第1316話 神聖魔法

 それから三十数分。ブラックサウザンガーがX4を倒した。


「ってか、殴り合いだったな」


 まあ、モコモコスーツにビームを出す機能はねー。殴り合いしかやれねーか。


 土煙が収まるまで待ち、X4のもとへ降下した。


 カイナーズはすでに集まっており、テントを設営していた。


「べー様」


 と、スネーク大隊のアパッチ少佐(赤鬼)がやって来た。


「少佐も戦ってたのかい?」


「ブラックサウザンガーが戦うまでは、ですがね」


 不満がありありと出ているな~。


「まあ、スネーク大隊は即応力がもの言うところだからな。しょうがねーさ」


 オレには慰めてもやれん。カイナーズはカイナの管轄だからな。


「X1からX3までスネーク大隊でもなんとかできるんだから一匹残らず駆除してくれや」


 X4が生きてるなら他もまだ生きているはず。一刻も早く平和にしてくれや。


「そうですな。腐っていてもしかたがありません。べー様にいただいた名前に恥じぬ働きをしましょう」


 魔大陸のヤツらってほんと、名前をつけてもらうのが好きだよな。ただそれっぽいからつけた身としては心苦しいぜ……。


「おう。ハイスコア狙ってガンバれや」


「はっ! ご期待に添えるよう撃ち殺して来ます」


 イイ笑顔を残して去っていくアパッチ少佐。頼もしい限りだよ。


「魔の者を従えるのも大変だな」


 さすが叡知の魔女さん。よくわかってらっしゃる。


「多民族を統治する帝国ほどじゃないさ」


 どちらも大変ちゃ大変だが、人口の多い帝国よりはまだこちらがマシだろうよ。オレの配下ってわけじゃねーしな。


「X4にどんな毒があるかわからんから魔女さんたちに結界を施すが、構わんかい?」


「構わぬ」


 と言うので、魔女さんたち全員に結界を纏わせた。


 X4のところに向かうと、セイワ族と蒼魔族のハーフの男──なんて言ったっけ、こいつ?


「デオラです」


「あーうんうん。デオラデオラ。知ってるよ」


「今、名乗りましたけどね」


「──叡知の魔女さん、こちらカイナーズのデオラさんだよ。セーサランの第一人者だ」


「今のところ第一人者はべー様だと思うのですが?」


 い、言うじゃねーか、デオラさんよ。さすが先生に張り合おうとするだけはあるぜ……。


「すぐにあんたが第一人者になるんだからイイんだよ!」


「なんの逆切れですか。まあ、いいです。解剖してください。これを解剖できるのべー様だけなんですから」


 ……ストイックなやっちゃ……。


「わかったよ」


 X4を小さくして結界ドームを創った。


「……神聖魔法ですって……?」


 一人の魔女さんがそう口にした。


「帝国ではそう言うんだ」


 オレらの前に転生者がいるのだから結界使用能力のような能力を持ったヤツがいても不思議じゃねーし、名称がつくのも当然だか、なんとも仰々しい名称なこった。


「お主はなんと呼んでいるのだ?」


「これと言った呼び方はしてねーな。魔法とは次元の違う力とかなんとかだな」


 気の利いた名称なんて思いつかんかったしよ。


「まあ、そんな名称があるなら使わせてもらうよ」


 ないならないでよかったが、あるならあるで使うまでだ。


「しかし、今回は撲殺か。あれだけ殴って死なないとか打撃には強いみたいだな」


「そうですな。サプル様はレーザーナイフで斬り裂いてましたから熱には弱いのでしょうか?」


「レーザーが何度かは知らんが、アーク溶接なら焼き切れるってことか」


 アーク溶接も詳しくないが、数千度になるとか聞いたことはある。あのくらいならX4は斬れるってことだ。


「通常兵器で倒すのは大変そうですな」


「そうだな」


 熱兵器か。カイナじゃ無理だな。西暦2000年台くらいの兵器までしか出せんだろうからな。


「少し、試してよいか?」


 と、叡知の魔女さんが話に入って来た。


「ああ、イイよ」


 なにか考えがあるならいくらでも示してくれや。


 X4に近づくと、叡知の魔女さんの手のひらが蜃気楼のように揺らめくと、X4に触れた──瞬間にX4の体が砂塵のように崩れた。


「……効果はあったか……」


「な、なにしたんだ?」


 アーク溶接で切り裂くような体だぞ!?


「消滅魔法だ」


 しょ、消滅魔法? なんだ、そのご都合感がスゴい魔法は?


「初代様から受け継がれる魔女の秘技だ」


「そんな秘技をオレらに見せてイイのかよ?」


 他の魔女さんたちが口を開けて驚いてんぞ。


「導き手たるお主が秘密を晒しているのだ、こちらも晒さねば礼儀に反するだろう?」


 やはり叡知の魔女さんは敵にしちゃダメなタイプだぜ。


「魔女は帝国がまだ一勢力だった頃から支えた集団。千年以上の歴史を持っている。あの地を平定するまでにはたくさんの強敵を葬って来た。その中な強靭な体を持つ竜もいた。そんな相手を屠るために初代様が生み出したのがこの消滅魔法だ」


 おそらく、その初代様とやらは転生者だろうな。


「初代様も神聖魔法の使い手であり、魔法を創り出す力を持っていた」


 もう確定。転生者だわ。


「つまり、その初代様は、導き手だったってことか」


「ああ。グレンも導き手だったと聞く」


 人外どもの導き手か。あいつらしいぜ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る