第1293話 サイロム

 久しぶりに見るメルヘンがなにか逞しくなっていた。


「いい冒険だったわ!」


 え、笑顔が眩しい……。


「お、おう。そうか。よかったな」


 なんと答えてイイかわからんから適当に答えた。


「ってか、大船団だな」


 プリッシュ号改とヴィアンサプレシア号、それに五隻の飛空船。ん? あれはもしかして、リオカッティー号か?


「公爵どのも来たのか?」


 なにやってんだ、あの公爵さまは? いくら冒険公爵の異名を持っていても別大陸に……何度もいってたな、うん……。


「ううん。おじ様は来てないわよ。さすがに周りが許してくれなかったからね」


 公爵どのの周りがまともでよかった。


「まったくです」


 あん? なにがよ? 


「それでどう言う状況なの?」


 と、なぜかミタさんに事情をお聞きになるメルヘンさん。今、君と話してたのオレだよね?


「さすがプリッシュ様です」


 なにがさすがなんだよ? 今、オレは軽んじられたよね? 同情されるとこじゃないの?


「べー様の上にプリッシュ様がいるんですよ。見た目的にも精神的にも」


 いつの間にメルヘンに下克上されてた!?


 ……ひ、人は平等であるべきなんだから……。


「人は平等じゃありませんよ。なに言ってるんですか?」


 そうだ、人類皆平等がない世界だった! いや、前世でも平等なんてなかったけど!


「嫌な世だよ」


「その嫌な世を変えようとしてるじゃないですか」


 そんな大それたことなんて考えてもいないよ。ただ、オレの周りは快適にしたいだけさ。


「……あ、あの……」


 おっと。この場には代表さんたちがいたんだっけ。


 あ、ちなみに役場の外に出て、空に浮かぶ大船団を見上げてます。


「失礼しました。久しぶりの再会だったものでつい」


 まだ爺の格好だったのも忘れてたよ。姿を変えたらなりきらないとな。


「見ての通り、あの船を降ろす場所が必要なのです。ご協力いただけるのならその代金として食料をお分けいたしますよ」


 よほどのバカじゃなければ断ることはしない。仮にオレの真意を見抜けるヤツがいても断ることはでねーだろう。この状況を覆せる手段がねーんだからな。クク。


「ゆっくり話し合ってください、とは言えませんが、町へ入る許可をいただけるなら食料を売らしてもらいますよ」


 嫌だと断るもよし。ただ、食料が買えないだけなんだからな。


「……わかった。許可しよう……」


 快く代表さんからの許可を得られたので食料を売ることにした。まあ、オレがやるわけじゃないけどな。


「べー。勇者ちゃんはどうしたの?」


「まだわからん」


 会わないのは無事な証拠。まあ、勇者ちゃんに纏わせた結界はまだ感じられる。慌てる必要はねーさ。


「随分とのんびりしてるわね」


「成るように成るがオレの信条だ」


「まあ、勇者ちゃんならそう簡単に死なないか」


 薄情な言い方だが、死んだらそれまでのこと。勇者としての力がなかったってことだ。


「そう言や、赤毛のねーちゃんはどうした?」


 ここは内陸部。海洋船たる……なんだっけ? 赤毛のねーちゃんの船名?


「サリエラー号ですよ」


 そうそう、そんな名前だったわ。


「手頃な無人島があったからカイナーズが港にして、ナバリーは付近を探るって言ってたわ」


「港とかなかったのか?」


「あったけど、べーみたいにすんなり入り込めないわよ。飛空船に驚かれてたし」


 それはいきなりだからだろう。何人かで潜入して港の事情とか探り、赤毛のねーちゃんを交渉役にさせたら数日で入港できんだろう。赤毛のねーちゃんはこちらの人種だしな。


「ゼルフィング商会の者はいるか?」


「いるわよ。あと、フィアラから伝言。「仕事を増やすな、このおバカ!」だって」


 婦人がいる方向を向いて謝罪の敬礼をした。ごめんなさい!


「初めまして。フィアラ様よりべー様を支えるよう命じられたサイロムと申します」


 四十歳くらいの灰色の髪を持つ、貫禄のある男がオレの前にやって来た。


「……帝国の生まれかい?」


 サイロムと名乗った男は、アーベリアン王国周辺の顔立ちではなく、灰色の髪なんてなかなかいない。帝国の生まれ──いや、帝国人な感じだ。


「はい。フィアラ様にお誘いを受けてゼルフィング商会で働かせていただいております」


 やっぱり。ってか、いつの間にヘッドハンティングしてたんだ、婦人は?


「そうかい。婦人が認めたなら安心だな。よろしく頼むよ」


「はい。恩は返させていただきます」


「恩? なんなんだ、それ?」


「不治の病に冒されていた妻を救っていただきました」


 ってことはエルクセプルを与えたのか? 一応、婦人にも渡してたし。


「そ、そうかい。まあ、オレはなにもしてねーんだから、その恩は婦人に返してくれや。オレはいらんからよ」


 助けたのは婦人の判断。なら、その恩は婦人のだ。オレのじゃねーさ。


「はい。わかりました」


 穏やかな笑みを浮かべるサイロム。憑き物が落ちたって顔だな……。


「じゃあ、これからはサイロムに全権を渡す。町との交渉を任せる」


「はい。お任せください。ゼルフィング商会を根づかせみます」


 やはり婦人はよくわかってくれてる。益々頭が上がらなくなるぜ。

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