第1295話 嫌な予感

「こちらはサイロム。わたしの代わりにここを仕切る者です」


「サイロム・マイラーと申します。よき商売ができるようお願いいたします」


 ってことで顔合わせ終~了~。晴れてオレは自由となりました~。パチパチパチ~。


「──じゃねーわ!」


 と、スーパーミラクルプリキックを食らってしまった。


 ……さ、殺気を感じさせず蹴るとはやるじゃねーか……。


「その誰にも理解できない頭の中にある考えを常識ある人でもわかるように説明しなさいよ!」


 吐けぇ~とばかりに髪を引っ張られる。抜けるわ!


「わ、わかったから止めいぃっ!」


 なんとか許してもらい、場を隊商がいる広場に移した。あ、壊したところはちゃんと弁償しましたので安心してください。


 ……驚いた代表さんたちの心のケアは知らんけど……。


「まず、この町の掌握。ジャッド村までの道の整備。カイナーズの基地まではカイナーズに任せるとして、密林の開拓。作物栽培。飛空船の発着場造り。無人島はカイナーズで開拓してんのか?」


「シーカイナーズがやってるわ」


 一度見ておくか。大きさを知らんと話が進められんしな。


「……なかなか難しい仕事ですな……」


「町の掌握はゼルフィング商会。道の整備や密林の開拓はシープリット族。やれることからやればイイさ」


 物事を簡単にするようにするのが仕事である。


「お前が言うな!」


 バチンと頭を叩かれた。心の声に突っ込まないで!


「ベー様には敵いませんな」


「勝つのは自分にだ。他人にじゃねーよ」


 自分に勝てるなら他人にだって勝てる。自信ってのはそうやって築かれていくんだよ。


「ふふ。あなたとしゃべっていると父親としゃべっているような錯覚になりますな」


「父親と比べられたら、オレは全世界の父親に謝らなくちゃならんよ」


 オレが父親? 父親どころか一人の女も幸せにできなかった男が父親と比べられたら苦笑いしかでねーよ。


「そうですか? ベー様ならよき父親になれると思いますよ」


 ……よき父親か。なれるもんなら人の親になってみたいもんだよ……。


「ベーに育てられたら非常識に育ちそうね。サプルもトータも非常識だし」


「あの二人の性格は生まれつきだわ」


 生きる術は教えたが、あの性格は生まれもってのもの。オレがあの性格にしたわけじゃねー!


「隊商は戻す。あとは、サイロムの度量に任せる」


 隊商のことはルダールに任せ、オレらは茶猫がいる孤児院──ナーブラへと向かった。


「あら、マーローじゃない。久しぶりね」


「おう、久しぶり」


 なにやら親しげなメルヘンと茶猫。ここだけ風景を切り取れば和やかだろうが、どちらもアレな中身。ちっとも和めなかった。


 ……オレの周り、キャラ濃いのしかいねーな……。


「一番濃いのはベー様ですけどね」


 濃い幽霊に言われても説得力ねーよ。


「勇者ちゃんの情報をくれ」


 テーブルにつき、茶猫に勇者ちゃんの情報を尋ねた。


「勇者がここを旅立ったのは一月半くらい前だな。グランドバルと言う都市が竜に襲われた話を聞いて向かったそうだ」


 そう言や、そんな話を聞いたな。


「グランドバルは遠いのか?」


「大人の足で十三日から十五日くらいだと。グランドバルにいくには湖と山があるそうだ。ただ、見たこともない魔物が住み着いているみたいで往来は途絶えているそうだ」


 大人の足だと十三日から十五日ってことは大まかに見て四百キロくらいか? いや、途中に湖と山があるなら三百キロくらいかもな。


「カイナーズはいってみたのか?」


 ミタさんに尋ねてみる。


「先行させましたが、山で手間取っているようです。道が崩されて迂回できないとのことです」


「カイナーズが手間取っている、か。なんかあるな……」


 どうも嫌な予感がするぜ。


「空からはいけんのか?」


「浮遊石があるので迂回はできますが、越えるには高度三千メートルまで上昇しないとなりません。ドローンを飛ばしましたが霧が濃くて困難なそうです」


 迂回すればイイだけのことだが、勇者ちゃんらは迂回なんてしないだろう。女騎士さんはともかく勇者ちゃんはおもしろそうと突っ込むタイプだ。


「参ったな。いくこと決定か~」


 勇者ちゃんなら問題なく突破してるかも知れんが、どうにもこうにも嫌な予感がする。結界も無事だが、無事だからと言って安全なわけじゃねー。厄介な事に巻き込まれているかもしれんからな。


「山だとシープリット族は不向きか」


「険しいと無理ですな」


 うおっ! ルダール、いたんかい!?


「まあ、オレらだけでいくか」


 山登りは得意だし、結界や土魔法があれば超余裕だ。


「ベー様。カイナーズから山岳隊を借ります」


 山岳隊? そんなもんまであるんかい、カイナーズは?


「なら、借りてくれ」


 いらないと言っても借りてくるだろうし、素直に認めておくほうがメンドーがねーだろう。


「何日必要だ?」


「三日あれば」


「わかった。なら、その間、無人島でも見にいってみるか」


 無人島の場所も覚えておきたいしな。


「プリッつあん、いけるか?」


「うん、いけるわよ」


 ってことで、プリッつあんの転移バッチで無人島へと飛んだ。

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