第1226話 流れ

 巨大な宇宙船を調べるのに時間がかかるだろうから、その場に結界を張り水を抜く。


 さすがに水の中で土魔法は使えないので、結界でテーブルと椅子を創った。


 カイナーズの連中も入れて休ませる。訓練していたとは言え、もう一時間近く潜っている。さすがに疲れて来ただろうよ。


「しばらく休んどけ。ミタさん。なんか出してやって」


 無限鞄を持ってるヤツもいないだろうし、大したもの持って来てねーだろうからな。


「最初からこうすればよかったのでは?」


「まーな。だが、いつまでも妊婦を水ん中にはいさせられんだろう。珍しいものを見せたらこっちのことは忘れんだろう」


 好奇心で動くヤツは新たに現れた好奇心にすぐ目を奪われるからな。


「さすがベー様。経験者は語るですね」


 なにか褒められてる気がしないが、突っ込んでも藪蛇な感じがする。ここはサラリと流しておこう。


「あ、ベー様。トイレって出せますか?」


 魔族も食えば出す生き物。ましてや水の中では近くもなろう。


 前に創ったトイレの腕輪をいくつか出してカイナーズの連中に渡してやる。他人様の家で垂れ流しは迷惑どころか嫌がらせでしかねーよ。


「ありがとうございます」


「好きにしてイイからカイナーズで作らせろ」


 そして、売り出したら買わせていただきます。


 あ、家長さんたちもご一緒にいかが? と誘うと、恐る恐る結界に手を突っ込み、上半身だけを出した。


「そのまま入りな。ちゃんと不自由なく動けるからよ」


 家長さんやララさんには結界を纏わせてある。水の中と同じ──とまではいかないまでもそう不自由はない動きはできるはずだ。


 まず家長さんが入り、続いてララさんさんが入った。


「……あなたは、神なのか……?」


 なんかオレを見る家長さんたちの目が畏怖色に染められていた。


「オレは人だよ。まあ、人とは思えない力は持ってるがな」


 別に力があることは隠す気なねー。が、どんな力かは隠すぜ。オレのプライベートなだからな。


「オレからすれば人魚の魔法のほうが神の力だと思うがな」


 こうして言葉や発音がまったく違うのに、自動翻訳の首輪で当たり前のように会話できてる。これ、とってもスゲーことだからな。


「コンルグランドはなんなのだ?」


「コンルグランド? あれのことかい?」


 宇宙船を指差す。


「ああ。我らの神だ」


 神として受け継がれているのか。まあ、賢い方法だな。神にしとけば下手にいじられることもないからな。


「……そうかい……」


 だったらレイコさんを宇宙船に入れたのは間違いだったかな? ってか、人魚に幽霊とかいるんだろうか? 


「まあ、確証はないし、間違ってるかも知れん。それでもイイかい?」


 この宇宙船──コンルグランドがなんのために造られたかなんて造ったヤツにしかわからねー。宇宙船じゃなく本当に神ってこともあるからな。


「ああ。構わない。実はコンルグランドが水を浄化してくれないのだ。それから水が汚れ、ブランガが実らなくなったのだ」


 実らなくなった、ってことは植物なのかな?


「水が汚れたって、あんたら自身ではできないのかい? 海の人魚はできたが?」


「我らもできるが、ブランガは神の実と言われ、ここの中でしか育たないものなのだ」


 ここの中でしか? 水の中になにか含まれているってことか?


「ミタさん。この中の水は絶対口にするな」


 クソ! 水を疑えよ、オレ! 微生物とかで体を壊すことを知ってんだからよ!


「ですが、シュノーケルしていれば少なからず口にします」


「カイナーズ、こっちへ来い」


 十三人いるカイナーズの連中に腹パンを食らわせ、胃の中のものを吐き出させる。酷いとか言っちゃイヤン。


「吐け! すべて吐け!」


 ナノサイズとかだったら手遅れかも知れんが、そんときは結界で探し出して排除するまで。今は胃に留まっていることを信じて吐かせるまでだ。


 吐いた物はすぐに結界で包んで消滅させる。


「ベー様。サプル様やレニス様は大丈夫なんでしょうか?」


「ああ、大丈夫だ。ちゃんと防いである」


 もちろん、ミタさんにも結界は纏わせてあるよ。家族だからな。


「では、レニス様についていった方々も吐かせたほうがよろしいんでしょうか?」


「そうだな。体に回る前に吐かせたほうがイイかもな」


「ベー様。我々がいきます」


 オレの腹パン食らって動けるとはカイナーズの連中ってスゲーのな。まあ、ピクピクしてるのも何人かいるけど……。


「オレがいくまではサプルやレニスを出させるなよ。あと、地上にも誰かいかせてカイナ呼んで来い。オレじゃ対処しきれんからよ」


 ここは最終兵器にご登場してもらおうじゃねーか。


「わかりました。すぐに呼んで参ります!」


「ああ。頼むよ」


 元気な六人に結界を纏わせ、三三にわかれて地上とフュワール・レワロへと向かった。


「……ベー様……」


「大丈夫。悪い予感はしねーからよ」


 心配そうなミタさんに笑ってみせる。


 これは、厄介事の流れだ。ハァ~。

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