第1323話 領事館的なところ
トンテンカン。トンテンカン。
オレは村人大工の子。朝から晩まで家を造る~。
トンテンカン。トンテンカン。
立派なとーちゃんに負けない家を造るぜトンテンカン。
「ベー様のお父様、冒険者ではありませんでした?」
ちょっと、オレの心の歌に突っ込まないでよ!
暇ならどっかいってろよ離脱式幽霊が。
セーサランの襲撃は度々起きて、カイナーズや魔女さんたちが撃退してる。ここで家造りを見てるより好奇心が満たされんだろうがよ。
「巻き込まれて滅されたくありませんよ。あの消滅魔法、わたしまで消滅させる力があるんですよ」
まさに消滅魔法。おっかねーな。
「ベー。休憩しようか」
サリネ──ではなくマイスターの言葉で休憩に入った。
「ご苦労様。ベーがいると仕事が進んで助かるよ。もうわたしの弟子になりなよ」
「ふふ。マイスターにそう言われるのは光栄だが、オレは器用貧乏。本気でやるヤツらには勝てないよ」
ある程度まではできるが、飛び抜けた技術を得られるまでにはならない。まあ、人生を楽しむなら器用貧乏は最高だがな。
「まあ、ベーは自由でいるのがいいのかもね。そのお陰でわたしは最高の職場を得られたんだからね」
「そう言ってもらえることが最高に光栄だよ」
自分の人生を快適にするために誘ったが、それで満足してもらえるなら素直に嬉しいぜ。
休憩も終わり、また家造りを開始する。
オレ一人でも数日で家を建てれるが、匠レベルのサリネと才能ある弟子が三人もいると一日一軒のペースで建てられ、十日にはちょっとした町レベルになった。
「店とかあるとイイかもな」
住むだけの家だけってのも味気ねー。食堂か喫茶店が欲しくなるぜ。
「やっても儲けが見込めないだろう。魔女さんしかいないんだから」
「なら、魔女さんにやらせるか」
大図書館に魔女が何人いるかわからんが、伝手は無駄にありそうな気がする。やりそうなヤツくらいダース単位で用意できんだろう。
「ってなことで補佐長さん。叡知の魔女さんに話を通してよ」
窓口係か監視係かわからんが、委員長さんと一緒にずっと家造りを見ていた。他人事ながらご苦労様だよ。
「なにが、ってことよ! 簡単に言わないで!」
「帝国と南の大陸がどれほど離れているかわかってるんですか?」
「繋げばイイだろう。帝国にも転移魔法ぐらいあるんだからよ」
前に公爵殿が言っていた。転移は特級機密事項だと。ないのならそんなこと言わないだろうし、広めたくないから隠しているってことだ。
ましてや知識の管理人みたいな立場にいる魔女が知らないわけがない。それどころか総元締めでもオレは驚かないよ。
「……な、なぜそれを……」
「叡知の魔女さんが転移結界門に驚かなかったからな」
無表情な叡知の魔女さんだが、興味があることには正直だ。初めてのことには目を輝かし、視線を動かしている。なのに、転移結界門にはそんな反応はなかった。
「ふーん。補佐長さんくらいまでなら周知されてんだ」
委員長さんも驚いてはいるが、補佐長さんとは違う驚きのように見える。重要な役職者までは周知の事実なんだろうよ。
「帝国の秘密を触れ回ったりはしないから安心しな。まあ、そちらがなにを秘密にしてるかわからんからついしゃべっちまうこともあるかもしれんけどな」
長い歴史があると秘密も多い。どこかから流出して、オレに流れて来ることもある。こちらには帝国の公爵や情報屋との繋がりがあるんだからな。
「すぐに話を通します──」
バビュンと駆けていく補佐長さん。ガンバれ~。
「……あなた、どれだけ怖いもの知らずなのよ……」
「怖いものなんてたくさん知ってるよ」
アレとかアレとかアレとかアレとかな! 考えただけで股間がキュッとするわ……。
「帝国とは仲良くしたいからな、しゃべらないでってことはしゃべらない。墓まで持っていくよ」
なので知られたくない秘密があるなら事前に教えてくれよな。
「……悪辣な村人ですね……」
帝国と仲良くするんだから情報を共有するのは大事なことだろう?
しばらくして魔女軍団がやって来た。
……どんな暗殺集団よりおっかねーかもな……。
「話は聞いた。帝国から人を連れて来よう」
話が早くて助かるよ。
「人員は任せるが、住むところはそちらで用意してくれ。力は貸すんでよ」
仲良くするなら資金や人材も仲良く出し合うもの。片方だけ負担するなんてナッシングだ。
「ここら辺一帯は帝国に貸し出す。帝国の法で管理してくれ。そちらの許可がない限り、こちらは踏み入れたりしないからよ」
ここを領事館的な一帯とする。
「随分と譲歩するの?」
「帝国にもそんな場所を作るときはよろしくな」
ヤオヨロズが国と成ったときの布石だ。帝国が認めたなら他の国も認めざるを得なくなるからな。クク。
「よかろう。話を通しておく」
「境界線はそちらで決めて、壁とか造ってくれな」
たくさん金を使ってこの一帯を開発してくれや。発展すれば経済も生まれるだろうからな。
「わかった」
ニヤリと笑い、マイスターたちに撤収準備を伝えた。
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