第1322話 マイスター
次の日は朝から雨だった。
「しょうがねー。結界ドームを創るか」
今のオレなら半径三十七メートルまで使用能力が広がった。まあ、ヘキサゴン結界ならそれ以上にも広げられるが、あれは結構集中力がいる。
訓練としてやってもイイんだが、家を造ることに集中したいので、使用能力範囲の結界ドームで作業することにした。
「便利だね、べーの力は」
「そうだな。この力にはいろいろと助けてもらってるよ」
昔は濁していたが、魔女さんたちにはバレている。なら、素直に認めるまでだ。
「よし。サリネ親方。今日はなにをする?」
「お、親方って、なんか歳を取った気になるから止めてくれ」
「もう弟子を取ってるんだから親方でもイイだろうが」
ハーフとしては若いかも知れんが、弟子を取れるくらい生きてんだから現状を受け入れろよな。
「それでも親方は承服しかねる!」
なに難しい言葉使ってんだよ。インテリか。
「じゃあ、マイスターにしろよ。どこかの国の言葉で巨匠って意味だから」
ヨーロッパの……どこだっけ? まあ、親方よりはお洒落な響きだろう。
「……マイスター。巨匠……」
なんか気に入った様子。ミーハーか。
「マイスター、いいね! よし。皆、今日からマイスターと呼んでおくれ!」
「「「はい、マイスター!」」」
素直でノリがイイ弟子だな!
「よし! べーとヨミロンは地盤高くして固めてくれ。湖畔は地盤が緩いからね」
「サリネは──」
「──マイスター!」
どんだけマイスターを気に入ってんだよ。まあ、気に入ったならイイけどよ。
「マイスターは、木工職人なのに家とか橋とかよく作れるよな?」
木工職人なら家作れんだろうと言う軽いノリで頼んじゃってごめんなさいね。
「木工職人だけでは食べていけなかったからね、いろいろやったんだよ」
そう言や、前にそんなこと言ってたような? 芸術肌なのに泥臭いことするヤツだったんだな。
「あいよ、マイスター」
「わかりました」
「べー。ヨミロンに土魔法を教えてくれないか? わたしは土魔法が使えないんでね」
「別に教えるまでもねーだろう。筋肉ねーさんの土魔法は匠の域だぞ」
こちらが学ばせて欲しいくらいだ。
「べー様さえよければ教えて欲しいです」
頭を下げる筋肉ねーさん。
「ってことだから教えてやってくれよ」
「まあ、そう言われたら断れねーな」
頭を下げられて拒否できるほどゲスじゃねー。教えられることは教えてやるさ。
「んじゃ、やるか」
「よろしくお願いします」
ってことで土魔法を教えることとなり、まず手本を見せた。
「凄い。どうしてこんなに固くできるんです?」
「土は粒の集合体だ。でも、それは一つじゃなくさらに小さい粒の集合だ。その集合体には隙間がある。それをなくすと土は固くなる。ただ、土にも種類があり、いろんな種類が集まっていて、不揃いのままだと脆くなるんだよ」
土は土と言う概念だから土魔法を学ぶ者が少ないのだ。
「土の種類や特性を学ぶとこう言うこともできる」
手のひらを地面に向け、鉄を集めて剣を創った。
「今は軽くやったが、もっと集中すれば良質な鉄を集めることも可能だ」
「……そんなこと考えたこともありませんでした……」
「知ったなら学んでいけばイイさ。あんたには土魔法の才能があるんだからよ」
筋肉ねーさんは感性がイイ。知識が加わればオレ以上になると思うぜ。
ゆっくりと教えたいところだが、今は地盤を固めることを教えるとしよう。
手本を見せながら実践させ、細かなアドバイスをするを繰り返していると、ミタさんがやって来た。
「おう、ミタさん。ご苦労様。任せちまって悪かったな」
男のオレじゃどうしようもないとは言え、面倒なことを押しつけちまった。労いと謝罪をしておこう。
「いえ、これもべー様のメイドとしての仕事ですから」
本当に頭が下がる思いです。
「で、勇者ちゃんは?」
あまり褒めても困るだろうからそこで止めておく。仕事の評価はココノ屋の駄菓子で報いよう。
「まだ気落ちしておりますが、体は回復しました。今はヴィアンサプレシア号でサプル様とプリッシュ様が慰めております」
プリッつあん、ヴィアンサプレシア号にいたのか。まったく、落ち着きのないメルヘンだよ。
「似た者同士ですね」
似てねーよ。まったく違うわ。
「まあ、サプルが慰めてんならしばらく放っておくか」
自由気ままなサプルだが、結構年下の面倒見はよかったりする。完全に、とまではいかなくてもそれなりには心を和らげてくれるだろうよ。
「オレはしばらく家造りしてるからその間休んでな」
ココノ屋で買った駄菓子が入った収納鞄を出してミタさんに渡した。
「……こ、これは、ココノ屋の……!?」
収納鞄を受け取っただけでわかるミタさんクオリティー。きっと特殊能力があるんだろう。追及はナッシングだ。
「ありがとうございます!」
喜んでもらえてなにより。さて。仕事の続きをしますかね。
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