第1246話 回復魔術
休憩後、高台をベースキャンプにして周りの植生を調べることにした。
と言うか、チビッ子さんが知りたいと主張したのだ。植物に興味がおありで?
「はい。わたし、植物を使った魔術が好きなんです」
「へ~。植物を使った魔術ね~。帝国の魔術は多岐に渡ってんだな」
「多岐に渡った魔術を使っているあなたに言われてもね」
委員長さんのジト目がステキです。
……もしかして、オレには委員長属性があるのか……?
「ミレオの仲間かしら? 茎がちょっと違うのね」
完全に自分の世界に入ったチビッ子さん。メイドさん一人とカイナーズの三人をつけてオレも周りに生る植物を観察する。
「ってか、あんたは興味ないんかい?」
委員長さんも植物を観察してるが、あまり関心なさそうだ。
「いえ、そんなことはありません。ただ、わたしは魔術のほうが好きです……」
ここに来たのは言われたから、って感じだな。
「魔術、ね。なに系が得意なんだ?」
「なに系、ですか?」
「戦闘魔術とか生活魔術とか、系統とかあるだろう? それとも学門的な魔術とかか?」
「……あなた、本当に何者なんですか……?」
「あんたらには異常な存在に見えるだろうが、オレは村人。それ以上でもなければそれ以下でもねーよ。って言っても納得できねーだろうが、世界にはオレより非常識な存在がいる。魔女なら常識の外にも目を向けな。世界は広いんだからよ」
なんて十一歳の子どもが十六歳くらいの委員長さんに言っても説得力ねーけどな。
「で、なにが得意なのよ?」
「……回復魔術です……」
「おー! 回復魔術か。そいつはスゲーな。人で回復魔術を使えるヤツ初めて見たよ!」
治癒魔術を使う人族はいた。だが、回復魔術はいないとまで言われているほどだ。
「……気持ち悪くないの……?」
「気持ち悪い? なんで? 人族にとって宝と呼ぶべき存在だろう」
人が回復魔術を使える。それが意味するところはとても大きいことだ。
「ってか、よく外に出したな、叡知の魔女さんは? 他所に知れたら不味いだろう」
回復魔術は失った腕を生やしたり、病気を治せたりもすると伝聞にあった。権力者としては犯罪になっても手に入れるだろうよ。
「あなたなら問題ないと館長が言ってたわ」
「ってか、オレを利用する気満々だな、あの叡知の魔女さんは」
オレが知って放っておかないと知ってのことだろう。まったく、見透かされてんな、オレ……。
「……あなたも回復魔術が使えるの?」
「使えんよ。だが、回復魔術を発展させてやることはできるな」
まあ、飛躍的には無理だが、体の基本構造や病気を教えてやることはできるし、先生に紹介もしてやるな。
「ただまあ、回復魔術は学ぶことがたくはんあるぜ。人の構造は複雑怪奇だからな」
前世の記憶と薬師としての知識があるが、前世の医者からしたらままごとレベル。とても自慢できるもんじゃねー。
「……わたしは、回復魔術を極めたい……」
「イイ心意気だ」
無限鞄から先生が書いた病気分別と翻訳眼鏡を委員長に渡した。
「この世で狂った薬師が書いた病気分別で、その眼鏡は自分の知る文字に変換してくれる魔道具だ。やる、とは言えないが、しばらく貸してやるから書き写しな」
知識の独占とか興味がない先生。貸したところで文句は言わないが、まあ、竜の血でも献上しておこう。
「……き、貴重なものではないの……?」
「貴重だな。だから貸すんだよ。回復魔術の発展のためにな」
人生をかけて医療に費やすなんてオレには無理。なら、代わりにやってもらえばイイだけ。病気分別を渡すくらいなんでもねーよ。
「遠慮すんな。こちらとしても得があることだからよ」
「得、ですか?」
「医療が発展すればオレの子や孫の代が助かる。こうして魔女さんたちと仲良くなれたんだ、もしものときは頼らせてもらうさ」
将来のための貸し。あの叡知の魔女さんなら返さないとは言わないだろう。百年先も学ぶことはたくさんあるんだからな。オレとの繋がりは切らないはずだ。
「……わかったわ。ありがたく借ります」
おう。ガンバって書き写してちょうだいな。
「まあ、今は薬草採取に集中な。薬草の効能は回復に通じる。知識に無駄はねーんだからな」
オレの幸せな未来のためにガンバってくださいませ。
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