っ白。参ったと言うタイミングがない。隙を見せたらジ・エンドになりそうだわ。


「──止めんか、バカ者が!!」


 ごつんと頭に雷が落とされた。


 いや、正解に言うなら拳骨がオレの頭に落とされたのだ。


 ……い、いだい……!


 オレに痛みを与えるにはそうとうな力仕事がないと無理なのに、これまでないくらいの痛みが襲っていた。


「迷惑を考えんか!」


 結界を操ることもできず悶えていると、叡知の魔女さんの声が辛うじて聞き取れた。


 ……な、なにが起こってるんだ……?


 なにか温かい力が体に流れて来たと思ったら痛みが和らいだ。回復魔法か?


 首根っこをつかまれながらどこかに運ばれ、砂浜に放り投げられた。


「バカ者どもが、そこに正座しろ!」


 魔女に正座を強要されるオレ。どこから突っ込めばよいのだろうか?


「正座だ、バカ者が!」


 また拳骨を頭に落とされ、痛みに悶えり返る。


 ……痛みがこんなに辛いとは忘れていたぜ……!


「そこの娘もだ!」


「はひっ! ごめんなさい! 殴らないでください!」


 勇者ちゃんの声。オレと同じく拳骨を落とされたようだ。容赦ねーな。


「痛みが引いたら正座せんか!」


 回復魔法をかけられ、杖で殴られた。殴らないで!


 勇者ちゃんと並んで正座した。


「お前らはバカか! 人がいるところで騒ぎよって! どれだけの者に迷惑をかけたかわかっておるのか!」


 大図書館の魔女とは思えないほどの気迫になにも言えない。ただひたすら説教され続けられました。


「よいと言うまで正座しとれ」


 一時間くらい説教され、罰として正座を申し渡された。


「リンベルク、見張っとれ!」


 あ、委員長さん、リンベルクって名前なんだ。


「反省してないようならこれでひっぱたけ!」


 と、鞭を委員長さんに渡す叡知の魔女さん。虐待は罪なんですよ。


「……館長の拳骨で死なないとか二人はバケモノね……」


 バケモノ二人を殴るお方はなんなんでしょうね? とは心の中で思っておく。鞭で殴られたくないので。


「三日もすれば許しも出るでしょうからがんばりなさい」


 なんの慰めにもならないことをおっしゃる委員長さん。長い三日間が始まりましたとさ。


 ちくしょ~~う!

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