第1315話 導き手

「なんて、口で言ってもわからんだろうから実物を見せるよ」


 ここにはモニターがいくつもあり、パソコンも何台もあった。地下に降りたときの映像……は、誰に言ったら見せてくれるんだ?


 メイドさんに視線を向けたら理解してくれ、パソコンを弄って映像を見せてくれた。やっぱり記録って大事だよな。


「まあ、長くなるから寛いで見てくれや」


 まあ、寛げない者が一人いるけど、下っ端なんだからガマンしろ、だ。


 映像に驚くかと思ったが、魔女さんたちはそのことにはスルーし、セーサランのことに集中していた。


 柔軟性があるのか、映像を創れる魔法があるのか、やはり魔女さんたちはスゲーよな。これだけで敵にしたらダメだってわかるぜ。


 所々早送りし、水蒸気爆発まで見てたら朝になってしまい、外が騒がしくなって来た。


 なんだ? と思ってたらメイドさんが入って来た。


「べー様。新たなX4が現れ、ブラックサウザンガー隊が出ました」


 あんな巨体なものどうやって運んで来たんだ? と思いながらテントから出ると、ブラックサウザンガーが一体、体育座りしていた。


「いや、もっと違う姿勢があっただろう」


 なんで体育座りなんだよ? 片膝立てる姿勢とかあっただろう。シュールすぎて笑いが湧いて来るわ。


「ん? なんか小さくね?」


 三十メートルくらいにした記憶があるんだが、なんか二回りくらい小さくなっていた。


「プリッシュ様にお願いして輸送機に入るサイズにしてもらったそうです」


 あのメルヘンはオレの知らないところでなにやってんだか。


「プリッシュ様もきっと同じこと思ってますよ」


 共存体と言いながら一緒にいないメルヘンが悪い。


「どこで戦ってんだ?」


「ここより東に三キロとのことです」


 あちらですと指を差してくれた。


「三キロか。歩いていくには遠いな」


 村人感覚では近いが、魔女さんたちを連れていくには距離がありすぎる。空飛ぶ結界でいくか? 


「問題ない。飛んでいく」


 と、箒を出現させる魔女さんたち。ワンダーワンドか?


「シュードゥ族が急いで作ってくれた」


「無茶させてねーだろうな?」


 オバチャンたちの怒りがこっちに回って来るとか勘弁だぞ。


「急がせた分の報酬は渡しておる。あちらも喜んでいたよ」


 それならイイが、本当に頼むぜ。


「なら、ワンダーワンドでいくか。あ、ミタさんからの連絡はまだか?」


「一度ありました。勇者様がまだ目覚めないとのことでした」


 まあ、あれだけのことがあったんだから一日二日では目覚めんか。


「了解。んじゃ、いくぞ」


 オレは空飛ぶ結界にて出発した。


 上昇すると、遠くに土煙が上がっているのが見えた。あそこか。


「結構激しく戦ってんな」


 白いのが土煙の中から吹き飛ばされ、猫のような動きで回転して着地し、また土煙の中へと入っていった。


 五百メートル付近で一旦停止。ここで観戦することにした。これ以上は危険っぽいしな。


「強さを確かめたいなら参戦してイイぜ」


「遠慮しておく。で、フュワール・レワロの中にいる生き物より強いのか?」


「う~ん? フュワール・レワロのがかな? 単体としては、だけど」


 数の脅威はセーサランが上だろう。その繁殖力も、な。


「ってか、ブラックサウザンガー数体で相手してんのに、よくサプルは一人で倒したな」


 アニメな中の兵器とは言え、ブラックサウザンガーもそれなりに強いはず。それが倒せないでいるのだからX4の強さがわかると言うものだ。


「あんなのが何百何千と押し寄せて来たらこの世界は終わるな」


 天地崩壊以来の大厄災だな。


「なにか策はあるのか?」


「ねーな」


 オレをなんだと思ってんのかね? 神や悪魔じゃねーんだからなんともならんよ。


「ただまあ、悲観はしてねーな。アレくらいならなんとかなる戦力はあるからな」


 カイナにエリナ、そして、タケルがいる。X4、いや、X6までなら対処できるはずだ。


「それにしては顔色はよくないな」


「斥候を四方に放ち、戻って来なければどう思う?」


「なにかいると思うな」


 まっとうな思考を持っていればそれが当たり前だ。


「前途多難だな」


「そうだな」


「……なにかあるのなら教えてもらいたいのだがな」


「叡知の魔女さんは、神を信じるかい?」


 この世界、なんとか神を信仰するってことねーんだよな、不思議なことに。オレらのいる大陸は精霊信仰だし、聖国でも聖女信仰だ。南の大陸は聖竜信仰のはず。


「わたしは会ったことはないが、いるとは聞いておる。お主も会った口か?」


 グレン婆の代の転生者から受け継がれてたのかな?


「会ったことはねーが、それっぽいのには人生を弄られた感じはするな」


 オレは前世の記憶なんて願わなかった。なのに、前世の記憶を持ったまま生まれた。エリナやタケル、カイナと出会うまでは気にもしなかったが、こうも転生者と出会うならわざと前世の記憶を消されなかったと見るほうが自然だわ。


「やはり、お主は導き手だったか」


「導き手?」


 なんだい、それ?


「この世に厄災が起こるとき、神が導き手をこの世に呼ぶそうだ。まあ、古のときから伝わっている言葉だ」


「……オレは、そんな大役を任せられるような男じゃねーんだがな……」


 ただ、悠々自適に、自由気ままに、のんびりゆったり生きて、イイ人生だったと死にたいだけの男なのによ……。

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