第1245話 コファー

 ジャングルってのは異世界でも木々が密集して生い茂っているもんだな。


 いや、当たり前だろうと言うことなかれ。この密集度は経験しないとわからないもんなんだぜ。


 先頭を歩くエース的オネーサマが山刀のようなものを振り回して道を作ってくれてなくちゃ一歩も進めないくらいだ。ちなみに一列になって進んで、なぜかオレが二番目です。


 ……深く考えたら負けだぜ……。


 オレも結界刀で道を拡張し、魔女さんたちが歩きやすいように土魔法で均してやる。


「止まれ」


 と、エース的オネーサマが身を屈めた。


 ジャングルの中では自分に従えと言われてたので、素直に従う。皆、しゃがみなさい。カイナーズの諸君らもだよ。勝手に攻撃して自然破壊しないように。村の周りみたく焼け野原にしたら怒るからね。


 ……田畑にするからと許してもらったからイイけどさ……。


「グルーニングだ」


 横に呼ばれて指差す方向を見ると、トリケラトプスみたいな生き物がいた。


「デカいな」


 二トントラックくらいあるんじゃね?


「グルーニングは大人しい。静かにしていればすぐに去る」


 見たものすべて狩るでは蛮人だ。獸にも劣る行為。いや、飢えていた時代は狩りまくって滅ぼした獸もいますけど! ごめんなさい!


 エース的オネーサマの言葉通り、グルーニングは立ち去った。


「あれ、食べられるのかい?」


 大事なことなので尋ねた。


「……食えるが、狩るのは止めてくれ。グルーニングは森の守り主なんでな」


 へ~。見た目は草食恐竜なのに守り主なんだ。ふっしぎー。


 グルーニングが完全に消えてから薬草採取を再開させる。


 これまで薬草採取のために山の中に何千回と入って来たが、植生が違うとこうも区別がつかんとはな。じっくり見ないとわからんぜ。


 とは言え、薬師としてのプライドがある。灰色の脳細胞をフル稼働して植生を見比べて頭に叩き込んだ。


「ベー様。そろそろ休憩してはどうですか? リンベルク様とミルシェ様も疲労が溜まっているようですので」


 と、ミタさんに言われて我を取り戻す。ちょっと集中しすぎたわ。


「ワリーワリー。魔女さんが一緒なの忘れっちまったわ」


 魔女さんたちが主役と言っておきながら魔女さんを放ったらかしにするとか、保護者として失格だぜ。


「じゃあ、休むとすっか」


 土魔法で高台を創り、獸が入って来ないようにヘキサゴン結界で囲んだ。


 四人用のテーブルもいくつか創り、カイナーズの連中に警護してもらう。こいつらの存在意義をなくしたら申し訳ねーからな。


「……魔女より魔法に精通していますよね……」


 結界は魔法ではないが、まだ見習いの魔女には区別はつかんか。叡知の魔女さん辺りはオレが魔法じゃない力を使っているとわかってそうだがな。


「自己流だから教えることはできんがな」


 サプルやトータは天才だから感覚で教えても理解するけどね!


「ミタさん。お茶を頼むわ」


 ジャングルの中で飲むお茶。最高だぜ。


「白茶でよろしいですか?」


「ああ。それでイイよ。オレはコーヒーね」


 エース的オネーサマの好みは知らんので何種類か出してあげて。


「コファーを飲むのか?」


 コーヒーを飲むオレを見たエース的オネーサマが驚いた感じでそんなことを言った。


「これのことかい?」


 コーヒーカップを掲げてみせる。


「ああ。最近、コファーを求める者が多くてザイヤイラーの糧になっている」


「そうなのかい? この大陸ではあまり飲まないって聞いたんだがな?」


 ラーシュの手紙でも一部の地域で飲まれていると書いてあった。


「少し前まではな。流れの商人が大量に買うので飲む者も増えたのだ。わたしも気に入っている」


 もしかして、それってオレのせい?


「なら、飲むかい? この地のものじゃないがよ」


 カイナーズで売っている豆らしいですけど。


「ああ。頼む」


 なにか嬉しそうなエース的オネーサマ。コーヒー好きなのかな?


「いい味だ」


 ミタさんが淹れたコーヒーを飲み、うっとりした顔で呟いた。


「コーヒー──コファーか。同士がいてくれて嬉しいよ。それの味を理解してくれるヤツが少ないからな」


「それは悲しいな。こんなに美味いのに」


 女でコーヒーを好きなヤツはなかなかいない。砂糖と羊乳を入れてなら飲まれるんだがな。


「ミタさん。インスタントコーヒーってある?」


 ミタさんは豆から淹れてるが、インスタントもあるはずだ。


「はい。何種類か用意しております」


 と、テーブルにインスタントコーヒーの瓶を何種類か置いた。


「コファー好きの同士にやるよ。コファーのある毎日にしてくれや」


 コーヒーのある毎日。それだけでイイ人生である。

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