第1227話 魚

 しばらくコーヒーを堪能していると、淡水人魚に囲まれてるのに気がついた。


「見世物だな」


 動物園の動物ってこんな感じかね? まあ、気にしなければ気にならないからイイけどよ。


「すまない。すぐに下がらせる」


「これから地上の生き物にも慣れなくちゃならんのだから構わんよ」


 ララさんがいこうとしてるのを止めた。


「地上にはいろんな種族がいて、知らない光景が広がっている。今の内に変化に慣れておくことを勧めるよ」


 オレやミタさんで抵抗力をつけておけ、だ。


「……この地を去ることになるのだろうか……?」


「それは常に覚悟しておかなくちゃ滅びるだけだぜ」


 生まれた土地(いや、水地か?)を離れる辛さや思い入れはわかる。オレだって村を出ていけと言われたら力の限り反抗する。だが、どうしようもないときの覚悟は持っている。でなきゃ家族は守れないからな。


「生き残りたければ先に進まなくちゃならねー。それはどんな種族にも言えることさ」


 命は平等じゃねー。生きたいと思い、行動したヤツだけが持ってイイもんだ。


「なに、水を浄化できる力を持ったあんたらならどこでも受け入れられるさ。地上じゃ水がなけりゃ生きていけないからな」


 この世界でも飲み水を求めて戦いがあった。湖のある国は是非とも来てくれと言うはずさ。


 ……まあ、その前にヤオヨロズの国がいただくがな……。


「オレから助言できるとしたら世界を知れ。じゃないと、あんたらに未来はねーぜ」


 この星の頂点に立つなら生き残れるだろうが、まず、淡水人魚に頂点に立つことはねー。絶対と言えるほどに種として汎用性がなさすぎる。この世界に国際自然保護連合があれば淡水人魚はレッドリストに載るだろうよ。


「我らはベーに従う。だから我らに未来をくれ!」


「それはあんたらの行動次第。オレはなにもしねーヤツを助ける趣味はねー。すがりついて来たら蹴り飛ばしてやるわ」


 オレには共存共栄、ギブアンドテイクが大好きだ。一方的な依存などクソ食らえだ。


 家長さんやララさんは黙ってしまったが、そう簡単に意識改革ができたら種としてステージアップしてるわ。


 まあ、自分たちの未来だ、じっくり考えろ。それが先へといく糧となるんだからよ。


「ベー様。戻りました~」


 と、レイコさんが戻って来た。お帰んなさい。


「どうだった?」


「銀色の大きな魚がいました」


 魚? 水槽だったのか、コレ?


「かなり知能が高そうでわたしの存在に気が付きました」


 知能が高いと幽霊が見えるのか? それは知能じゃなく別の能力じゃね?


「話しでもしたのかい?」


「いえ、なにか話したそうな視線は向けて来ましたが、生憎と意志疎通はできませんでした」


 まあ、魚と幽霊が意志疎通している図ってのも理解できんがよ。


 ……いや、こうして幽霊と意志疎通している時点で理解してるようなもんだけどな……。


「知能が高いとなると、あちらから接触して来そうだな」


「まあ、ベー様ですし」


 なんでオレだからなんだよ。オレ、なんも関係ないじゃん。


「魚の他になにか興味をそそられるものはあったかい?」


「いえ、ほとんどが空洞で水が満たされてました」


 やはり水槽なのか?


 ──ガコン。


 なにかが金属がぶつかる音と振動が結界を揺るがした。


「さっそく接触して来ましたね」


「レイコさん、怒らせてないよね?」


「意志疎通もできなかったのに怒らせるもありませんよ」


 いや、不法侵入してますから、あなた。まあ、オレがいかせたんだけど!


「ベー様。あそこの壁が……」


 ミタさんの言葉に宇宙船に目を向ける。どこや?


「あそこです」


 と、頭をつかまれ、強制的に向けられた。プリッつあんみたいなことしないで! 首がもげるぅ!


 急いで無限鞄からエルクセプルを出して飲み干す。


 ……オレ、エルクセプル中毒になりそうだな……。


「す、すみませんでした!」


 イイよ、もう。


「あれは、入って来い、ってことですかね?」


 壁の一画が開いている。


「だろうな」


 それ以外、どう解釈しろって話だ。


「いくしかねーか」


 無駄な抵抗するだけ無駄。歓迎されてると思ってありがたくお邪魔させてもらおうぜ。


「オレだけいく」


 ミタさんや家長さんたちは来るなよ。


「ですが……」


「大丈夫だよ。嫌な予感はしねーからよ」


 面倒な予感は天元突破してるけどな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る