第1304話 突っ込みは甘んじて受け入れよう
触手の動きが止まった。
「撃ち方止めっ!」
中尉の叫びに攻撃の手がピタリと止んだ。統率が取れてますこと。
「油断はするな。ボー。バウ。いけ」
爆煙が消えると、中尉が二人に指示を出して倒れた木々を迂回してジャングル(いや、森か?)へと入っていった。
「死んだか?」
「そう言うフラグを立てること口にするんじゃないよ」
まあ、生きててもまた殺すだけだろうけど。
「クリア!」
「クリア!」
十分くらいして二人から安全の声が上がった。
「ミタさん。スネーク大隊からの連絡は来てる?」
「はい。Xとの戦闘に入ったとのことです」
あ、あいつらはXって呼称になったのね。じゃあ、触手はX2になるのか?
山岳隊の全員が入っていき、オレはメイドさんズにいかないよう立ち塞がれる。任せたんだからいかないよ。
ペ○シを飲み干した頃、中尉が戻って来た。どうだった?
「……逃げられたようです……」
「逃げられた?」
「はい。触手を切り離して本体は逃げた感じです」
なんだ? トカゲの尻尾切りか?
「触手は動いてねーんだな?」
動いてたら動いてたでサンプルにはちょうどイイけどな。
「はい。黄色から灰色に変色してました」
触手、黄色とか王蟲かよ。生憎、風の谷のお姫さまとは知り合いじゃねーんだけどな。
「見てみるか」
土魔法と結界で残骸を排除しながら向かった。
「X2は、巨体だったんだな」
直径十メートルの肉塊──いや、炭化してるのか? その炭化した塊からこれまた炭化した触手がたくさん生えていた。
「ロケットランチャーで炭化した感じではねーな?」
火で炭化したにしては色が統一されてる。肉塊が取れたから炭化した感じっぽいな。
「これは、先生の出番かな?」
「ご主人様、起きますかね? 一旦眠ると数年は起きませんよ」
「吸血族は謎だな」
先生も宇宙から来た生命体だったりして。
……あり得てて怖いな……。
炭化した触手を結界で包み込む。
「一応、サンプルとして残しておくか」
タケルのアニメ的潜水艦なら成分分析できるかもしれんからな。
「委員長さん、はいよ」
影が薄くなってる魔女さんたち。まあ、あの状況で存在感を示せるヤツがいたら見てみたいもんだがな。
「今はわからなくても将来のために保管しておけ。それは未来を切り開く鍵になるかもしれんからな」
「どう言う意味?」
「命を知る者が命を征するってことだよ」
DNAや生命工学を上手く説明できないのでそれで察してくださいませ。
炭化した塊も結界に包み込んで無限鞄に放り込んだ。先生が目覚めたら調べてもらおうっと。
「……あのご主人様を使うことできるのべー様だけですよ……」
そうか? 先生、気難しそうに見えて結構チョロい性格しているだろう。
「……魔王よりも恐ろしいと言われたご主人様もべー様にかかれば赤子も同然ですね……」
そこまでは言わんよ。使うのはチョロくても扱いは難しい人外だからな。
「しかし、本体はどこに消えたんだ?」
見えたのは触手だけ。本体は木々に隠れていた。木も三メートルくらいの高さなのにどう隠れてたんだろうな?
地面や木々は巨体なものが移動した形跡があるが、爪や足の跡はない。
「蛇が這いずった跡に似てるかな?」
「蛇に触手ですか? 想像もできませんね」
オレは、幽霊に想像力があることのほうが想像もつかんけどな。
「姿はともあれ重さはかなりあるみたいだな」
地面が凹むほどなのに、結構逃げ足が速いこと。宇宙からの生命体は謎が多いぜ。
「べー様。どうしますか?」
「そうだな……」
X2を放置するのも不味いが、勇者ちゃんをこれ以上放っておくのも不味い気がする。
勇者ちゃんならXが群れで襲って来ようが問題ねーだろうが、安全でいるとは言い難い。窮地、とまではいかなくても追い込まれているかもしれん。
「先を急ぐ。勇者ちゃんが優先だ」
街道に戻り、先を進んだ。
標高も上がり、木々がなくなり高山植物っぽくなって来た。
「──止まれ!」
先頭を歩いていたゴルザ族の男が声を上げると、他は警戒体勢に入った。
「巨大な穴があります! 深さは不明!」
穴?
見えるところまでいくと、確かに巨大な穴だった。
「……クレーターか……?」
にしては、爆発した形跡はない。空から降りて来て穴を掘ったって感じだ。
向こうまで約百メートル。掘ったとしたらどんだけ巨大なものが宇宙から来たんだよ? 確実にヤバいもんじゃねーかよ。
「まったく、宇宙規模でオレにスローライフさせねー気か?」
だが、オレは負けたりしねーぞ。死ぬとき「イイ人生だった」と言って死ぬのが目標なのだ、邪魔するなら排除してやるまでた。
「この流れだと、勇者ちゃんは穴の底だろうな~」
微かにだが、勇者ちゃんに纏わせた結界が感じ取れる。
「べー様、下りるのですか?」
「下りないって選択肢はねーな。穴があったら入りたくなるだろう」
いや、恥ずかしくて入りたいってことじゃないからね。
「ならないわよ!」
「好奇心のない魔女だな」
「穴があったら入りたくなる好奇心なんていらないわよ!」
まあ、人それぞれの好奇心。強要する気はねーさ。
「残りたい者は残れ。強制はしねーよ」
四メートルくらいの結界を創り出し、その上に乗り込む。
メイドさんズは、空飛ぶ箒──ワンダーワンドに跨がり、山岳隊は躊躇いもなく続いた。
「い、いくわよ!」
魔女さんたちに目で問うと、切れ気味に返事して結界に乗り込んで来た。
「さあ、下にはなにがあるかね?」
結界を降下させた。
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