第1229話 ミチコ

「こちらへ」


 と、リ・ガ・なんとかかんとかさんが回れ右。つーか、名前が長いよ。絶対、三メートル進んだら忘れるわ。


「いや、一歩も動かないうちに忘れてますから」


 三秒前までは覚えてたんよ。ただ、展開に驚いて維持できなかったんや。ほんまやで。信じてチョンマゲ。


「あの、リ・ガなんとかかんとかさん。名前が長いんで縮めてもよろしいでしょうか?」


 おもいっきりへつらいながらお尋ねした。


「構わない。好きに呼んでください」


「じゃあ、ミチコで」


「なぜに?」


 それこぞなぜ幽霊に問われねばならん? 


「では、ミチコと呼んでください」


 度量がある魚さんです。ヤダ、惚れちゃいそう!


「……なんなの、この二人は……」


 いや、一人と一匹だから。幽霊の目にはどう映ってんのよ?


「イイじゃん。ミチコ」


「まあ、ベー様が覚えられる名前なら構いませんが、どこからミチコなんて出て来たんですか? わたしのレイコって名前もあまりない響きですが……」


「神からの啓示」


 それ以上は聞かないで。あと、思考を読んでも無駄。幽霊の理解言語で思考を誤魔化すから。


「……そう言う器用なことできるからベー様ってアレですね……」


 アレってなによ? 絶対、イイほうのアレじゃないよね? いや、訂正しなくてイイから。堪えられないアレだったらイヤだからさ……。


「んお?!」


 突然、世界が宇宙へと変わった。へ?


「ここは、カペラ。エイボルゴの記憶だ」


 レイコさん。通訳プリーズ。


「なんでもかんでもわたしに聞かないでください。これはベー様の管轄です」


 ねーよ、そんな管轄。逆にあったら人に押しつけるわ!


「すまんな。ミチコさんの言うこと、まったくわからんわ。オレをここに呼んだ理由はなんなんだい?」


 スーパーテクノロジーや悠久の歴史やら興味はあるが、人生をかけてまで聞きたいとは思わねー。二日くらいで語られる話なら聞くけどさ。


「わたしたちは、滅びる星から逃げて来た」


 やはり方舟か、これ。


「新たな星を求めて旅立ったが、好戦的な生命体と遭遇してこの星へと落ちた」


 なんか聞きたくないことを聞いてしまった感に心が押し潰されそうである。


「コンルグランドが治るまでここにいさせて欲しい」


 って、確か、この宇宙船のことだったよな?


「いつ治るんだ?」


「星が約三億回回れば飛び立てる」


「……それは、この星が太陽の周りを回る回数かい? それともこの星が回転する回数かい?」


 まあ、どちらにしてもオレの寿命のうちに治らないのは理解したよ。


「やはり、わかるのですね」


 あ、試されたっぽい。そんなことまでできるのかよ。オレが想像するより知性は高そうだ。


「そんなに詳しくはねーぜ。あんたの一万分の一もわかってねーよ。ただ、詳しいヤツに知り合いはいるな。ミチコさんと同じく宇宙から落ちて来たヤツがな」


「それは∉∂∈℘∇∆∑ですね」


 ん? 上手く聞き取れなかった。もう一回プリーズです。


「すみません。あなた方の耳には届かないようですね。惑星外固形生命体、と言ってわかりますか?」


「あ、まあ、なんとなくはな。オレは岩さんと呼んでるよ」


「では、わたしも岩さんと呼称します」


「……それ、絶対未来の人から非難されるヤツ……」


 その頃にはオレは天に召されてるので気にしません。


「岩さんと話すことはできるのかい?」


「はい。空にあるものを使わせていただけるのなら」


 カイナーズのヤツらを見る。


「人工衛星、上げたのか?」


「はい。まだ二基だけですが」


 ほんと、カイナの野郎は自重を知らねーヤツだよ。


「ベー様。カイナ様よりベー様が決断したことには無条件で従うと言葉をもらっております。ベー様のいいように決めてください」


 はぁ~。ときどきあいつは性格を偽ってんじゃねーかと思うよ。いや、何十年と生きてんだからそのくらいは察せれるか。


「わかった。ミチコさん、使ってくれて構わないよ。岩さんと連絡し合いな」


「それは助かります。岩さんと繋がれば情報共有できますから」


 なんかこの星に謎のネットワークができた感じです。


「ベー。いずれこの星を旅立つときまでこの地を守って欲しい」


 また無理難題を言ってくれる。ここは南の大陸なんだぞ……。


「守っていただけるのなら星図を差し上げます」


 んなもんもらってもオレの手には余るわ。


「オレ一人では決められねー。もう一人、ここに呼んでイイかい?」


「構いません」


 了承は得られました。カイナ、ここに召喚!

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