第1321話 望んだ道を歩くのは厳しいもの
片付けでその日が終わってしまった。
「無駄な労働ほど疲れるもんはねーな」
まったく、数だけ増える生き物は厄介でしかたがねーぜ。しかも、肥料にも使えねーとか愚痴の一つも吐きたくなる。セーサランを駆除できる薬品があったら口から突っ込んで奥歯ガタガタさせてやるわ。
「お、ご苦労様。風呂を作っておいたよ。入るかい?」
湖畔に戻って来たら小屋が二軒建ててあり、二十人くらい入れそうな岩風呂ができていた。
「岩風呂なんてどうしたよ?」
継ぎ目がないところを見ると、土魔法で創った感じだな。
「ヨミロンが創った。土魔法が得意なんで土台とか任せているんだよ」
ヨミロン?
「蛇人族ですよ。土魔法に長けた種族ですね」
あ、筋肉もりもりな下半身ヘビの人か。
「なかなかの使い手だな。スゴく綺麗じゃん」
できもそうだが魔法に淀みがねー。これは日頃から使ってる証だ。見習うべきところがあるぜ。
「水はどうしたんだ?」
「メイドさんにお願いしたよ」
そう言や、メイドの湯もそうだけど、水ってどうやってんだ? なんか魔法の壺でも持ってんのか?
「ってか、衝立てはねーのかい?」
見られて恥ずかちぃーって年齢でもねーが、魔女さんたちが入る風呂だろう? さすがに衝立てがないと不味いんじゃね?
「明日造るよ。魔女さんたちが何人か帰って来たからね」
サリネの視線を追うと、委員長さんら留学組がいた。
「こっちに来たんだ」
いや、放っておいてなんだけど。
「あなた、留学させた義務は果たしなさいよ」
「世界を見せるのがオレの役目。自由にしてイイんだぜ」
「放置と言うのよ、それ!」
ぐうの音も出ない正論です。
「ま、まあ、しばらくここにいるから好きなことしな。必要なものがあればメイドさんに言いな」
結界で衝立てを創り、一番風呂をいただいた。
「広い風呂に一人で入るとか贅沢だぜ」
風呂のときはレイコさんはどこかにいくし、ドレミも外で待っている。風呂に入ってるときが一人になるときだ。
さっぱりして風呂から出ると、魔女さんが団体でいた。ど、どうした?
「せっかくなので風呂をいただくわ」
「お、おう。どうぞ」
横に退いて魔女さんたちに道を譲った。
明かりの点いた小屋にいくと、サリネたちが夕食を摂っていた。
「先にいただいてるよ」
「ああ。メイドさんが用意してくれたのか? ってか、どこで作ってんだ?」
周りに炊事場はなかったはずだ。
「船で作って運んで来てるそうだよ」
あ、ヴィアンサプレシア号がいたっけ。完全に意識から外れていたわ。
オレも夕食をいただき、食後のコーヒーを飲んでいたらメイドさんがやって来た。
「べー様。ミタレッティー様より連絡がありまして、明日には戻るそうです」
あ、まだ戻ってなかったんだ。と言うか、すっかり忘れてました。ごめんなさい。
「あいよ。で、勇者ちゃんの様子はどうだ?」
「かなり衰弱してましたが、体調は戻りました。ですが、まだ気落ちしているとのことです」
「そっか。まっ、しゃーねーか。まだ小さな女の子だしな」
命の危機に陥って、なんともないでいられるヤツは頭がおかしいか、人の心を持ってないかだ。そう考えれば人らしい心があってなによりだと感謝し、イイ経験をしたと認めて次に活かせ、だ。
「それこそ頭がおかしいか、人の心を持ってないかじゃないですか? そんなことできる人なんてなかなかいませんよ」
できなきゃ負け犬人生のスタートだ。それが嫌なら乗り越えるしかねーんだよ。
……まあ、負けたオレが言っても説得力がねーけどな……。
「ここが勇者ちゃんの分岐点。試練の時だ。勇者としての心が試されている。ガンバって乗り越えろ、だ」
自称勇者などいるだけで邪魔だ。求めるのは真の勇者だけだ。
「ふふ。厳しいね~」
「望んだ道を歩むのは厳しいもんだよ」
それがどんな道でも試練や問題は立ち塞がる。こちらの思いなど関係なしに、な。
「相変わらず歳に見合わない言葉を吐くね」
「フフ。そうかもな」
こんなガキ姿じゃ笑われるだけだな。
「メイドさん。ヴィアンサプレシア号にも話を通しててくれや。そう簡単に立ち直れんだろうからな」
「はい。畏まりました」
「よろしく頼むよ」
メイドさんが下がり、コーヒーを注いで考える。
さて。どう勇者ちゃんを再生させるかね?
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