第1329話 スーパー村人
食事を済ませたらコーヒーで腹ごなし。のんびりしてたら食堂から人がいなくなった。
「就寝時間か?」
「はい。サプル様の時間に合わせてますから」
自由なサプルだが、生活リズムはきっちりしている。ってまあ、まだ九歳なんだから夜はそんなに強くないんだがな。
「ミタさんも寝てイイんだぜ」
一度、眠っているところを見てみたいよ。本当に眠る生き物か知っておきたいからさ。
「わかりました。ミレテラ、ハーニ、シオス、しっかり見ててくださいね」
あら? あっさり受け入れちゃったよ。どうしたの?
「ミタさん、どうした?」
食堂から消えてから残ったメイドさんに尋ねてみた。
「ミタレッティー様から口止めはされてましたが、ミタレッティー様はベー様が目覚めるまであまり眠っていませんでした」
と、答えてくれたのは赤鬼のメイドさん。あ、この赤鬼メイドさん、クルーザーにもいたな。名札にはミレテラと書かれていた。
「困ったミタさんだ」
オレなんぞ雑に扱っても構わんのによ。
「ベー様は、わたしたち魔族の恩人であり希望ですから」
まったく、オレはオレのために魔族を利用してんだから恩とかいらねーんだがな。希望にするんじゃなく利用しろよな。
「困ったもんだ」
動き難くてたまらんよ。
「それで止まるようなベー様じゃないでしょうに」
気持ちの問題だよ。見えない鎖が絡められてる気分だわ。
いつもなら自分の世界にダイブして、のんびりゆったりするのだが、どうにもこうにも居辛い。
「運動するか」
こう言うときは体を動かすのが一番だ。
メイドさんたちは止めなかったが、食堂から出るとメイドさんが増える。展望デッキに出るまでに大奥か! ってくらいに増えていた。
「邪魔クセーわ! 散れや!」
オレはサプルほど寛容ではねー。メイドを引き連れる毎日なんて堪えられんわ!
「わたしたちが残ります。他は下がりなさい」
赤鬼メイドさんや他二人の命令でメイドたちが下がっていった。
「ベー様。邪魔にならないようしますので、わたしたちだけは残してください」
「勝手にしな」
ミタさんが選んだのか、この三人は存在感が薄い。いや、気配を消してる。よくよく見ればこの三人、水輝館からいたな。
「いや、人魚の国にいくときにはいましたから」
あれ? いたっけ? まったく記憶にございませんな。
「ベー様の目はなにを見てるんですか?」
ワンダフルライフだよ!
「スローライフだったのでは?」
どちらも目指してんだからイイんだよ!
「まあ、ミタレッティーさんの直属っぼいから邪魔にはならないでしょう。今までだって邪魔とは思ってなかったでしょうしね」
反論のしようがねー!
運動不足以上に鬱屈してきたので殺戮阿を抜いて素振りを始めた。
オレは左右打ちができるので、左右百回の素振りをこなした。
ふぅー。現役時代は左右三百回はやったのに、たった左右百回でへばるとはな。能力を鍛えて体を鈍らせてたぜ。
少し休んでまた素振りを始めた。
また左右百回をこなし、展望デッキに大の字で倒れた。
さすがに息切れを起こし、全身から汗が吹き出した。だが、久しぶりの運動は気持ちがイイ。やっぱオレは体を動かすタイプだぜ。
満天の星空を眺めていたら視界の隅に勇者ちゃんが入って来た。
「……眠れんのか……?」
視線を向けると、柱の陰に隠れてしまった。見ない間に恥ずかしがり屋にでもなったか?
まあ、恥ずかしがり屋を無理やり引っ張って来てもよけいに隠れるだけ。出て来るまで待つのが最良だ。
勇者ちゃんが出て来るまで夜風を浴びながら満天の星空を眺めた。
時間がゆったりと流れる。
「……ボク、勇者として失格かな……」
いつの間にか勇者がオレの隣で体育座りしていた。
視線を動かすと、女騎士さんが柱の陰からこちらを覗いていた。
……あの人は変わらんな……。
精神が強いのか、鈍感なのか、主が落ち込んでいるってのにクッキーを頬張っている。もう尊敬できるレベルだな。
「それを決めるのは誰でもなく勇者ちゃんだ」
勇者ちゃんは転生者だ。だが、前世の記憶を持たぬまま転生してしまった。
厄介だよな。願った理由を奪われ、能力だけ持たされるってのは。
オレもそうなるから気軽に願った。生まれ変わったあとなんて知らないんだからな。
反則級の能力をコントロールするなら願ったときの思いや考え、生きて来たバックボーンがものを言うのだと、いろんな転生者を見て強く思うよ。
「勇者ちゃんは、なんのために勇者と名乗るんだ?」
「……神様がそう言ったから……」
たぶん、前世の勇者ちゃんが勇者であることを知らしめるために神の啓示としたんだろうな。
花人族に転生したチャコが勇者ちゃんを誇りなきゲーマーと称した。自ら勇者を目指すのではなく、ゲームのキャラを選択するように勇者を選んだんだろう。
「なら、これは神の試練だ。勇者たる強さを与えるためのな」
「……試練……?」
「勇者は、この世で一番強い存在か? 誰にも負けない強さを持った者か? どうだ?」
「……ボクは弱い。負けちゃった……」
「だから試練なんだよ。勇者に弱さを教え、強敵がいることを示し、乗り越える勇気を持たせるためにな」
勇者ちゃんの背中をバン! と叩いた。
「下を向くな! 立ち上がれ! 前を見ろ! その足を動かせ! 勇気を奮い立たせろ! 弱いのなら強くなれ。一度二度の敗北で落ち込むな。勇者は常に強い敵と戦うんだからな」
勇者ちゃんより先に立ち上がり、その腕をつかんで湖へとぶん投げてやった。
「自ら立てないならオレが無理やり立たせてやるよ!」
空飛ぶ結界を創り出し、湖へと飛び出した。
ひよっこ勇者にスーパー村人が真の強さとはなにかを教えてやるぜ!
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