第1165話 オレ薬師。覚えてた?

 ゆったりまったりしてたら朝日が昇って来た。


 朝日を見ながらモーニングなコーヒーを飲むのはまた格別である。


「しっかし、うっせーな。夜通し騒いでんのかよ?」


 外はまるで戦場のように騒がしい。いや、戦場に立ったことないから知らんけど。


 まあ、イイ。陽も出たし、朝食にすっか。


 キャンピングカーから出ると、完全武装のメイドさんたちが壁を作っていた。どったの?


「おはようございます、ベー様」


 首を傾げてたらミタさんが現れた。


 ……この万能メイド、いつ寝てんだろう……?


 って思うくらい爽やかである。万能メイド謎多し。


「おはよーさん。もう食えるかい?」


「はい。こちらにお座りください」


 やたら手作り感のあるテーブルにつくと、すぐにスープが出て来た。


「いただきます」


 スープを飲んでいると、パンやジャム各種、サラダに果物、ソーセージやらが所狭しとテーブルに並べられる。オレ、こんなに食えないよ?


 どったの? とミタさんを見たら、なにか一礼して恭しく下がり、武装メイドが銃口を地面に向けた。


 なにごとかと首を傾げていると、大図書館の魔女さんと生命の揺り籠に入った一人がやって来た。


「邪魔をしてよいか?」


「大図書館の魔女を閉ざす扉はありませんよ」


 そのまま裏口から帰ってもらうことはあるかもしれんけど。


「どうぞ。お好きな席に」


 席を勧め、ミタさんが飲み物を二人に出した。


「朝食がまだでしたら、どうぞ。たくさんありますから」


 ミタさん、大図書館の魔女さんが来るのをわかってたのか? 裏での調整とかどうやってんだろうな?


「ありがたくいただこう。野戦食は不味くてしょうがないからな」


「帝都の近くなのに粗食なんですか?」


「一応、軍事行動だからな、贅沢はできん」


「それはご苦労さまです」


 大変だな、軍人ってのも。オレ、村人でよかった。


 村人の優雅な朝食。オレは今、生まれて来た幸せを感じています。


 なにか大図書館の魔女さんたちから非難の目を向けられているが、オレも幸せはそんなものでは崩れたりはせんのだよ。ククッ。


 嬉しい楽しい朝食をいただき、食後のコーヒーを一杯。今日もまた一日を生きられる力をいただきました~。


「で、なにか用ですか?」


 朝食をご相伴しに来たわけじゃあるまい。まあ、ご相伴しに来たら来たで別に構わんけどよ。


「フュワール・レワロをしばらく貸して欲しい」


「譲ってくれ、とは言わないんですね」


「譲れるものではあるまい」


「後先考えないのなら譲ることはできますよ」


 その際、責任はそちらにあるのであしからず。


「手に負えんものを無理矢理手に入れても身を滅ぼすだけだ。借りるのがよい」


「賢い判断です」


 自分のものは管理が大変。必要なときに借りるのが楽でイイ。まあ、他人任せの丸投げ野郎が言っちゃダメなセリフだけど。


「借りれるか?」


「構いませんよ。放置してるものですから」


 元々閣下を釣るためのエサ。有効利用できるなら譲るのも貸すのもどっちでもイイわ。


「助かる。礼はする」


「では、帝都で商売できるよう手助けしてください。来年辺り、帝都に店を出す予定なので」


 公爵どのの力でも充分だろうが、皇族の力があるんならそれに越したことはねー。権力はあって邪魔になるもんじゃねーからな。


 ……借りれる権力のなんと便利なことよ。やりたい放題無限大だせ……。


「それでよいのか?」


「それでお願いします」


 使ってないフュワール・レワロを貸すだけで後ろ盾が得られるとか笑いが止まらんわ。


「わかった。話を通しておこう」


「ありがとうございます。ところで、なにを騒いでいるんです? なにか阿鼻叫喚なんですが?」


 血がー! とか、腕がー! とか、死ぬなー! とか、なんの最前線だよ? とか突っ込みたくなる。爽やかな朝に血生臭いこと止めて欲しいわ。


「あ、ミタさん。コーヒーお代わり」


「……お主はどんな世界で育って来たのだ……?」


 どこにでもある辺境の村ですが、なにか?


 まあ、ちょっと生態系を壊しちゃったり、自然破壊しちゃったりもしましたけどね。テへヘ☆


「烈火竜を狩れたのだ」


「烈火竜? あ、あの熱線を吐く竜ですか?」


 いたな。そんなの。殲滅技が一つ、結界斬を食らわしても死ななかったっけ。あれを倒すとかスゲーな、帝国軍って。


「ああ。怪我人続出だ。治癒師が足りず困っておるわ」


「魔女は治癒術は使えないので?」


「いるが、管轄が違う」


 縦割りか! 魔女(って公務員か?)はコエーな!


「薬は?」


「怪我人続出で不足している」


 だったら撤退しろよ。帝国軍ブラックか?


「だったらわたしが協力しても構いませんか? わたし、薬師なんで」


「その歳でか?」


「五歳からやってるので並程度にはできますよ」


 最近、やってないから鈍ってはいると思う。せっかく怪我人続出なら練習させてもらおう。オレの血肉(経験ね)となるがイイ。


「なら、頼む」


 薬師、ヴィベルファクフィニー、いきまーす!

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