第1309話 正常です

 落下すること十五秒で大空間に出た。


 すぐに結界灯を創り出して四方に放った。


「……ヤベーな……」


 眼下はマグマの海。生身で落ちたら唐揚げになる暇もなく蒸発しそうだわ。


「ニギャアァァァァッ!!」


 と、茶猫の悲鳴。


 あ、横穴に入いるとき咄嗟に首をつかんだっけな。


「あ、ワリーワリー」


 肩の上に移してやる。首、へし折ってなくてよかったぜ。


「お前サイコパス! ほんとサイコパス! クソサイコパス! 躊躇いもなく飛び降りるとか狂ってるわ!」


「大丈夫な能力があるんだから躊躇う必要もねーだろうが」


 落ちるのが怖くて空を飛べるかよ。


「まったく、度胸がねー猫だ。カイナーズを見習え」


 オレの言葉に躊躇いもなく続いたぞ。


「あんなクレージーな野郎どもを見習えるか! おれは普通の猫なんだよ!」


 普通の猫はしゃべったりしねーし、ペ○シを飲んだりしねーんだよ。


「ミタさんたちはどうした?」


 空飛ぶ結界(拡大バージョン)を展開して山岳隊とスネーク大隊のヤツらをキャッチする。


「ワンダーワンドで降りて来たか」


 箒にメイドと魔女が跨がってるオレの日常。非日常ってなんだろうって思うよな……。


「ベー様、あれ……」


 幽霊が指差す方向に島がいくつもあった。


 マグマに浮かぶ島? いや、卵か? どんだけあんだよ……。


 ポケットから手榴弾を出して投球。直撃するが、弾かれてしまった。


「……硬いのかよ……」


 マグマに浮いている(と仮定する)から熱にも強いんだろうが、強度もあるとか本当に宇宙産は厄介だぜ。


「中尉。投げナイフを一つくれ」


「はっ」


 さっと出してくれる中尉。できる男は出世するぜ。


 投げナイフを受け取り、刃先だけに結界を纏わせ、フン! と全力投球。今度は刺さり、冷気が展開──した瞬間に破裂した。


「どう言う構造してんだ?」


 冷気って言ってもマイナス十度とかくらいだろう? マグマを冷やすどころか蒸発するんじゃねーのか?


「もっと科学を勉強しておけばよかったぜ」


 まあ、ファンタジー世界で宇宙生命体を前世の科学で計ることはできんだろうけどよ。


「ベー様、あれ!」


 ミタさんが指差す方向……いや、どれよ? ダークエルフの視力を求められても困るわ。


「勇者様です!」


「ミタさん、いけ! 勇者ちゃんたちを守れ!」


 咄嗟に命令をした。


 勇者ちゃんは見えんが、ミタさんの指差した方向にある卵島(と仮称します)がなんか孵化しそうな感じだった。


 孵化がどんなものかわからんが、勇者ちゃんに被害を及ぼすかもしれん。


「魔女さんたち、オレの側に来い! ちょっと無茶をするぞ!」


「なにすんだよ!?」


「水蒸気爆発だ!」


「それちょっとじゃねー! 大惨事だわ!」


 無限鞄から水が入った二リットルのペットボトルを取り出し、プリッつあんの伸縮能力でデカくする。


 結界で持てなくなるまでデカくして、マグマへと落とす。


 すぐに結界を三重にして、上昇させた。


「大丈夫なんだろうな!?」


「不安なら神にでも祈っておけ」


 オレは鍛えた結界に自信があるので祈ったりはしないがな。


 表現できないことが結界の外で起こっている。


「お、一枚目が破れやがった」


 火竜の火でも平気だったのに、マグマに水をかけてはダメってことかな? 


「ぶつかったな」


 って言うか、壁にめり込んだ感じだ。


 結界内からでも土魔法は使えるので、土を動かして結界を固定した。


「落ち着くまで休憩にするか」


 ミタさん──はいないので、自分のお茶セットを出した。


「呑気か!」


「慌てたってしょうがねーんだから落ち着くしかねーだろう」


 人数分のカップを出してやり、オババからもらったポットでコーヒーを注いだ。


「魔女さんたちは、甘いほうがいいか?」


 静かな委員長さんに目を向けると、顔面蒼白。バケモノでも見るような目をオレに向けていた。


 まあ、オレはどう思われようが、どんな目を向けられようが一向に構わねー。これがオレの今生だ。笑って受け止めてやるさ。


「……ほんと、サイコパスだよな、お前は……」


「オレは正常だわ」


 冷静な思考と合理的な判断、そして、最適な行動を起こした。サイコパスなんて言われる所以はねーよ。


「あーコーヒーうめ~」


 どんなときも旨いコーヒーは神だと思うぜ。

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