第1228話 セカンドコンタクト

 接地面がない壁に開いた通路。これだけで超技術ってのがわかる。


「……まさか二度も未知との遭遇をするとは思わなかったぜ……」


 岩さんだけでもお腹一杯なのに、人魚の……なんだ? 元? 祖先? 創造主? まあ、よくわからんけど、宇宙からの使者的なのは勘弁してくれだ。


「なのに、会いにいくんですか?」


「逃げられると思うか?」


「無理でしょうね。根拠はありませんが」


 オレも逃げられないって、よくわからない根拠が言ってるよ。


「ミタさんやカイナーズは来るな」 


「できません」


「カイナ様が来てからにしてはいかがですか?」


 まあ、止めるわな。こんな得体の知れないものに入ろうってんだからよ。


「大丈夫だよ。危険な感じはしねーからよ」


 不安はあるが、嫌な感じはしねー。考えるな、感じろも騒いでねー。これは、岩さんのときと同じく呼ばれている感じだ。


「ですが……」


「別に連れていっていいんじゃないですか! 指定されてるわけじゃないんですから」


 まあ、そうではあるが、団体でお邪魔するの失礼じゃね?


「あたしはいきます!」


「我々もです!」


 絶対退かぬ! な目をする皆にしょうがないと諦める。好きにしな……。


 宇宙船の主が開けてくれた通路に入る。


 通路はツルツルで継目はない。まるで金属が飴のように溶けて広がった感じだ。


「……不思議ですね……」


 あんた一回入ったやん。


「なにも見えないところを通ったもので」


 機械的なものはないんだ。ナノマシン的なものか?


 通路は長い。なのに壁自体に光があって視界はクリアで、圧迫感はまったくない。と言うか、透明度がよすぎて宙に浮いてる感じだわ。


 百メートルほど進んだろうか、突然、大空間に出た。


 下を見れば水色の玉が敷き詰められていて、上を見ればクラゲみたいのがたくさん揺らめいていた。


「完全に水槽だな」


 そうとしか表現できねーぜ。


「で、その銀色の魚はどこだ?」


 透明度は高いが、中が広いのか主が見えない。


 どこにいるかわからないので、下に敷き詰められた水色の玉を見にいく。


「……卵……?」


 水色の玉は三メートルくらいあり、中には四十センチくらいの卵らしきものが数十個入っていた。


「人魚の、ですかね?」


「人魚は哺乳類だろう」


 いや、哺乳類と分類するかはわからんが、人魚は交尾で交配して、赤ちゃんを生む──と聞いている。さすがに行為を見てねーから知りません。


「方舟だな」


「別の星から来た、ってことですかね?」


「だろうな。ここから旅立つって感じでもねーしな」


 いつからここにあるんだろうな? 感じからして天地崩壊の前からあるみたいだが……。


「マイロード。来ます」


 人魚型のドレミがオレの腕を引っ張って来た。


 周りに目を向けると、なにかこちらに向かって来るのが見えた。


「……確かにデカいな……」


 サイズはマッコウクジラくらいある……え? マンボウ? みたいな銀色の魚だった。


「誰も手を出すなよ」


 敵意はねー。なら、敵対する必要はねーさ。


 銀色のマンボウは、オレたちから三十メートル手前で停止。八つある目をこちらに向けた。


 しかし、なんのリアクションもなし。オレたちを見るだけであった。


「……もしかして、念話で呼びかけてるんですかね?」


「人魚の親玉だからしゃべってくるんだと思ってたぜ」


 皆に纏わせた結界には精神攻撃や魔眼対策したものだ。この水になにが混ざってるかわからんからな。


「レイコさん。なんかあったら霊的なパワーでなんとかしてね」


「幽霊に過度な期待はしないでくださいよ」


 そこは謎の力を引き出してください。


 精神波的な結界をオレだけ解いた。


「……聞こえますか?」


 頭の中に女とも男ともつかない声が響いた。


「ああ。聞こえるよ。ワリーな、遮断してて」


「……遮断。この星の者にそんなことができるのですか……?」


「できるヤツもいればできないヤツもいる。が、オレは特別に入る分類だ。だから記憶を閉じることもできる」


 銀色のマンボウの言葉(念話)からして、記憶を読むことができると見てイイだろう。どうだい?


「……なるほど。特別のようだ……」


「そちらは感情があるんだな」


 驚いた感情が伝わって来た。


「わたしは、エイボルゴの守護者。リ・ガ・アード・フィービー。遠い星から来ました」


「オレはベー。地上の生き物で、人魚に助けを求められてここに来た」


 変な自己紹介だが、ファースト──いや、セカンドコンタクトならこんなもんだろう。いや、知らんけど。

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