第1294話 功労者

「じゃあ、あとは任せた」


「じゃ、ないわよ!」


 ──んぶほっ!?


 コークスクリューなプリキックを受けて吹き飛ばされてしまった。


「なにすんじゃいボケー!」


「それはこっちのセリフじゃアホー!」


 なんて久しぶりの和気藹々がありまして、メルヘンから正座させられました。


「丸投げも大概にしなさいよ!」


「……いや、任せる人来たし……」


「来たし、じゃないわよ! サイロムが働きやすいよう環境を整えてあげなさいよ!」


 充分に環境を整えてあるじゃんか。


「それじゃ不十分だから言ってるのよ!」


「まあまあ、プリッシュ様。わたしは、充分環境を整えていただいたと思ってますからご心配なく」


「べーの前で有能なところ見せたら骨の髄まで任せられるわよ!」


 なんだよ、骨の髄までって? オレはしゃぶったりしないよ。生ある限り、ガンバってもらおうとは思ってるけどさ。


「それこそ望むところです。わたしにも野望はありますからね」


「だから、そう言うのべーに見せちゃダメなのよ。今、べーの頭の中で壮大な計画が発動したわよ」


 ……ソ、ソンナコトナイヨ。チョットシタオモイツキダヨ……。


「……どこぞの覇王ですか……」


「オレは生涯村人です」


「まだ魔王になってもらったほうが安心よ」


 オレ、メンドクセーこと嫌いだから絶対になりません。


「ここを、ヤオヨロズの食料生産地とする。サイロム。万事、任せる。己の才能を遺憾なく活かしてみろ」


「はい。万事お任せあれ」


 わざとらしく恭しく一礼するサイロム。野望もあり洒落も利いてる。婦人がヘッドハンティングしたのもわかるわ。


「まったく、男はバカなんだから」


「男がバカでなくなったら男じゃねーよ」


「まったく同意です」


 サイロムと視線をぶつけ合い、ニヤリと笑い合った。


 ……フフ。イイ男じゃねーか。気に入ったぜ……。


「まあ、一応、代表たちとの顔合わせはするよ。ゼルフィング商会がどんなものか教えてやるために、な」


 バカじゃない相手は楽でイイよな。こちらの言いたいことを察してくれるからよ。


 一旦、隊商に戻ると、サイロムが配下の者を紹介してくれた。まあ、誰一人と名前は入ってこなかったけど!


「しかし、よくこれだけ人を集められたもんだな」


 三十数人と、どこから引っ張ってこれたんだ? 帝国人なのはわかるがよ。


「能力があっても帝国で出世するのは難しいですからな」


 そのセリフ、前に誰からか聞いたな? 誰だっけ?


「コネがないのは大変だな」


「はい。ですが、運はありました」


「運は運を引き寄せる。その運を大切にするんだな」


 オレも運を大切にしたからこうしてイイ人生を送れている。感謝感激雨霰である。


「はい。心に刻んでおきます」


 きっと苦労したのだろう。オレの言葉を受け止めるのが重い。


「言葉を選ばずに言えば、この地域を経済支配する。ゼルフィング商会で人を雇い、いくつかの商会に分け、ゼルフィング商会の息をあちらこちらに吹きかける。武力はシープリット族が請け負う。ルダール」


「はい」


「こいつルダール。こっちサイロム。互いに協力し合え」


「……また、雑な紹介を……」


 自己紹介なんてこんなもんでイイんだよ。あとは、互いに切磋琢磨しろ。


「人種種族に関係なく、才能ある者を登用する。求めるものがあるならのしあがる。ゼルフィング商会とはそう言うところだ」


 と、サイロムが席を立ち、頭を下げた。


「全身全霊を懸けて望むものを手に入れてみます」


 おう、ガンバってくださいな。サイロムの野望はオレの得となるんだからな。


「ってことで、今このときより南大陸支部長はサイロムな。人事も任せる。この大陸にゼルフィング商会を根づかせろ」


「はい。このサイロムに万事お任せあれ」


 できる男と言うのは頼もしい限りだよ。


「べー様。代表より使いが来ました。役場まで来て欲しいとのことです」


 と、メイドさんからの報告にサイロムを見てニヤリと笑った。


「さあ、商人の戦いといこうか」


「フフ。商人の戦いですか。燃えますな」


「アハハ。燃えるのはイイが、燃え尽きんでくれよ」


 これから何十年とかけてここをヤオヨロズの食料生産地とするのだ。死ぬその時まで働いてくれよ。クク。


「……またべーの犠牲者が生まれたか……」


 犠牲者ではない! 功労者だい!


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