第1217話 ウェットスーツ
なんて言ったものの、これがそう簡単にはいかないだろう。
これが近所付き合いならコミュニケーションを小まめにしたり助け合いしたりとやっていくのだが、種族間で付き合っていくにはそれだけでは足りない。互いの環境を用意しなければならねー。
人同士でも環境の違いでズレが生じるんだから種族間でなんて無理と言ったほうがイイだろう。なら、どうするか?
一番手っ取り早いのは上下関係を築くことだろう。オレとしてはメンドクセーので避けたいところだ。雇用関係ですらメンドクセーことになってるのに、上下関係なんてさらにメンドクセーことになること必至だ。
だが、滅びそうな種族には上下関係に持ち込んだほうが言うことを聞かせやすいし、纏めやすい。それはこれまでの流れが証明している。調整は必要だがな。
……魔王ちゃん、早くカリスマ指導者に育って欲しいぜ……。
不本意ではあるが、それまではオレがやるしかないだろう。オレのスローなライフを守るために、な。
スローなライフになってないんじゃね? とか言っちゃイヤン。オレがスローなライフだと言えばスローなライフなんだよ!
「あんたらの希望を叶えるために、あんたらの住むところを見せてもらえるかい?」
淡水人魚の未来はダーティさんと出会ったときから考えてあるし、環境問題もオレの結界や魔道具でなんとかなる。
オレが気になってるのは淡水人魚の暮らしだ。海の人魚とは絶対暮らしが違う。違うとはわかるのだが、どう違うのかが想像できんのだ。
……想像を絶する暮らしだったらどうしよう……?
「それは構わんが、水の中にどうやって?」
それは問題ナッシングと、結界を纏って湖へとドボーン。家長さんたちはポカーン。なぜか近くで寝そべっていたウパ子(元のサイズです)が飛び込んでザパーン。周辺が阿鼻叫喚となりましたとさ。
「──なにしとんじゃボケー!」
遠くまで押し流されてしまい、やっとのことで水面から顔を出してアホ子に向かって叫んだ。
「あたちも遊ぶでし!」
遊んでんじゃねーよ! 水に入れることを実践したんだよ! とは言えません。無邪気に暴れるアホ子によって大惨事なんですよ! ガボジュボジュボベボフジコ……。
「バカじゃないの?」
と言うのはいつもメルヘンと決まっている。
オレにとってバカは誉め言葉だが、メルヘンから言われるバカだけは受け入れられない。だってメルヘンが言うバカは含まれてる意味が違うんだもの……。
「……酷い目にあったぜ……」
なんかオレ、湖に嫌われてない? クレイン湖でも溺れたしよ。
「で、なにしてるのよ?」
「湖の中へ入ろうと思っただけだ」
それなのに溺れるとか意味わからんわ。結界纏ってたのによ!
服を濡らすとか生まれて初めての経験だわ。つーか、パンツまでずぶ濡れで気持ちワリーぜ。
結界で一瞬で乾かそうとして止めた。視界にウェットスーツを来たカイナーズの連中が入ったからだ。
「ミタさん。ウェットスーツって持ってる?」
「申し訳ありません。所持してません。必要ならすぐに用意します」
「頼むわ」
ウェットスーツは見たことあっても着たことはねー。ちょっと試してみるか。
「畏まりました。カイナーズホームに連絡します」
と、控えるメイドに指示すると、三十分後に二トントラックが団体さんでやって来た。どう連絡したら二トントラックが団体さんで来るんだよ!
「店長が多いほうがよいだろう申しまして」
「あのはっちゃけ店長にガッテム! と伝えておけ!」
二トントラックの代表らしきセイワ族の男に吐き捨ててやる。
「わ、わかりました。伝えておきます」
では、ウェットスーツが入っただろう大量の段ボール箱を降ろして帰っていった。どーすんだよこんなに?
「なんなの、これ? 服?」
段ボール箱を勝手に開けるメルヘンさん。
「カイナーズの方々が着ているもので、水の中に潜るときの服ですかね」
「ふ~ん。そう言うのがあるんだ。でも、羽があると着れないわね」
「着たいのでしたら特注できますよ。カイナーズホームには衣料部もありますから」
本当になんでもありやがるな、カイナーズホームってよ。
「なら、人魚用のを作ってくれや。寒さに耐えられるものをよ」
「それでしたらドライスーツがよろしいですよ」
ドライスーツ? よくわからんが、ミタさんが言うなら反論はねー。マルッとサクッとお任せします。
オレも段ボール箱を開けて好みのをいくつか選び、キャンピングカーへ入って着替え──難いな、ウェットスーツって。なんかコツがあるんだろうが、我には伸縮能力がある。デカくして着てから体に合わせて小さくした。
「それでも動き難いんだな、ウェットスーツって」
あ、こんなときこそプリッつあんの第二の能力。柔堅能力(だったっけ?)で柔らかくした。うん、イイ感じ。
「ってか、足は出したままなのか?」
履くもんねーの?
「マリンシューズがありますよ」
ミタさんに尋ねたらマリンシューズなるものが入った段ボール箱を渡された。そーゆーのがあるんやね。
段ボール箱から好みのを選んで伸縮能力で調整。ピッタリにする。
「フフ。なんかサーファーになった気分」
ちょっと波乗りにいく? なんて姿見の前で気取ってみるが、柄じゃねーな。
肩を竦めてキャンピングカーから出た。
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